車の排ガスに含まれるさまざまな大気汚染物質。そのうち窒素酸化物や硫黄酸化物、浮遊粒子状物質などについては、環境基準が定められています。それ以外の微量な大気汚染物質についても研究が進められていて、博士3年の山下さんは、多環芳香族炭化水素類(PAHs)【1】に着目しています。
PAHsは石油製品や木材などの有機化合物の不完全燃焼によってつくられる物質群です。特に都市では、自動車の排ガスが主な排出源となっています。排出されたPAHsの一部は、街路樹の葉っぱに取り込まれると考えられているのですが、取り込まれた後はどうなるのでしょう?
山下さんは、沿道の大気と葉っぱの中のPAHsをさまざまな条件で測定して、取り込まれたPAHsが雨で流されてしまうのか、光で分解されるのか、再び大気中に出ていってしまうのか、その行方を明らかにする研究をしています。
PAHsの大気中濃度は、季節によって大きく変動します。また、葉っぱの中のPAHsも、季節による増減がみられます。そのため毎月のように、同じ場所で大気と葉っぱのサンプルを取る必要があります。
毎月○○日にサンプリング、と予定するわけですが、雨が降ったりすると影響が出てしまうことが考えられます。そのため、サンプリング日の最終決定は、天気予報と相談しながら決めることになります。
大気のサンプルはポンプで空気を吸引して取るのですが、電源をどこから取るのか、ということが意外と大きな問題となります。
山下さんの場合にも、建物の内部から電源コードを引こうとしていたら、予定していた場所が大学の工事のために立ち入り禁止になってしまった、ということがありました。幸いにも、違う建物の電源を使わせていただけることになって、結果オーライとなりましたが、外のフィールドを対象とした研究は、いろいろなトラブルや天候なども考慮にいれなければならず、一筋縄ではいかないものです。
もちろん研究は大気や葉っぱを採取しただけでは終わりません。サンプルを持ち帰って、抽出して、分析の邪魔になる物質を取り除いて、機械を使って分析します。葉っぱの中のPAHsを測定する研究は、私たちの研究室以外でもすでに行われてきていますが、測定結果が分析・研究に使えるようになるまでには、さまざまな試行錯誤が行われます。
例えば、葉っぱの緑色の色素は、分析の時に邪魔になります。そこで、サンプルの葉っぱを粉々にしてPAHsを溶かしやすい液体に溶かした後に、この邪魔な色素を取り除くためにカートリッジに通します。その方法ひとつをとってみても、葉っぱを何に溶かしたら良いかとか、カートリッジの中身の素材は何が良いか、といったことを決めていかねばなりません。
山下さんの研究では、これらのことをクリアして、やっと継続的にサンプルを採って分析することができるようになってきました。私たちが実際に歩く歩道で、車から出されたPAHsがどのように分布しているのか、そして街路樹の葉っぱに取り込まれた後どうなるのか、それらのことが明らかになれば、PAHsが歩行者にもたらすリスクを少なくするために、街路樹がどれくらい有効か、議論することができるようになると考えられます。これから卒業までの約1年、彼女の研究の進展が楽しみです。
都心の屋上等で農作物や蜂蜜を作っていますが勿論安全面も考慮しての事でしょうがどうなんでしょう?
(2011.06.07)
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