3月23日の午前11時19分――カリフォルニア州にある、ソーラーパネルと風力発電プラントからの電力供給量が、一時的とはいえ初めて、同州の電力需要の49.2%ほどの規模に達した。アメリカ最大の人口を抱え、2030年までに必要な電力の半分を再生可能エネルギーで賄うことをめざすカリフォルニア州にとって、この記録は非常によい知らせとなった。
しかし、カリフォルニア州が掲げるこの目標にはいくつかの課題がある。電力は常に必要とされるが、風は止むこともあるし、“あのカリフォルニア”でも、太陽が雲に隠れることはある。
GEパワーのエアロデリバティブ(航空機エンジン転用型)タービンのチームを率いるセルマ・キブランは、次のように指摘する。
「再生可能エネルギーを組み合わせた発電の場合、常に全需要に対応しきれるわけではありません。不足を補う『ほかの何か』が必要になります」
ギブランが言う『ほかの何か』として、これまで用いられてきたのは、ピーク供給電源【1】だった。グリッドスケール蓄電池(電力網用の蓄電池)【2】は、現状ではまだ非常に高価で、用途も限られる。
ピーク供給電源には、主に天然ガスを燃料とするガスタービンを稼働している。再生可能エネルギーの電力供給量が落ち込んだ時でも、急速起動して不足分の電力を補うことができる。ただし、最も起動の速い機器でも、ゼロ出力から最大出力に達するまでには数分を要する。発電事業者はいつでもすぐに対応するためにガスタービンを最小負荷で稼動させ続け、余分な天然ガスを消費するとともに、機器を消耗させてきた。
「この燃焼は非効率です。燃やさなくてよいはずの燃料を消費し、無駄にコストをかけて、必要以上の温室効果ガスを排出しているのです。理想の解決策でも、唯一の解決策でもありません」
キブランはそう指摘する。
LM6000ハイブリッド蓄電ガスタービン。アメリカ大統領専用機や多くのBoeing 747型機にも搭載される、実績豊かなGE製航空機エンジン「CF6」の地上版(画像提供:GE ReportsおよびGEアビエーション)
そこで、キブランはGEエナジーコネクションのメンバーとともに、高性能な電力管理ソフトウェアを使ってピーク供給電源と蓄電池とを一体化することにした。このハイブリッド・システムでは、普段はガスタービンを停止しておくことができ、必要時にはすぐに蓄電池が対応する。
世界初となるこの仕組みを、サザン・カリフォルニア・エジソン社がロサンゼルス近郊の二か所に採用した。
GEエナジーコネクションのグリッドソリューション事業部で、スマートグリッドを担当する本部長、ミルコ・モリナーリは次のように話す。
「このシステムは、二つの世界のハイブリッドです。“速くてクリーンな蓄電池”と、“必要な電力を十分に供給できるガスタービン”。いつでも使える信頼性に加えて、環境的にも利点をもたらしてくれます」
経済的利益もまた重要な要素だと、モリーナは言う。
「自動車の世界と同じです。世の中が電気自動車だらけになれば素晴らしいですが、実際のところ、許容できるコスト範囲での蓄電容量はさほど大きくないため、航続可能時間は非常に限定的です。電池の価格は下がり続けているものの、現時点ではハイブリッド車が次善の選択肢となっています」
カリフォルニアに設置されたGEのグリッドスケール・ハイブリッドは、わずか5分で出力50メガワット(MW)に達するジェットエンジン技術を中核とした高速ピーク供給電源であるLM6000ガスタービン、そして30分間にわたって出力10MWを維持できるリチウムイオン式の蓄電池で構成されている。風力発電プラントからの電力供給量が急落すると蓄電池が直ちに放電を開始し、送電の維持を担保しつつ、ガスタービンが定格出力に達するまでの時間的猶予を作る。
GEのエンジニアたちは、蓄電池の放電速度や、完全停止状態のガスタービンをどれくらい急速に起動させる必要があるのかなど、発電事業者が管理できるソフトウェアを開発した。
モリナーリは、「タービンの隣に蓄電池を置くことなら誰にだってできますよ。制御を統合することが、肝なんです」と言う。
モリナーリによれば、カリフォルニア独立系統運用機関(CAISO)は既に送電ネットワークを常時監視するソフトウェアを持っている。電源周波数の低下を検知すると、このソフトウェアがハイブリッド蓄電ガスタービンに“起動準備をするように”と信号を送る。同時に、電力会社の中央制御室にも信号が送られる。さらに、再生可能エネルギーの発電が休止した後でも、送電量が変わらないよう制御する。
「ハイブリッド車を運転しているとき、アクセルを踏み込んでも、その動力の何割がガソリン・エンジンからで何割が蓄電池からかなんて、わかりませんよね。このシステムが消費者に対してしているのも、同じことなんです」
モリナーリはそう話す。
新システムは、再生可能エネルギーによる一時的な発電量低減への対策としてだけでなく、『カリフォルニアのアヒル』と呼ばれる対策としても役立つことが期待される。
『カリフォルニアのアヒル』とは、同州のあり余るほどのソーラーパネルが一斉に発電を終える日没後に電力需要ピークが来るため生じる、需要と供給の顕著な差を示したグラフのこと。まるでアヒルのシルエットのような曲線になることから名付けられた。
キブランはシステムの可能性について次のように話す。
「このシステムは拡張可能です。現時点の蓄電容量は希望のコスト範囲に合わせて設定されていますが、モジュールとしてデザインされているので、100MWあるいはそれ以上に対応できない理由はありません」
さらに、将来の再生可能エネルギーの導入拡大を見据えて、次のように話す。
「カリフォルニア州が再生可能エネルギー利用のさらに高い目標を掲げて前進すれば、アヒル曲線はもっと顕著になるでしょう。再生可能エネルギー利用率の拡大を支えるには、このシステムのようなソリューションがもっと必要になります」
※本稿は、May 15, 2017に公開されたGE REPORTS JAPAN掲載記事
( http://gereports.jp/post/160687617244/battery-and-jet-hybrid )をもとに再構成したものです。
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