オーストラリアでは固有の自然とそこに生息する生き物たちを守るために、該当エリアを保護区に指定し、簡単に開発できないようにすることがあります。保護区には、地方自治体が定めるリザーブ、州政府が定めるステイト・パーク(州立公園)、そして国が定めるナショナル・パーク(国立公園)などがあります。
オーストラリア北部のトップエンドと呼ばれる区域には、1940年代から採掘されてきたウラン鉱山がいくつもあります。鉱山開発に当たり、森林や湿原が破壊されてきました。開発が進むにつれ、様々な生き物達たちの棲家が奪われていったのです。
しかし1960年代に入り、様々な調査から、この区域の自然が他では見られない貴重なものであり、生き物たちもその場所のみに生息する希少種が多いということがわかってくると、それらを保護しようという意識が国民の中で高まりました。そこで、該当地区一帯を国立公園とすることで、さらなる開発を防ごうという案が提唱され始めたのです。
まず、オーストラリアの固有種を守る目的で、1975年に野生生物保護法が成立。この法案の成立を受けて、1979年にとりわけ貴重な自然と生き物たちが多く生息するエリアであるトップエンドのカカドゥ地区が国立公園に指定されました。この地区は、翌年にはラムサール条約の登録湿原にもなりました。
カカドゥ地区が国立公園になっても、ウランの掘削は続きました。それは、既に操業されていたウラン鉱山と主なウラン埋蔵地を避けた形で保護区指定がなされたためです。
しかし、本来なら国立公園の一部となるべきナバレク・ウラン鉱山には、非常に限られた場所のみに生息する最小種のワラビー「ナバレク・ロック・ワラビー」をはじめとする希少な生き物たちが生息していました。少し先の森林地区は国立公園として保護されていながら、ナバレク・ロック・ワラビーの棲家である岩場地区は鉱山があるため保護されない、という状態になっていたのです。
オーストラリア政府は、世界中を探しても他に類を見ない貴重な自然と生物を保護する、という観点から、カカドゥ国立公園を世界遺産として申請することを決定。1981年、正式に登録されました。
世界遺産への登録を受け、鉱山区域の再考がなされ、1988年に絶滅が危惧されるナバレク・ロック・ワラビーの生息域であるウラン鉱山を閉鎖。周辺環境を元通りに戻すリハビリテーション(環境修復)が行われることになったのです。
ナバレク・ウラン鉱山周辺の環境は、1995年に完全修復されたと宣言されましたが、個体数が激減してしまったナバレク・ロック・ワラビーは、現在も正確な個体数もわからず、絶滅危惧がぬぐえないまま、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに入れられています。
カカドゥ地区のウラン鉱山(CC BY 2.0, Alberto Otero Garc)
カカドゥ地区で開発操業されたウラン鉱山のうち、レンジャー鉱山だけはまだ操業が続けられています。また、開発されていないウラン埋蔵地もいくつかありますが、国立公園に隣接するクーンガラは、昨年6月に世界遺産への編入が決定し、実質的に開発不可能となりました。
ウラン鉱山開発の反対と保護区への組み入れは、土地の伝統的所有者であるアボリジニ部族による訴えが大きく、政府のこのような変化は、長い年月を経て彼らが勝ち取った勝利といえます。
豊かな自然と動物たちが棲む場所を国立公園に指定し、保護区として開発を不可能にする、そして世界遺産として保護しようとするオーストラリア。その姿勢は素晴らしいものです。その一方で、一度壊されてしまった自然は簡単には元に戻りません。動物たちにとって棲みにくくなった環境は、そう簡単には修復できない…ということを、私たちは肝に命ずる必要があるのではないでしょうか。
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