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「地球をグリーンにする発明家」バックナンバー

0042016.07.19UP「デジタル・ツイン」で、現実世界と仮想世界の対比を分析 プラントの効率化をめざして

コンピュータ上に水処理プロセスを再現したモデルを構築

GEグローバルリサーチ・センターの化学者、ジェイソン・ニコルズ(写真提供:GEグローバルリサーチ)
GEグローバルリサーチ・センターの化学者、ジェイソン・ニコルズ(写真提供:GEグローバルリサーチ)

 下水処理場を思い浮かべると多くの人は鼻をつまみたくなるかもしれない。
 GEグローバルリサーチ・センターの化学者、ジェイソン・ニコルズのチームは、下水処理場で得られるデータを活用して、コンピューター上に水処理プロセスを再現したモデルの構築をめざしている。実際の処理場とこの仮想モデルが双子のようになることから、GEはこれを「デジタル・ツイン」と呼んで、下水内部で実際に何が起きているのかを明らかにしようというわけだ。
 「正常に機能している処理場というのは、フレッシュな土か培養土のような臭いがするものです。悪臭が発生してしまうのは、処理場で何か異常が起きている証拠なんです」
 ニコルズはそう話す。

 デジタル・ツインは、悪臭源の特定はもちろん、他にも多くのことに役立つ可能性を秘めている。たとえば、コンピュータ上に再現された実環境の情報やアルゴリズムを利用して、データクラウド上に(悪臭を取り除いた状態の)処理場を再構築することもできる。ここから得られる知見によって、ニコルズのチームは、廃水処理の効率化をめざす。
 「こんなことを考える人はまずいないと思うけど、あなたがトイレの水を流した後にも、莫大な費用がかかっているんだ。現代社会はハイテクな水処理技術を手に入れたけれど、つねに最高効率で処理場を機能させられているわけじゃない。でも、仮にすべての下水処理場のデジタル・ツインを構築できれば、今後10年で世界的に40億?60億ドルのコスト削減も夢じゃないと思うんだ」
 ニコルズはそう続ける。

多くの下水処理場で処理中の汚水池に必要以上の空気を供給している

ラボ内のジェイソン・ニコルズ(写真提供:GEグローバルリサーチ)
ラボ内のジェイソン・ニコルズ(写真提供:GEグローバルリサーチ)

 下水処理はおカネのかかる事業だ。たとえば、米国の自治体は毎年、上下水道処理システムの導入、更新、運用に1千億ドル近くもの税金を投じている。コストは増え続けると予想され、各市議会はコスト削減に頭を悩ませている。

 有機金属化学の博士号を取得し、カリフォルニア大学バークレー校で博士研究員を務めていたニコルズは、数か月かけて下水処理場に関する物理学と生物運動力学のモデルデータを分析したところ、多くの下水処理場で処理中の汚水池に必要以上の空気を供給していることがわかった。この無駄を改善できれば、莫大なコスト削減も夢ではない。
 ニコルズのチームは、まず処理場内に化学センサーを設置し、データを吸い上げて、処理場内で生化学的機能を作動させるクラウドベースのアルゴリズムを構築。これによって、下水処理プロセスを効率化する知見を得るのが目的だ。
 これを踏まえて、デジタル・ツイン構築の第一歩として、生化学的・物理的シミュレーションによる状況把握にすぐさま着手した。処理場に流入する下水量は滞留日数(数日間?数か月間)によって大きな変化があるにもかかわらず、大半の処理場が汚水池にポンプで供給する空気量を最大に設定しているのが現状だ。
 「処理すべき下水量を明確に予測できない以上、最大限の空気を送り込んで、汚水池の微生物に十分な酸素を与えようと考えるのも当然で、仕方のないことです」

デジタル・ツインは、原因の把握からソリューションの提案まで可能にする

 ニコルズは、デジタル・ツインを活用すれば、処理場のオペレーションで見落とされてきたパターンを発見したり、流入する下水量を予測したり、必要な酸素レベルを正確に測定したりすることができるようになると期待する。
 「ある事象がどうして起きたのか、その原因を把握してソリューションを提案することが可能になるのです」
 例えば、硝酸塩やリンの濃度の変化をシミュレーションすることで、事前警告を発したり、原因箇所となる可能性の高い部位を特定したりすることもできる。処理場のオペレーターが適切な処置を行うことで、汚染の回避や修理時間の短縮につながることが見込まれる。
 さらに、下水処理システムの細菌の健康状態のモニタリングや、適切なメンテナンス時期の割り出しができるほか、地域の人口増減に応じて将来的な処理場の拡張・縮小コストまで見積もることができるようになる。

デジタル・ツイン技術を適用する最初の共同開発パートナーを求めて

 デジタル・ツイン技術は、ジェットエンジンや風力発電所、油田などの海底噴出防止装置用にも応用できる。GEでは、自社製のあらゆる機器装置のデジタル・ツイン・モデルを構築して、機器をより効率的に機能させ、予定外のダウンタイムにかかる顧客コストの削減を実現したいと考えている。たとえば、デジタル・ツインから得たデータで正しく機器の機構や部品のヘルスチェックができれば、通常は24?36カ月ごとに実施している航空機エンジンのオーバーホールも、「この健康状態なら、38カ月経った時点でOK」と判断できるかもしれない。

 デジタル・ツイン技術が、下水処理場で採用されるまでに、あとどれくらいの時間がかかるだろうか。ニコルズはこのデジタル・ツイン技術を最初に適用する共同開発パートナーにふさわしい施設を探し求めて、最近、水道事業者や処理場のオペレーターにプレゼンをしたり、ディスカッションを重ねている。
 「処理場のデータがオペレーション効率向上にどのように役立つのかを実証できれば、活用が進むはずと考えています」
 ニコルズはそんなふうに抱負を語っている。

※本稿は、Jun 16, 2016に公開されたGE REPORTS JAPAN掲載記事(http://gereports.jp/post/146001814219/sewage-treatment-plant-data)をもとに再構成したものです。


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