生物医学の研究者が新薬開発をするとき、1度に何百種類もの化学物質を検討し、ほんの少しずつ異なる分子の組み合わせが特定疾患にどの程度効くかを調べていく。この手法は、“コンビナトリアル・ケミストリー(組み合わせの化学)”と呼ばれている。
これと同様の手法を、3Dプリント技術をはじめとするアディティブ・マニュファクチャリング(積層造形)に応用しているのが、GEの科学者たち。さまざまな材料の組み合わせを微調整・テストすることで、造形する部品に最良の特性を持たせようとしている。
ニューヨーク州にあるGEグローバル・リサーチ本部で働くアディティブ・マテリアル・ラボのエンジニアたちは、このアプローチを用いることで、合金づくりの初期段階における反復作業にかかる負荷軽減を図っている。めざすのは、新しい合金のレパートリーを増やし、ひいては3Dプリント機で製造できる製品を多様化させること。
「より大きくて複雑な部品を造形できる新しい機械技術ももちろん必要ですが、根本的にマシンが対応可能な材料の幅を広げることも重要なんです。今はマシンのボキャブラリーを増やしているようなものです」
アディティブ・マテリアル・ラボを率いるジョー・ヴィンシクエラはそう話す。
GEは昨年(2016年)、10億ドル以上を投じて、産業用3Dプリンターで業界をリードする2つのメーカー、スウェーデンのアーカム社とドイツのコンセプト・レーザー社の株式の過半数を取得した。コンセプト・レーザー社のマシンは金属粉末の薄層を溶融して部材を造形する3Dプリンター。一方、アーカム社のマシンはさらに強力な電子ビームプリンターで、スチールより50%軽い反面、成形が極めて難しいチタン酸アルミニウム(TiAl)のような驚くべき新材料(俗に言うワンダーマテリアル)から部品を積層することもできる。
イタリアのカーメリにあるアディティブ・ファクトリーでは、GEアビエーションがボーイング社の次世代ワイドボディ機向けに開発中の世界最大のジェットエンジン、GE9XのTiAl製タービンブレードをすでに製造している。
ラボの研究者が試行錯誤を重ねた800種類以上の材料プロセスの組み合わせに基づいて造形した積層部品のサンプルプレート。
製薬業界における新薬開発のアプローチと似た手法でアディティブ・テクノロジーに関するGEの新材料開発を劇的に加速させている(写真:GEグローバル・リサーチ)
ジョー・ヴィンシクエラは、セラミックマトリックス複合材料(CMC)や炭素繊維、さらにはシリーパテ(スライムに似たシリコン製のおもちゃ)まで開発してきたGEがもつ材料科学に対する深い知見を活用して、3Dプリント材料に関する独自のレシピ本を開発することが目標だという。現時点では、最新鋭の3Dプリンターでさえ、8年もかけて開発した非常に特殊な金属配合の限られた材料しか使用できない。厳しい工業規格を満たす必要があるためだ。
アディティブ・マテリアル・ラボの材料科学者、ローラ・ダイアルも、次のように話す。
「私たちの研究では、ジェットエンジンのような複雑なシステムに使われる金属部品の性能と耐久性を把握する必要があります。こうした応用の場合、強度や耐熱性、亀裂抵抗などの要素が非常に重視されるからです」
金属3Dプリンターは通常、レーザーかその他の高エネルギーのビームによって金属粉末の薄層を溶融結合して部品を造形する。プリンターは部品のサイズによって、1個?数十個の部品を同時に製造することができる。
3Dプリンターは設計者に自由度や柔軟性を提供してくれるもので、かつては不可能だった「CADで描いた図面からそのまま直接、造形する」ことを可能にした。しかし、現在使用できる材料だけでは、造形した部品の用途が限定的であるのも事実だ。
ローラー・ダイアルのチームは、800通り以上の合金と製造プロセスとの相性を研究している。異なる3Dプリンターごとに800通りの中からそれぞれに最も適した合金を選べるようにすることで、さまざまな製品を作れるようにするわけだ。
すでに、GEアビエーション、GEパワー、オイル&ガス事業を手がけるベーカー・ヒューズGEは、燃料ノズルやその他の部材を3Dプリンターで製造しているが、ダイアルのチームが見いだしたアイデアは、GEが昨年立ち上げた新事業部門、GEアディティブでの活用が期待されている。
GEが傘下に収めたコンセプト・レーザー社とアーカム社のマシンは、すでに医療用インプラントやその他ハイテク部品を製造していて、GEはその他の用途にも幅広く応用できるとみている。
ジョー・ヴィンシクエラは、次のように期待する。
「目標は3Dプリンターを『宇宙家族ジェットソン(SFファミリーコメディ)』がうらやむような最新マシンに変えること。医療用インプラントから女性が身につけるアクセサリーまで、人が想像できるあらゆるものを“印刷”ボタンひとつで作れる世界に思いを巡らせています」
新設から1年ちょっと経過したラボでは、特定の部品を製造する必要があるときにマシンがいつでも情報を引き出せる材料レシピを盛り込んだデータベースを開発中だ。
ジョー・ヴィンシクエラは次のように話す。
「方向性を誤ることなく、今後も継続的にGEストア(GEが事業部門を跨いで知見を共有し活用する仕組み)のパワーを活かして材料とマシン技術をデジタルに融合していくこと。そうすれば、世界で通用する部品を、誰もが必要なときに必要なだけ3Dプリンターで製造できる時代が来るでしょう。つまり、新型の自動販売機のようなものを作れるはずですよ」
※本稿は、September 27, 2017に公開されたGE REPORTS JAPAN掲載記事
( https://gereports.jp/3d-printing-vending-machine/ )をもとに再構成したものです。
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