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「オーストラリアの野生動物保護」バックナンバー

0062013.05.14UP野生動物を絶滅に追いやる外来種・2-人間が生態系に及ぼす悪影響-

 人間が持ち込んだ本来そこにはいないはずの動物たちが定着すると、その土地の固有種である動物たちが追いやられ、生態系に悪影響を及ぼします。

害虫対策として持ち込まれたヒキガエル

 オーストラリアでは、農業の保護に力を入れており、過度な農薬の使用を禁止しています。農薬をできる限り使わずに害虫を駆除する方法を模索するのは、すばらしいことですが、それが逆効果になってしまうこともあります。
 今から70年以上前、サトウキビ畑に大量発生した害虫(バッタ類)を駆除するために、南米原産でバッタ類を主食とするケイントードという体長15?30センチのオオヒキガエルが持ち込まれました。しかし、このカエルは固有の生態系を破壊し、今や大問題となっています。そのうえ、害虫のバッタ類を捕食せずに、別の種類のバッタや蝉などを好んで捕食してしまい、害虫対策にまったく役立たないどころか、オーストラリアの環境にすっかり馴染んで、爆発的に増え続けているのです。

温暖なクイーンズランド州沿岸部に延びるサトウキビ畑
温暖なクイーンズランド州沿岸部に延びるサトウキビ畑

猛毒をもつ南米原産のケイントード(オオヒキガエル)写真:クイーンズランド州環境課
猛毒をもつ南米原産のケイントード(オオヒキガエル)写真:クイーンズランド州環境課


ケイントード繁殖分布図。茶色のラインまでは2008年に繁殖を確認。緑色の部分は、推定される生息適地分布。出典:オーストラリア環境省
ケイントード繁殖分布図。茶色のラインまでは2008年に繁殖を確認。緑色の部分は、推定される生息適地分布。出典:オーストラリア環境省

 最初は、大陸の北東部に位置するクイーンズランド州の一部に放たれた、たった百数匹が、生息域を一年に40?60km2のスピードで拡大しています。一匹の雌ガエルが最大3,500個ほど産卵するため、現在の生息数は数億匹ともいわれています。本来は暖かい気候を好むそうですが、今では寒さにも適応し、数年前にシドニーでも生息が確認されました。大陸の沿岸部を覆いつくすように生息域をどんどん拡大し、西オーストラリア州の北西部へと到達する勢いです。

ケイントードの猛毒が問題に

ケイントードに生息域を脅かされているエリマキトカゲ
ケイントードに生息域を脅かされているエリマキトカゲ

ケイントードを捕食し、その毒によって個体数が激減している肉食有袋類スポテッド・テール・クオル(和名:オオフクロネコ)
ケイントードを捕食し、その毒によって個体数が激減している肉食有袋類スポテッド・テール・クオル(和名:オオフクロネコ)

 ケイントードが大繁殖することで危惧されているのは、このカエルが持つ猛毒にあります。肉食や雑食性の野生動物が捕食し、死んでしまうケースが後を絶たないのです。中には個体数が激減し、絶滅の危機に瀕している種も出てきています。昔、日本でも人気になったエリマキトカゲも、ケイントードと食性が似ているために生息域を脅かされ、このままでいくと個体数が減ってしまうのではと危惧されています。

 ケイントードによって危害が及ぶのは、野生動物ばかりではありません。人間が知らずに触り、毒がついた手で目をこすってしまうと失明することもあります。また、毒が口に入って腹痛や嘔吐、重症になると心臓麻痺を起こすこともあるそうです。これまでに死者は出ていませんが、自治体や環境保護団体は、特に子どもが無暗に触らないように注意を呼びかけています。

 ケイントードは人間が持ち込まなければ、オーストラリア大陸には存在しなかった生き物です。農作物を守ろうと、害虫対策として放った外来種が、その役割を果たさないどころか、その土地に生息していた生き物たちを絶滅に追いやってしまっているのが現状です。人間の浅はかな考えによる安易な行動が、本来の生態系に悪影響を及ぼし、さらには自分たち人間にとっても脅威となっています。


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このレポートへの感想

面白い
(2022.01.28)

オーストラリアの考え方を見習おうと来てみたが
よくよく自爆してるみたいだね・・・><
(2017.03.29)

クイーンズランドにはどこでもいるケーントッド(こう呼ばれてます)は、雨が降ろうものなら道にわさわさ出てきて、車によく轢かれてます。住民も困っていて、何とかならないものか思案し、皮が丈夫なのでストラップにしたり、ブレスレットにしたりと土産物に使ったりしています。カンガルーも増えれば間引きする(今、反対運動も盛ん)。人間のエゴで動物は増減されるのですね。
(2013.06.13)

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