ドイツにおける失業率は、8.6%。そのうち23%が、1年以上の長期失業状態にあります。失業者に限らず公的な保障を受けている人は、800万人を超えており(1年未満の失業者は含まず)、貧困は、ドイツ社会の深刻な問題となっています。貧困家庭の光熱費は、社会保障の一環として自治体が補助していますが、近年のエネルギー価格上昇に対応できているとは言いがたく、多くの家庭が、「エネルギー貧困」にあります。
このような状況を改善すべく、2005年12月、福祉団体のカリタス・フランクフルト支部とフランクフルト市環境局エネルギー課は協働で、雇用促進プロジェクト「省エネルギーサービス」を始めました。
これは、1年以上長期失業状態にある人々を「省エネルギー相談員」として養成し、貧困家庭への無料アドバイスを提供するというものです。カリタスのイニシアティブのもと、プロジェクトには日本のハローワークに相当するライン・マイン・ジョブセンター、フランクフルト市社会局及び環境局、地元のエネルギー企業「Mainova」が、参加しています。
省エネルギー相談員になるには、技術や販売、コンサルティングの分野で仕事をした経験が必要です。さらに、家庭訪問によるアドバイス提供という業務には信頼感や経験が重要であるため、45歳から55歳であることがもうひとつの条件となります。
まずは、省エネルギー分野の専門知識やコミュニケーション手法について、70時間の研修を受けます。研修を受けた相談員は2人1組になって家庭訪問し、エネルギーや水消費、家電の利用状況などを分析。エネルギー効率改善のお手伝いをします。
訪問対象となる家庭は、長期失業者や難民登録者、低所得者世帯など。相談員の訪問は無料で、最終的には、協賛企業から提供を受けた省エネ機器を受け取り、相談員がそれらの設置を助けます。
カリタス・フランクフルト支部でプロジェクトの指揮を取るポットフさんは、「貧困家庭は、エネルギー効率の高い機器に買い替えるお金がなく、古い家電製品を使っていることが多いのが特徴。また、家庭での省エネ知識が限られていることが多い。カリタスの省エネルギー相談員は自らも貧困家庭で暮らしているため、訪問先の家庭の状況を正確に分析できることが利点」と話します。
2008年12月から2009年12月の13ヶ月間に行われた653世帯への訪問により、一世帯平均で年間、電力約1万5千円、水5千円、暖房用エネルギー2千円【1】が節約でき、さらに各家庭が達成したCO2削減量は、329kgになりました。各世帯に、無料で設置された省エネルギー機器は約6360円分で、一世帯あたり平均で、省エネルギーランプ8個、タイマーコンセント1個、節水キャップ1個などが導入されました。
フランクフルト市内には、エネルギー相談員の訪問を受ける権利を持つ世帯【2】が約1万8000あります。2005年のプロジェクト開始以降、既に約1500世帯への訪問が実現しており、家庭部門における温暖化対策にも大きな効果をもたらしています。
プロジェクト実行に掛かる費用は、雇用促進対策として、フランクフルト市が出資し、更さらに数多くの民間企業が支援しています。
このプロジェクトは、次の4つの目的を達成しているとして、高い評価を受けています。
ドイツ大統領賞やマネジメント賞など、多方面で高い評価を受けたこのプロジェクト。連邦環境省の支援を受けてドイツ全国で取り組める体系的なプログラムに整備され、今では80箇所以上の自治体で実施されています。
(取材協力・写真提供:社団法人 カリタス フランクフルト支部)
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