今回も引き続き、私がWIRESの活動を通じて実際に救助した動物たちについて、ご紹介させていただきたいと思います。これまで数多くの動物たちの救助に関わってきましたが、中には悲しい結末も待っていました。
固有種の野鳥がたくさん生息するオーストラリアですが、中でも特徴的なのは、カラフルなオウムやインコが多いことです。日本でペットとして人気があるコッカトゥー(和名:キバタン)やガラー(和名:モモイロインコ)も、シドニー近郊の住宅地で普通に見ることができます。ですから、こうした大型鳥類の救助ももちろんあります。
キバタン保護の依頼は、ちょっと変わっていました。地面をずっと歩き回っているキバタンがいておかしいと、既に動物病院に運び込まれていたのですが、別の病院への移送依頼がWIRESに舞い込んできたのです。とりあえず、該当の動物病院へ向かい話を聞くと、どうやら飛べないらしいが、その病院は犬猫専門で鳥はよくわからないため、鳥専門医に診てもらってほしいというのです。
まずは、キバタンを自分のバスケットへ移動させなければなりません。病院のスタッフの女の子は、普段慣れない鳥が怖いようで、「タオルを持ってくるからやって」と、投げ出す始末。動物病院にも得手不得手があるのだなぁと実感した瞬間でした。とりあえず、指示を受けた鳥専門病院へ。先生がざっと検診したところ、どこも怪我はなく、異常は見当たらないとのこと。飛べない原因がわからないので、様子をみましょうということになりました。
我が家の近所でポッサムが倒れているので、救助してきてほしいとの依頼を受け、現場へ。ポッサムは、猫くらいの大きさの有袋類で、我が家にも毎晩やってきます。現場に到着すると、ポッサムはぐったりと顔を地面に付けたまま、死んでいるのかも?と思うほど、まったく動きません。発見者の家主によれば、「右目のところを怪我していて、かなり酷い。でも、私が出してあげたキャットフードを食べていたの」とのこと。たしかにキャットフードは減っています。「たぶん昨夜か今朝も食べていたと思う」というので、これは、まだ助かるかもしれないと、急いで抱き上げてバスケットに入れ、病院へと運びます。病院に着くと、バスケットごと先生に渡し、そのまま診療、入院となりました。
なお、救助したキバタンとポッサムが、その後どうなったか、救助者(この場合は私)に知らされることはありません。あくまでも野生の個体であり、たまたま私が救助の一場面に携わっただけで、この活動では、生死を見届ける任務は負っていないのです。
とても神経質で、人間に懐きにくく、すぐに逃げてしまう小さな有袋類バンディクート。救助依頼を割り振るコールセンターのオペレーターは、救助対象はまだ赤ちゃんなので、「very special=非常に特別」な対処が必要だと、念を押して状況を説明してくれました。
現場は、民家の庭に置いてある家型の子ども用遊具でした。中を覗くと隅のほうに小さなバンディクートがうずくまっています。体長は約15cm弱、だいたい成獣の半分程度です。バンディクートは目を閉じ、発見者である家主のおじさんが置いてくれた水の容器にもたれかかるような感じで、ぐったりと横たわっています。見たところ、お尻から右足にかけて広範囲の毛がざっくりとなくなって、肌が露出しています。少し肉も見えているのか、赤く見える部分もありました。化膿している臭いも発していて、かなり重症のようです。
私が屈んで中へ入り、保護するためにそっとタオルをかけると、びっくりして、2?3歩ぴょんと跳ねましたが、すぐに抱き上げることができました。とにかく、病院へ急行です。病院は、車で3分ほどのところなのに、信号に引っかかったりして、ちょっとイライラ。その間、バンディクートに向かって「大丈夫だよ。もうすぐ病院だから、頑張うね」と声を掛け続けていました。
病院では少し待たされましたが、数十分後には診察してもらうことができました。しかし、先生の判断は……。
「かなり重症だから、治癒は難しいと思う。治療に時間がかる場合、野生の子はストレスも大きい。かわいそうだけど、このまま眠らせるほうがいいと思う」
先生はそういって、バンディクートを連れて奥の部屋へ入っていきました。
安楽死――。
その言葉で、頭の中は真っ白になりました。帰りの車の中で思い出される小さなバンディクートの姿。バスケットの中でうずくまりながら、開いた小さな瞳が「生きたい」と言っていたような気がして、胸がキューっと痛くなったほどです。そして時間を追うごとに、後から後から涙があふれてきて、しばらく止まりませんでした。
助けることができた喜びと、助けられなかった悲しみ。どちらもしっかりと受け止めていかなければ、野生動物レスキューは務まらないのだと実感したエピソードでした。
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