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「ドイツ黒い森地方の地域創生と持続可能性」バックナンバー

0102020.11.17UP公益エコノミー-南西ドイツの模範企業 タイフーン社-

 過去2回の連載記事では、ドイツの豆腐パイオニア企業「タイフーン豆腐有限会社」の商品開発から大豆の契約栽培までにいたる奇抜で広範な事業を紹介してきたが、今回はこの会社が数年前から加盟し実践している「公益エコノミー」について紹介する。

リーマンショックの後に、倫理的な市場経済を!

大豆の契約農家に感謝する毎年恒例のタイフーン社のお祭り

大豆の契約農家に感謝する毎年恒例のタイフーン社のお祭り

 「公益エコノミー」とは、ドイツ語「Gemeinwohlökonomie」、英語の「Economy for the Common Good」の日本語訳である。Gemeinwohl / Common Goodは、政治学の世界では「公共善」と邦訳され使用されているが、ここでは、一般の人にも馴染みやすい「公益」の方を採用する。
 「公益エコノミー」は、公共の幸福と福祉に寄与する経済活動で、「倫理的な市場経済」とも表現されている。中欧でリーマンショックのあとに起こったオルタナティブな経済システムを求める運動のなかで生まれた。最大利潤を追求するシェアホルダー(株主)主導の資本主義経済がもたらす環境や社会に対するダメージが問題視され、それに対するオルタナティブとして、ステイクホルダー配慮の資本主義経済が提唱された。これは、大きな社会変革があった19世紀末の協同組合の運動や、戦後の復興期に実践された顧客、社員、所有者、市民と言った様々なステークホルダーの幸福のバランスに配慮した資本主義経済などに起源がある。

 それら古き良きステイクホルダー配慮の資本主義経済を現代的にアレンジしたのが「公益エコノミー」である。その生みの親は、学者、作家、政治活動家、ダンサーと多面的な顔を持つオーストリアのクリスティアン・フェルバーである。彼はリーマンショック後、自らイニシアチブをとり、オーストリアで「Attac企業グループ」を設立した。この中小企業を中心としたグループは、2008年から2010年までの協働で「公益会計」という新しい企業経営指針・評価システムを開発した。フェルバーはその哲学と成果を2010年に出版された本「Gemeinwohlökonomie(公益エコノミー)」にまとめた。本は12ヶ国語に翻訳されるベストセラーとなった。
 フェルバーは、2008年から2017年までウイーン経済大学、グラーツ大学、ウイーン応用芸術大学、その他複数の大学機関で客員教授として「公益エコノミー」の理論と実践を講義している。2018年からは、ドイツのポツダムにある先進持続可能性研究所(Institute for Advanced Sustainability Studies)の研究員として活躍している。


「人間尊厳」「連帯と正義」「エコロジカルな持続可能性」「透明性と民主的決議」

タイフーン社の評価証書

タイフーン社の評価証書

 当初草の根で始まった「公益エコノミー」運動は、フェルバーの本の売れ行きと共に近隣のドイツやスイス、東欧、北欧、英国と広がっていき、現在では北米、南米、アフリカ、東南アジアまで拡張している。公益エコノミーのネットワークは、国ごとに組織化され、各地域に活動グループを置いて その哲学の啓蒙と実践普及活動をしている。
 運動の中核は中小企業であって、スタンダード化され認証制度化された「公益会計」の実践である。現在、欧州を中心に2000以上の企業が「公益エコノミー」のコンセプトに賛同しており、約500企業が「公益会計」を採用している。自治体レベルや学術関係者の賛同者も多く、政治や学術研究にも影響を及ぼす産学官にまたがる包括的な運動に展開している。
 従業員270人を抱える典型的な中小企業であるドイツの豆腐パイオニア企業のタイフーン社は、2014年に「公益エコノミー」ネットワークに加盟した。その理由は、「公益エコノミー」が掲げる4つの価値観「人間の尊厳」「社会正義と連帯」「エコロジカルな持続可能性」「透明性と民主的な共同決定」が、これまでタイフーン社が企業理念として保持・発展させてきたことと重なる部分が多いからで、会社は「公益会計」を自己評価ツールとして自らに義務付けることによって、 足りない部やないがしろにしている部分をチェックし改善していこうとしている。
 2017年に、タイフーン社の「公益会計」最初の査定結果が公表された。A: サプライヤー、B: オーナーとファイナンスパートナー、C: 従業員、D: 顧客と同種企業、E: 社会環境、の5部門で、上述した4つの価値観ごとに評価するというものだ。タイフーン社は満点1000のうち608という「公益エコノミー」ネットワーク企業の中では非常に高い点数を獲得し、南西ドイツ地域でBest Practice(模範)例に選ばれている。
 ここにその評価証書を紹介したい。
 タイフーン社は、ビオ(有機認証)の豆腐を製造している企業であるので、価値観「エコロジカルな持続可能性」では高い評価がされている。また大豆のサプライヤーである契約農家と非常にフェアで高い信頼関係に基づく協働を心がけてきたことで、この部門での高評価が目立っている。「社会環境」部門は、公益的な社会貢献の度合いが評価されるが、ここでは4つの価値観とも高い評価を受けている。
 この評価証書をみれば、改善の余地がある部分が一目でわかり、タイフーン社は、さらに公益性の高い企業へのレベルアップの努力をしているところである。


コロナで連帯感が増した

 今年コロナ渦になってから、エコブームやベジタブル&ビガーンブームが加速したことにより、タイフーン社への注文は急速に伸びたようだ。春のロックダウンの最中に広報部長の女性とメールでやりとした。
 「全ての需要に対応しきれない状況で、嬉しい悲鳴をあげています」とのことだった。
 また「会社もコロナで大きく変化した面があります。製造が間に合わない状況なので、私を始め、事務をやっている人間も朝早く起きて工場でパッキングの手伝いをしています。連帯感が増しました」との報告もあった。
 職業資格ごとに明確に担当部門が分けられているドイツの会社にとっては大きな変化だ。

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