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「オーストラリアの野生動物保護」バックナンバー

0032012.09.11UP宅地開発や道路拡張で棲家を奪われる動物たち

いなくなったコアラ

住宅がどんどん増えるシドニー郊外
住宅がどんどん増えるシドニー郊外

 シドニーは都会というイメージが強いと思いますが、車でほんの30分も走ると、鬱蒼とした森が広がる国立公園も隣接しています。そうした場所に接して住宅地が広がるため、まちの中 にも野生動物がたくさん生息しています。しかし、近年は人口増加に伴う宅地開発や道路拡張が進んで、動物たちの棲む場所がどんどん狭められています。

 シドニー市内中心部から車で40分ほどの海沿いの住宅地は、国立公園の森がすぐそばまで迫り、かつてはコアラの営巣地として、たくさんのコアラが生息していました。
 しかし、人口が増え始め、シドニー中心部への通勤圏として町が拡大すると、それまで森や牧草地だったところにまで住宅が立ち並ぶようになり、人口の増加と反比例するように、コアラの個体数が激減。昨年行われた調査では、ついに一頭も確認されませんでした。住宅地には、今も「コアラに注意」の看板だけが寂しく残されています。

夜行性のため、夕方から活動を始めるコアラ
夜行性のため、夕方から
活動を始めるコアラ

コアラ注意の看板
コアラ注意の看板

道路拡張で増える野生動物たちの交通事故

国立公園を分断して作られた道路
国立公園を分断して作られた道路

太い綱を渡した「動物用のハイウェイ」
太い綱を渡した「動物用のハイウェイ」

 宅地が開発されていくと、新しく道路が作られたり、道幅の拡張工事が行われたりします。人間にとっては便利になりますが、野生動物たちにとっては、棲む場所を狭められるだけではありません。それまでは森の木々をつたって移動できていた場所が、道路が作られることで分断され、道路を渡らなくては移動できなくなってしまうのです。
 交通量が多くなればなるほど、道路を横断する際の危険が高まります。道幅が広くなればなるほど、長い距離を横断せざるをえなくなり、交通事故に遭う確率も一層高まります。一般道路における野生動物の事故は年々増え続けており、自治体は様々な対策を行っていますが、なかなか思うようにはいかないようです。
 現在、自治体が行っている対策は主に2つあります。1つは、野生動物が多く棲む場所を通り抜ける道路の両脇にフェンスを作ること。2つめは、森を分断している道路では、道の両脇に立つ木と木をつなぐ「動物用のハイウェイ 」を作ることです。

 「動物用のハイウェイ」というものがなかなか想像しにくいと思いますが、簡単に言えば、道路の両端の木と木を太い綱でつなぎ、木々をつたって移動するポッサムなどの動物たちが綱渡りのようにつたっていけるようにしたものです。場所によっては、落ちないように土管状の囲いをつけてあるものもあります。しかし、動物たちが必ずしもそれを使ってくれるとは限らず、またフェンスも完全にカバーすることはできないなど、根本的な解決には至っていません。

交通事故でも放置してはいけない、そのわけは?

夜行性の有袋類ポッサム
夜行性の有袋類ポッサム

夜間に事故に遭い死亡したカンガルー
夜間に事故に遭い死亡したカンガルー

 オーストラリアの野生動物は、ほとんどが夜行性なので、道路での飛び出し事故は夜間から早朝にかけて起こります。自分が交通事故を起こしてしまっても、また起きたばかりの現場に遭遇しても、真っ暗な森の中だったりするため、そのまま立ち去ってしまいたいところですが、放置せずにしなければいけないことがあります。
 それは、オスかメスの確認。そして、メスであれば、お腹に赤ちゃんがいるかどうかを確認することです。オーストラリアの野生動物は、生息する固有哺乳類全体の60%以上が「有袋類」です。有袋類は、メスが子を自分の袋の中で育てる動物ですが、母体が交通事故で死んでしまったとしても、袋の中の赤ちゃんは生きている確率が高いのです。

 これは、人間も含めた有胎盤類にはありえないことです。体内の子宮で子を育てる有胎盤類の場合は、母体とお腹の赤ちゃんは繋がっているため、母体が死亡すると必然的に赤ちゃんへの供給がすべて途絶え、死に至ります。しかし、未熟児の状態でお腹の袋に移動し、別の個体として乳だけを母体からもらっている有袋類の場合は、飢え死にするほどの長い時間放置されるのでなければ、母体が死亡しても袋の中で生きている可能性があります。
 こうした、有袋類ならではの特徴を住民たちが知っていることは、とても重要なことです。野生動物保護団体の講習会やイベントでは、そうしたことも教えているため、交通事故で死亡した母体の袋から救助された孤児の野生動物たちがたくさんいます。救助された孤児たちは、保護団体に引き取られ、「ケアラー」と呼ばれる野生動物の介護資格を持つボランティアによって世話をされ、大きくなると野生に帰されます。


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