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「ドイツ黒い森地方の地域創生と持続可能性」バックナンバー

0112021.04.06UPドイツのエコ塗料のパイオニア「ビオファ(Biofa)社」の設立のストーリーと哲学

ビオファ社の商品

ビオファ社の商品

 シュヴァルツヴァルトの右隣りに、シュベービッシュアルプ地域という、石灰岩を主要な地質とする丘陵地帯がある。その北の麓、バーデン・ヴュルテンベルク州都のシュトゥットガルトから車で30分ほど東に行ったところに、バート・ボル(Bad Boll)という、のどかな保養地の町に、ドイツの自然塗料業界のパイオニア企業の1つ、ビオファ(Biofa)社がある。1976年に、現会長のヴェルナー・ハーン(Werner Hahn)氏によって設立され、現在まで40年以上にわたって、業界をリードしてきた。本レポートでは、設立の背景にあるハーン氏のストーリーに焦点を当てることで、自然塗料の人間にとっての意味と、ビオファ社の哲学を紹介したい。


始まりはイタリア・セベソの事故から

 1976年、北イタリア・セベソ市の化学工場で大事故が発生し、ダイオキシンによる深刻な環境汚染が起こった。ダイオキシンとは、毒性がある芳香族有機塩素化合物で、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、コプラナーポリ塩化ビフェニル(Co-PCB)の3つの物質群の総称で、置換した塩素の数や位置により多数の構造異性体が存在する。セベソの事故では、2,3,7,8-四塩素化ダイオキシン(TCDD)という、最も毒性が強いダイオキシン類が大量に空気中に放出され、周辺の住民およそ4万人が暴露し、深刻な健康被害が発生した。
 ヴェルナー・ハーン氏は、1950年代から機械工学エンジニアとしてキャリアを積み、60年代はじめには、従業員3000人の会社の経営マネージャーとなり、6年間従事したが、思うことがあり、その後、ガラリと業界を変え、自然薬品の会社で経営に関わっていた。
 1960年代からドイツでは、皮膚病、疲れや頭痛、免疫機能の低下などの症状を示す人々が増加し、問題になっていた。医学会は、その原因を突き止められていなかった。ハーン氏は、自然薬品の会社で、原因解明のための研究をしていた。そうした中で、セベソの大事故が起こった。そして、ダイオキシンの暴露にあった人たちの健康被害の症状が、ドイツで問題になっていた原因不明の病気の症状と類似していることが確認された。ハーン氏をはじめとする当時の専門家らは、ダイオキシンと類似の芳香族有機塩素化合物を、人間の生活環境の中で探した。そして、塗料や木材の防虫防腐、化粧品や洗剤などの中に、PCB(ポリ塩化ビニール)など、類似物質が含まれていることを確認した。

人間の体が知っている自然素材の物質だけで商品を開発しよう!

ドリス化粧品の植物性化粧品のラインナップ

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 ドイツだけでなく、世界各地の先進国で発生していた各種の病気の症状は、人工の化学物質に対するアレルギーということで現在知られている。ハーン氏は、そのメカニズムを次のように説明している。
 「人間の体には免疫機能が備わっている。この免疫機能は、体が必要としない物質を排除する働きがある。しかし人間の体は、これまで経験したことがない新しい物質は、認識することができず、排除できない。免疫機能は、その認識できない不必要な物質の捜査活動により疲労し、弱くなる。そうすると人間の体は、これまで問題なく防御し排除できていた様々な物質に対しても、耐性を弱めてしまう」
 セベソの事故をきっかけに得られた科学的認識(当時はまだ「推理」の段階)をベースに、ハーン氏は1976年に、自然薬品の会社の子会社としてビオファ(Biofa)社を設立し、自然塗料の開発を開始した。人間の体が知っている自然のマテリアルで、アレルギー症状を起こさない塗料をつくることをだ。その過程で、ハーン氏は、ビジネスコンセプトとして「3つの肌」を構築した。

  • 「第1の肌」:生活空間のサーフェイス(表面)。すなわち建物の壁や床や天井で、それらに使われる塗料。
  • 「第2の肌」:洋服。とりわけそれに使われている洗剤。
  • 「第3の肌」:人間の肌。肌に直接塗る化粧品や石鹸やシャンプー。

 ビオファ社の主要な分野は第1の肌の部門の塗料であるが、第2と第3の肌の部門の商品開発も行ってきた。後者の事業分野は後に、姉妹会社ドリス・コスメティック(ドリス化粧品)社として分離して事業を行っている。筆者の家族でも、ドリスのシャンプーやフェイスクリームなど使っているが、妻にも子供にも好評である。
 当初、ビオファの塗料は、自然食品の店で、野菜や果物、乾物、加工食品などと一緒に並べられて販売されていた。主にDIY向けだったが、環境や健康に対する意識の高まりを受けて、次第にプロの建設業者も使うようになり、90年代初めくらいから、エコ建材の専門店などがドイツ各地にでき始めると、それら専門店が主要な販売窓口になった。


自然哲学とヒューマニティ

 機械工学エンジニアのハーン氏は、理科系の科学者であるが、「自然科学より自然哲学がより大切だ」という。「人間は自然の一部で、それを踏まえて行動するべきだ。人間は自然循環の中で物質を借り、使った後はそれをまた自然に返さなければならない。それができて初めて、人間として尊厳ある生活を次世代に与えることができる」という哲学を持っている。
 また、ハーン氏はヒューマニティ(人間性)も大切にしている。彼は、終戦後の混乱期、11歳のとき、東ドイツから追放され、南西ドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州にやってきた。そこでたくさんの人々に助けてもらい、受けれてもらったことに対して感謝の気持ちを忘れず、恩返しの気持ちで仕事や生活をしてきた。従業員3000人の大きな工場のマネージャーを6年で辞めて、別の分野に大きく方向転換したのも、人間的な付き合いを求めてのことだった。彼は、社員の意志や意見を大切にしている。また、顧客もパートナーも、売り上げに貢献するビジネスの対象としてでなく、主体的な人間として付き合うことを社風としている。であるので「多くの顧客や代理店は、今では私たちの友人だ」という。ビオファの商品は外国でも知名度が高く、欧州、ロシア、日本を含むアジアでも、パートナーの代理店と一緒に事業を行っている。
 会社は2007年より、自分の家族メンバーで設立した財団法人(Stiftung)をオーナーとして運営されている。財団法人は、法的には、国の監視下に置かれている公的な性格を持った機関である。顧客や従業員、パートナーのために、設立者の哲学が継続していくことを保障するために、ドイツの家族企業がよく行う選択肢の1つである。現在は、彼の娘のレギーナ・ハーン-セルツァー博士が社長、ヴェルナー・ハーン氏が会長という形で運営されている。

 コロナのロックダウンが続いている状態なので、会長とのインタビューはオンラインで行った。ドイツ各地で起こっているコロナ対策に反対するデモや暴動に対して、ハーン氏は「無責任な行為。私たちの社会の問題は、《私(Ich)》が強すぎることだ。《私(Ich)》と《私たち(Wir)》の適切なバランスを必要としている」と、少し悲しい表情で語ってくれたのだ印象的だった。

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