アジア環境リーダー育成プログラム(APIEL : Asian Program for Incubation of Environmental Leaders)は、21世紀の地球環境問題の解決に積極的に貢献する環境リーダーを育てるために、2008年に東京大学で誕生しました。プログラムを修了すると、環境リーダー認定証「Certificate of International Environmental Leadership」が授与されます。今後、このプログラムで得た経験を生かして、世界の環境工学分野でリーダーとして活躍することが期待されています。
APIELが対象にしているのは、新領域創成科学研究科サステイナビリティ学教育プログラムまたは工学系研究科都市工学専攻に在籍する大学院生です。APIELプログラムの受講を希望する学生は、1年に2回(4月と10月)行われる募集に応募し、英語小論文と英語面接での選抜を受けねばなりません。合格した学生が、環境リーダー候補生となります。
環境リーダー候補生は、必修科目の「アジアの環境課題とリーダーシップ」と選択必修科目の「環境フィールド演習」、さらに複数の英語講義を取らねばなりません。なかでも特徴的なのは、アジア各国の環境問題の現場で実施されるフィールド演習です。
現地滞在はおよそ10日から2週間。学生と教員からなる小グループごとに、事前学習、現場視察、実験調査、現地の研究者や行政担当者との意見交換、グループワーク、成果報告などを集中的に行うことで、課題発見から解決までを見渡す幅広い視野と実践力を養います。
フィールド演習は、ベトナムのフエやタイのバンコクなどアジアの様々な国で、複数のユニット(プログラム)が用意されています。環境リーダー候補生はそのうちのひとつを選択することになります。
私たちの研究室に所属する修士2年の村井恭介君が、修士1年の時に選択したのは、水不足の深刻な乾燥地域での持続可能な流域管理に焦点を当てた「オアシスユニット」。2010年の8月10日から23日にかけて、中国の黒河中流域の甘粛省・張掖市(ちょうえきし)と下流域の内モンゴル自治区・額済納旗(エジンキ)で、演習を実施しました。
張掖市では黒河の水利施設や湿地保全区を、額済納旗では河川沿いにあって先枯れ現象が起きている胡楊(こよう)の林や湖などを視察しました。
具体的な環境問題を解決する実践能力を育むために、学生主導によるグループワークに多くの時間があてられ、黒河中流域では「地下水」「水質」「社会」の3グループに分かれて、調査に取り組みました。そして、グループごとの調査結果を合わせて、張掖市水務局で研究発表と政策提案を行ないました。
村井君にフィールド演習に参加した感想を聞いてみました。
「海外に行ったことがなく、英語もあまり得意ではなかったので、留学生に混じって環境調査・議論・政策提言を行うという、フィールド演習に参加することは僕にとって非常にチャレンジングでした。出発の前夜はとてもナーバスになっていたのを覚えています。でも、いざプログラムに参加してみると、留学生のメンバーはもちろん教員の方々もとても親身に接してくれて、僕が当初抱いていたコミュニケーションに対する不安はすぐに解消されました。また、実際に環境問題が顕在化している地域に足を運び、自分たちでデータを取って議論をするという実践的な経験を積むことができたのは環境工学者の自分にとって非常に有意義なことだったと思います。
発表前日は徹夜で資料を作るなど、ハードな演習ではありましたが、二週間生活を共にした仲間と一致団結して乗り越えることができました。オアシスユニットを通じて知り合った仲間たちとは今でも連絡を取り合っていて、お互いの研究の話をしながらお酒を酌み交わしたりしています。」
フィールド演習の後に実施されるアンケート調査の結果からも、このようなアジアの現場での演習に対する学生の満足度が高いことがわかるそうです。環境リーダープログラムを通して、多くの学生が、幅広い視野を養い、これからの地球規模での環境問題の解決に貢献していける人材として、巣立っていってくれることを願っています。
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