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「ドイツ黒い森地方の地域創生と持続可能性」バックナンバー

0142022.10.04UPバイオ炭

太古の昔から人類が使用していたバイオ炭のルネッサンス

バイオ炭@C.Hohlweg

 近年、ヨーロッパで大きな注目を集めている「バイオ炭」。炭素固定、土壌改良、有害物質汚染抑止、畜産における消臭の効果があり、2020年末には、EUのビオ農業(有機認証農業)において、バイオ炭の土壌改良剤としての使用が許可された。

 日本においても注目され始めているバイオ炭であるが、実は、アジアや南米などで、人類が太古の昔から使用してきた。

 現代におけるバイオ炭ルネッサンスの発端は、ブラジルのアマゾン川流域の奥地の痩せた土地で、過去の原住民がバイオ炭を活用して豊かな土壌を作り、生産性の高い農業を行っていたことが、民俗学の調査で発見されたことだ。この土は、テラ・プレタ(黒い土)と名付けられ、2000年代になってから、バイオ炭の効能が、科学的に解明されてきた。

 本稿では、バイオ炭に関して、ミミズを指標にした実地研究の結果と、業界の関連する知見を併せて紹介したい。


バイオ炭の製造とCO2収支

熱分解式の窯でバイオ炭の製造@C.Hohlweg

 バイオ炭は、木や稲穂など植物性の原料を無酸素(低酸素)状態で高熱分解して生成した炭だ。バーベキューや炭火焼きに使う木炭と、基本的な製造原理は同じである(ただし厳密には、燃焼用の炭と土壌改良剤としての炭では、求められる品質が異なるので、細かな製法の違いがある)。

 焚き火や暖炉、薪ストーブ、薪やチップのボイラーなどによる酸素燃焼であれば、植物が成長過程で空気から固定した炭素のほぼ全てが再び空気中に放出される(=CO2ニュートラル)が、炭の生成における無酸素(低炭素)の熱分解(=「蒸し焼き」)では、炭素の約半分が炭に固定される。炭は、バーベキューや炭火焼きで燃やしてしまえば、CO2収支で焚き火や暖炉と同じになってしまうが、土壌の中に埋め込めば、1000年ほど炭素が固定されることが、考古学の調査でわかっている。


アクティブな生物学博士

試験地で土壌を準備するホールヴェーク博士@C.Holweg

 先月、ドイツ・フライブルク市を拠点にバイオ炭の研究をしているカローラ・ホールヴェーク(Carola Hohlweg)博士とお会いして、彼女のここ10年余りの研究のエッセンスを聞いた。

 ホールヴェーク博士は私と同じフライブルク大学森林学部の出身で、先輩にあたる。ディプローム課程修了後は、フライブルク大学とカールスルーへ大学の生物学/植物学の研究室で研究者として10年ほど働き、その間に博士号を取得している。2009年以降は「研究室から社会に出て、実践的な研究をしたい」と独立し、フリーランスの研究者として活躍している。


ホールヴェーク博士が技術者と共同開発した小型の熱分解式バイオ炭製造機@C.Hohlweg

 ホールヴェーク博士は過去10年間で、地域の都市公社などの研究助成金を得て、バイオ炭について、幾つもの実地研究を行なってきた。

 「バイオ炭に関しては、実験室でのデータはたくさんあるけど、農地での実地研究は少ない」と彼女は言う。

 土壌活性化の効果を調べるためにミミズを指標にした実験や、家畜の糞尿にバイオ炭を投入して消臭効果を測る調査、ワイン農家の葡萄畑におけるバイオ炭による硝酸塩の地下水汚染抑制効果の研究、技術者と一緒に小さな農家のための小型バイオ炭製造機の開発も行なっている。

 「バイオ炭を作ったり使ったりするのは、熱いし、煙が出るし、汗をかいて汚れる、ということを覚悟しないといけない」と実践的でアクティブな生物学博士は、苦笑いしながら話してくれた。


土壌活性剤としてのバイオ炭「ミミズの数でその効果を調べる」

 バイオ炭自体は、直接的には肥料としての効果はないが、間接的に土壌の活性化を促す。超多孔質性による大きな表面積(1gの木炭で数百m2)のおかげで、土壌の保水能力を著しく高め、酸素保有量を増やすのだ。それにより小動物や微生物が増加し、腐葉土が生成される。土壌は侵食にも強くなり、豊かになって農産物の生産性も高まる。

 ホールヴェーク博士は、豊かな土壌の指標であり、土壌の性質の変化に敏感に反応するミミズの生息数をカウントすることで、バイオ炭の効果を調べた。

 何もしない土壌、鉱物肥料を加えた土壌、バイオ炭を加えた土壌、バイオ炭とコンポスト土を加えた土壌、バイオ炭と発酵飼料カス(サイレージ)を加えた土壌を準備した。なおバイオ炭は、湿ったマテリアルの炭化を行うのに使われるHTC(Hydrothermal Carbonization 過熱蒸気式炭化)方式により中温製造されたものと、乾燥したマテリアルの炭化を行う熱分解(Pyrolysis)式により高温製造されたものの2種類を使って比較した。

 興味深い結果が出ている。

 何もしない土壌と鉱物肥料を入れた土壌では、10週間後の調査ではミミズの数にほとんど違いが見られず、15ヶ月後になって鉱物肥料を入れた土壌でミミズの数の若干の減少が確認された。

 バイオ炭だけを入れた土壌では、HTC式、熱分解式の両方のバイオ炭で、10週間後には、何もしない土壌、鉱物肥料を入れた土壌に比べて、2割から3割くらいミミズの数が少なかった。HTC式製造のバイオ炭とコンポストの混合物が入れられた土壌と、HTC式製造のバイオ炭と発酵飼料カスが入れられた土壌でも、同様だった。

 ところが、15ヶ月後の調査では、ミミズの数はいずれも、何もしない土壌及び鉱物肥料の土壌と同じレベル増えている。

8タイプの土壌でのミミズの数。 赤色棒は10週間後、水色棒は15ヶ月後。

 この現象はこう説明できる。大きな吸水・保水能力があるバイオ炭が、土壌投入後に水と一緒に土壌の栄養分を飽和するまで吸収することで土壌の栄養の質を一時的に落とし、しかし飽和した後は土壌活性剤として機能している。

 熱分解式製造のバイオ炭とコンポストの混合物を投入した土壌では、ミミズの数は10週間後の調査では何もしない土壌及び鉱物肥料を入れた土壌と同じくらいであったが、15ヶ月後になると増加している傾向が伺えた。

 もっとも高い土壌活性化効果を示したのは、熱分解式製造のバイオ炭と発酵飼料を投入した土壌である。10週間後の調査でミミズの数が、他よりも明らかに多かった。ただしこれは、「この場所が隣のトウモロコシ畑によって日陰になっていて、土壌が他より湿った傾向にあり、ミミズにとってより良い生育環境であることが影響しているとも考えられる」と論文には書かれている。15ヶ月後の調査では、他と同じレベルに戻っている。

 ホールヴェーク博士は、この実地研究と他の類似の研究の結果から、土壌活性効果をより発揮させるために、乾いたマテリアルを使って熱分解方式で高温製造するバイオ炭を、事前にコンポストや発酵飼料(サイレージ)と混ぜて数ヶ月間寝かせておいてから土壌に混ぜることを推奨している。


バイオ炭が腐葉土を増やしCO2固定量を増やす

 バイオ炭は、それ自体が炭素を土壌に固定するだけではない。土壌に混ぜられたバイオ炭は、豊かな腐葉土の生成を促す。腐葉土は植物・動物由来の炭素が、フミン酸やフルボ酸など複雑な有機化合物によって短中期的に固定されるため、腐葉土の増加は炭素固定量の増加になる。

 土壌のCO2固定能力については、近年になって本格的な研究が始まったばかりで、大きなポテンシャルが見られている。フランスのINRAE農業・食料・環境研究所は、世界の土壌の炭素固定を毎年0.4%ずつ増加させるだけで(平均してそれだけの固定能力があることが推定されている)、人間の二酸化炭素排出量を相殺できると試算している。意識的に「腐葉土を増やす」農業をすることによって、気候変動抑制に貢献できるということだ。

 しかし、現代における世界の慣行農業の大半は化学肥料や農薬、深耕などより、土壌を不活性化して腐葉土を減少させ、雨や風での土壌の侵食も促し、CO2は固定されるよりも排出が多くなり、土地の砂漠化も進行させている。食料問題の解決としても、気候変動抑制へのポテンシャルの大きさからも、循環型の生産方法への大きな転換が求められている。その文脈で、土壌活性剤としてのバイオ炭は大きな意味を持っている。

 次回は、ホールヴェーク博士が3年がかりで行なった、バイオ炭による硝酸塩地下水汚染を抑制する効果について、詳しくレポートしたい。

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