3年前にベトナムから日本にやってきた留学生のタオさんは、博士号を無事取得して、9月27日に卒業式を迎えました。
タオさんの研究テーマは、稲を脱穀した後に出てくるもみ殻を有効利用しよう、というものでした。ベトナムのAngiang(アンジャン)県は稲作が盛んで、数百もの脱穀所があります。そこでは、脱穀した後に出てくるもみ殻が、河川に不法投棄されたり、野焼きされたりすることが、大きな問題【1】となっています。
そのもみ殻を、発電や燃料の原料などに有効利用できないか【2】、というのが彼女のアイデアでした。
タオさんは、もみ殻の使い道をいくつか考えて、それぞれで、どれくらいCO2を削減できるか計算しました。燃やして調理に使ったり、煉瓦を作ったりするという、現地にもともとあった使い方に加えて、直接燃やして発電する、いったんガス化して発電する、熱で分解してバイオ燃料を作るなど、新しい技術の導入も検討しました。
また、それぞれの技術を用いた場合のコストを計算して、CO2もコストも大幅に削減できるような方法を考えました。
計算だけでは、実際に現地の人たちがどのような点を大事に思っているか、という視点が技術の評価に含まれてきません。たとえば、CO2とコストでは、どちらが大事なのか、安全性や使い易さなども大事な要素なのではないのか、といった疑問が出てきます。
そこで彼女の研究では、階層分析法【3】という手法を使って、人々がどの側面をどれくらい大事に思っているかを、アンケートを通じて明らかにしていきました。例えば「環境」と「コスト」ではどちらがどれくらい大事? 「もみ殻」と「石炭」では、どちらがどれくらい使いやすい? といった質問を行うことによって、それぞれの大事さが数値となって現れてきます。
日本では最近、多くの研究でインターネットを使ったオンラインアンケートが行われるようになってきています。しかし、ベトナムの農村地域でオンラインというわけにもいきません。そこで、ひとりひとりに会ってインタビュー形式のアンケートを行いました。
アンケートを行う場合、快く応じてもらうためにちょっとした手みやげを持っていくことがあります。今回はタオさんのアイデアで、日本の100円ショップで大量に購入したピーラー(皮むき器)を持って行きました。スーツケースの中にピーラーを大量に詰め込んでベトナムへ向かうタオさんは、さながらピーラー商人のようでしたが…。
インタビュー形式でのアンケート調査は時間と手間がかかります。彼女の場合にも、ひとりに1時間半から2時間もかかりました。それを100人近くにやるわけですから、膨大な作業です。しかし、皆さん快くアンケートに答えてくれました。ピーラーは、現地の奥さま方にとても好評だったようです。
調査の結果、住民が大事と思っていることと、地方政府が重要視していること【4】が、まったく正反対だとわかりました。環境政策だけではないですが、さまざまな施策を進めていく際に住民の意見を取り入れる、ということが重要だと考えられるようになってきています。彼女の研究で行ったような手法が、今後、役に立ってくるのではないでしょうか。
タオさんは、卒業式翌日の9月28日に帰国しました。これからは母国ベトナムのAngiang大学で教員として働きます。新たなバイオマスプロジェクトに関わることも決まっているようです。
タオさんとは数え切れないほどのミーティングをおこないました。ディスカッションはもう日常のこととなってしまっていて、彼女の卒業は感慨深くもあり、とても寂しくもあります。しかし、また会える機会もすぐにあるでしょう。タオさんの研究者としての今後を温かく見守りたいと思います。
素晴らしい事です?ただ最初は地元民と電力とかはあまりにギャップが有りますのでなかなか繋がらない事が有りますのでまずモミガライトという方法がいいとおもいますね
(2016.08.26)
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