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「地球をグリーンにする発明家」バックナンバー

0132017.11.21UP日本の風力発電を支えるエンジニア達(1)-東日本大震災とアフリカ生活が教えてくれたこと-

 再生可能エネルギーの導入はグローバルで進んでいる。日本でも固定価格買取制度(FIT)を追い風にその導入量はここ5年間で2.7倍に拡大した。特に風力発電は、太陽光発電と並びコストの低減化が進んでおり、価格競争力の高い電力源として今後もさらなる成長が見込まれている。
 風力発電所の新規建設が加速する一方、既存施設の運用及び管理(オペレーション及びメンテナンス、O&M)業務もいっそう重要になっている。GEリニューアブルエナジーのフィールドサービスエンジニア達は、日本、そして世界のクリーンエネルギー活用に貢献するため、今日も風力発電の現場で働いている。

既存施設の運用及び管理(オペレーション及びメンテナンス、O&M)業務がいっそう重要になっている。
既存施設の運用及び管理(オペレーション及びメンテナンス、O&M)業務がいっそう重要になっている。

ブレード(羽根)とタワーを接合するナセル部分には増速機や発電機などの様々な機械が収められている。
ブレード(羽根)とタワーを接合するナセル部分には増速機や発電機などの様々な機械が収められている。


三年間のアフリカ滞在では、突然の停電で木工機械を動かす授業を中断せざるを得ない状況に立たされることもあった

Tシャツにパーカー、デニム姿の縣秀樹。
Tシャツにパーカー、デニム姿の縣秀樹。

 島根県浜田市に位置する大規模な風力発電所「ウインドファーム浜田」では、風力発電機29台が稼働しており、ウインドファーム全体で一般家庭2万3600世帯分の年間電力消費量を発電している。
 このウインドファームで働いているエンジニアの一人に縣秀樹がいる。Tシャツにパーカー、デニム姿の縣にはじめて会った人は、自分の好きなことを楽しんでいるミレ二アル世代の若者、という印象を受けるかもしれない――実際、彼は車を運転することが好きで、休みの日には趣味の登山やキャンプを楽しんでいる。

 縣はもともと北アルプスの大自然の麓にある長野県安曇野の出身で、祖父の代から襖や障子を扱う建具屋を営む職人の家で生まれ育った。小さい頃から、母親の壊れたミシンを分解して修理するような手先の器用な子どもだった縣は、専門学校を卒業後、造園や建具屋の仕事に携わっていた。そんな木材加工の技能を活かして、もっと社会に貢献できる仕事がしたいと思った縣は、JICAの青年海外協力隊に参加することを決めた。
 アフリカ南部・ボツワナにある地元の若者を対象にした職業訓練校で木工系の実習講師をするポジションに見事合格した縣は、福島県でその事前講習を終え、地元に帰省する旅路についた矢先、東日本大震災を経験した。その翌月にはアフリカへ出発し、その後三年間滞在したが、そのときの記憶は鮮明に残っていたと言う。アフリカでは、週に数日、毎晩数時間の計画停電が起き、炊事がままならなかったり、突然の停電により、木工機械を動かす授業を中断せざるを得ない状況に立たされることもあった。このような経験をするなかで、社会インフラ、とくに電力環境を整える仕事に就きたいと考えるようになったと縣は振り返る。

浜田駅前から山道を車で走ること45分、山の尾根にそびえる29台の風力発電機が見えてくる。

未来を切り開く再生可能エネルギーという分野だからこそ、魅力に感じた

 日本に帰国後、縣は電力事業のなかでも風力発電の仕事に関わることを決め、2015年にアルストムに入社、同社はその後の経営統合によってGEの一員となった。
 木工業界での仕事やアフリカでの生活など新しい環境でのチャレンジを追い求めてきた縣にとって、既存のエネルギーではなく、未来を切り開く再生可能エネルギーという分野だからこそ、魅力に感じた部分もあった。応募当時のことを縣はこう振り返る。
 「それまでは風車を見たこともなかったので、最初は珍しい仕事だと思いました。だからこそ、普段とは違う仕事に携わる、新しい経験が積める、そう思ったんです」

 縣の採用面接を担当し、自らもフィールドサービスエンジニアとして働く稲富正明は、「一生懸命働きますから何をすれば良いのか教えてください、というタイプの人ではなくて、問題意識を持って主体的に取り組める人を求めています――というのも、私たちが働く現場は何でも揃っているオフィスのような職場じゃないので自分自身で考えながら動かないといけません。現場の一切をとりまとめるサイトマネージャーともなればなおのことです。だからこそ、リーダーシップを発揮できる人であることが重要なんです。縣と話すなかで、彼は自分自身で探究心を持って取り組むことができる、まさに私たちが求めているリーダー気質なタイプだと感じたんです」と振り返った。

ブレードの点検や交換作業ではナセル上部のカバーを開けて外に出て作業する。

日本のエネルギー業界を支えているという充実感がある

 O&M業務の現場作業は、定期メンテナンスと突発的なトラブル対応の二つに大きく分かれる。ただ、これらのどちらの作業にも、タスクに応じてどう取り組むことが最もベストかを自分自身で考えることが求められる。
 縣は現場の作業についてこう話す。
 「例えば、定期メンテナンスを29台すべての風車に対して行う際に、どうすれば少しでも時間短縮できるのかを常に考えて行動しています。自分が考えた通りに物事が進んだときは嬉しいですね。浜田のサイトは雷も多く、冬には1メートルほどの雪が積もるため、気象環境に起因する機械故障やトラブルが起きてしまうこともあります。これまで経験したことがないトラブルに直面した時でもどうしたら良いのかを考えて、それが解決できたときは本当に喜びを感じます。だからこそ、この仕事が好きなんです」

現場は雷や大雪など突発的なトラブルに対応することも求められる

 ウインドファーム浜田での業務以外にも、縣は、他の風力発電所へ出張したり、起こりうるリスクに対応するための様々なトレーニングを受け、資格を保有するための勉強もしている。トレーニングのために海外出張する機会も定期的にあり、昨年訪れたインドでは、韓国やオーストラリア、タイなど他のアジア太平洋地域の国々のエンジニアとともに、地上から70メートルの高さにあるナセル部分から救急処置が必要な人を搬送するための対応法などを学んだ。

豊富な知見をもつ海外のトレーナーから技術指導を受けることも多い。
豊富な知見をもつ海外のトレーナーから技術指導を受けることも多い。

 「深い知見を持つ海外のスーパーバイザーから直接スキルを学べるのはすごく光栄なことだと思っています」と話す縣。出張以外でも、トラブルシューティングのために、海外からエンジニアが来日して部品の取り換えや修理をする現場に立ち会えることは自分自身の知識と技術力の向上につながっていると言う。
 「これまでの職場では数年働くと、何か新しいことをしてみたくなって転職をしていました。すでにGEに入社して数年が経ちますが、間違いなく5年先も風車に関わっていると思いますね」
 縣はそう話します。
 もちろん大変なこともあるけれど、この仕事は何より日本のエネルギー業界を支えているという充実感がある――そう思えることに幸せを感じる日々を送っている。
 その縣は12月から新天地で新しいステップに進もうとしている。北海道の稚内市にある天北ウインドファームのサイトマネージャーとしてO&M業務を統括することになる。
 「これまで一緒に働いてきた先輩マネージャーのように胸を張って仕事ができるようになりたい」、そう話す縣の挑戦は今後も続く。


※本稿は、November 06, 2017に公開されたGE REPORTS JAPAN掲載記事
 ( https://gereports.jp/ge-renewable-energy-01 )をもとに再構成したものです。


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