世界一小さなリトルペンギン【1】は、オーストラリア南東部が主な生息域です。シドニー沿岸部にも生息していますが、人口増加と反比例するように、個体数は激減。私自身は、一度だけ救助したことがありますが、シドニーのペンギンの数は危機的状況で、人間との共存はなかなか大変だと痛感します。
そんな中、人間とペンギンの共存を目指して地道な活動を続けることで、個体数を大きく増加させ、さらには観光へと繋げている島があります。今回は、ビクトリア州へと足を延ばし、人間とペンギン、そして、コアラ、野鳥などのあらゆる野生動物との共存のために尽力しているフィリップ島の活動を体験してきました。
人間が暮らす場所にあるリトルペンギンの営巣地としては、国内最大級のフィリップ島南西部サマーランド半島。この半島は、1920年代に宅地開発がなされ、1985年には、183戸の住宅とモーテルなどが建ちました。人口が増え始めた頃から、島に多くのペンギンが生息していることが知れ渡り、大勢の見物客が訪れるようになりました。とくに、日没と共に海から餌を採って戻ってくるペンギンたちが、パレードのように列をなして砂浜を歩く様子が人気となり、「ペンギンパレード」として、一大観光名所となったのです。
しかし、人口と観光客の増加に反するように、ペンギンの個体数はどんどん減っていきました。それは、住宅で火災が起きたり、住民が飼っていたペットやキツネに襲われたり、交通量の増加によって事故が頻発したりしたのが主な原因だそうですが、中にはアジア系の移民がペンギンの卵を採って食べてしまっていたケースもあったそうです。こうした状況を懸念したビクトリア州政府は、ペンギン保護のためにサマーランド半島の買い戻しを始め、2010年までにすべての建物が撤去されました。現在は、自然環境の復元作業が行われています。
建物が一掃されたサマーランド半島一帯は、自然公園となっています。有名なペンギンパレードは、NPOとして運営するフィリップ島自然公園事務局【2】が管理し、現在も世界中の観光客を受け入れています。
そんな華やかな観光事業の裏で、サマーランド半島をペンギンたちが棲みやすい元通りの環境に戻すため、レンジャーたちが、たゆまぬ努力を続けています。まず、最初にやったのは、更地になった住宅地から、住民らが持ち込んだ外来種の植物を取り除き、本来この地に生育していた植物を植えること。植えるのは、樹木だけでなく、雑草のような小さな草ひとつまで、島内の種苗場で増やし、すべて固有のものを植えていきます。そして、ペンギンを外敵から守る巣箱を設置。ペンギンたちが島へと帰ってくる日没から日の出までは、半島内の道路はすべて閉鎖し、交通事故に遭うのを防いでいます。
また、島内で野生化したキツネや猫の駆除も重要です。元々は、ハンティングのために持ち込まれたキツネが野生化し、ペンギンをはじめとする野生動物たちにとって大きな脅威となっていましたが、2名の常駐ハンターが駆除を続け、今はかなり減ったそうです。しかし、その反対に、観光客や一時滞在者が持ち込むペットの猫が逃げだし、野生化するケースが増え、深刻化しているとか。というのも、夏のシーズン中は、島人口が通常の3倍以上になることもあるのだそうです。現在は、猫を捕獲するための罠が島内2,000ヶ所に仕掛けられています。
ペンギンやコアラなど、島内のあらゆる野生動物との共存には、動物たちが棲みやすい環境の維持が欠かせません。レンジャーたちは、ビーチや森に足を運び、外来植物の除去や新たに植えた固有種の育成状況の観察と手入れ、また、野生動物と野鳥の種類や個体数の調査も常に行っています。コアラは、保護センターを造って個体数の維持に努めていますが、これは同時に観光スポットとしても島の重要な観光資源になっています。
また、野生動物たちが傷ついた時にも、すぐに対処できるよう、動物病院を完備。野生に戻すまでの間、獣医とケアラーによる最善のケアが受けられる仕組みになっています。こうした様々な努力の結果、島内の自然環境と野生動物の個体数は回復しつつあり、ペンギンについては、1980年代半ばには約1万2千羽まで落ち込んだのが、現在では約3万2千羽まで回復しました。
そして、自然があるべき姿になっていくことで、野鳥もたくさん戻ってきたそうです。今では、ラムサール条約に登録された浅瀬の海峡や湿地帯などに集まる鳥たちを目当てに、世界中のバードウォッチャーが訪れるようになり、2013年9月からは、バードウォッチングツアーも始まりました。また、植林や除草、野生動物保護などの活動を手伝うボランティアプログラム【3】も実施され、世界各国から環境と野生動物保護に興味のある人々を受入れています。
このように、従来では難しいとされてきた野生動物との共存をうまくマネジメントし、さらには観光へと繋げているフィリップ島。まさに、エコツーリズムのお手本のような島といえます。人間と野生動物、自然環境の維持保全について、私たちは、この島の活動から学ぶところがたくさんありそうです。
執筆者です。感想ありがとうございます。キツネは外来種のため殺処分ですが、猫は飼い猫であるケースがほとんどなので、わかる限り飼い主の元へ戻します。オーストラリアでは、ペットには全個体にマイクロチップの装着が義務付けられています。
(2014.03.04)
凄く立派な取り組みだとはおもいますが、猫や狐を殺処分するのではなく、別に保護する取り組みが、行われたら凄く感激したと思います。人間の過ちの為いつも犠牲になるのは、動物悲しくなります。ソチオリンピックでも、野良犬を、殺処分したとか。野良犬はゴミ同然だと言う記事をみて、ロシアもたいした国ではないなと思いました。ガンジーのその国の良さを見るには動物へのあり方見れば解るという言葉が、胸にしみます。
(2014.02.18)
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