「自然保護の現場から ~アメリカ国立公園滞在記~」バックナンバー
私はこの1年間の研修にあたりテーマを野生動物管理にしていたこともあり、ボランティアコーディネーターのリンダさんが、先進的な野生動物管理プログラムがあるヨセミテ国立公園につないでくれました。4月にヨセミテで野生動物管理を担当しているケイティさんと電話で話し、業務内容の説明を受け、続いてインタビュー(面接)もありました。その結果、レッドウッドでの5か月のボランティアの後は、6月から7月の間、ヨセミテ国立公園で勤務することになりました。
レッドウッドと同じく、ヨセミテもカリフォニア州に位置しており、太平洋側沿岸にあるサンフランシスコから内陸に車で4-5時間ドライブした場所にあります。雨や霧が多く緑が豊かだったレッドウッドと違って、カリフォニア州の内陸は乾燥し砂漠のような景色だったのが印象的でした。ヨセミテに近づくにつれ、峡谷沿いの細い道路になり、公園のエントランスに到着しました。エントランスには、日本の高速道路にあるような料金所があり、入園料を徴収している国立公園のスタッフにボランティアで来たと伝えると「ウェルカム」と言って通してくれました。
この間一緒に働くことになる野生動物管理チームとヨセミテバレーにある「キャンプ4」と呼ばれるキャンプ場で合流し、まず生活の準備を始めました。というのも、公園を訪れる人が多くなる夏場には公園の職員も増員され宿舎には空きがないので、キャンプ場の1サイトを借りて生活することになったからです。生活にあたっては、野生動物管理チームから大きなテント、調理用のガスストーブや自転車など生活に必要になるグッズを貸してもらいました。キャンプ場では後日合流した他のボランティアと一緒に暮らすことになりました。
ヨセミテ国立公園(以下、ヨセミテ)は1890年にアメリカで3番目に指定された歴史の長い国立公園です。クライミング、ハイキング、キャンプなどを目的にアメリカ国内外から毎年400-500万人程度が訪れる人気の公園となっています。国立公園の約93%は原生地域法により原生地域に指定されている大自然が広がっていますが、ヨセミテバレーなどの利用拠点には、ホテル、キャンプ場、ショップ、レストランなどといった利用施設が整備されており、快適で便利に過ごすことができます。またヨセミテバレー内のヨセミテビレッジでは、国立公園の職員をはじめ年間を通して生活をしている人がおり、学校、郵便局、教会、墓地、裁判所もあり、まさに村という感じです。

ヨセミテビレッジにあるビジターセンター
ヨセミテでは、野生動物管理チームにお世話になり、クマなどの野生動物の保護管理に携わりました。ヨセミテに生息しているクマはアメリカクロクマ(Ursus americanus)と呼ばれる北米大陸に広く生息する種で、ヨセミテには300-500個体が生息しています。ヨセミテのあるカリフォルニア州では、アメリカクロクマによる死亡事故は、記録上2023年に1件発生したのみで、ヨセミテでも死亡事故は一度も起こっていません。なお、カリフォルニア州には、かつてはブラウン・ベア(Ursus arctos)も生息していましたが、乱獲により1920年代に州内では絶滅しています。
私が滞在した2024年の夏シーズンには、通称クマチームと呼ばれている野生動物管理チームには、3名の常勤職員、6名の季節雇用職員、1名のインターン、3名のボランティアが働いていました。勤務はシフト制で、基本は6時から25時までの間、スタッフが対応できる体制がとられていました。1日10時間×週4日の勤務で、朝、昼、夜の3パターンのシフト制があり、私は10時から20時までのシフトに入っていました。
長年ヨセミテではクマが人間の食べ物を求めて、キャンプ場やピクニックサイトなどに出てきたり、ゴミ箱や車の窓を壊し車中まであさったりすることが問題となってきました。クマにとっては人間の食べ物はカロリーの高い魅力的なエサですが、人の食べ物に慣れたクマは攻撃的になり人身の安全のため捕殺されるケースもあります。そういったクマを生み出さないように、公園利用者への指導とクマの追い払いやモニタリングという、対人と対クマの両輪で保護管理が行われています。
公園利用者には適切な食料保管が法令により義務付けられています。ここでの「食料」とは、匂いのあるもの全てが該当し、食べ物、飲み物、生ゴミの他、シャンプー、日焼け止めなどの日用品も含まれます。食料保管のため、キャンプ場にはすべてのサイトにクマが開けられない構造をしたフードロッカーが設置されており、ロッカー内に食料を保管する必要があります。また、車については、窓は閉め、外から食べ物が見えない状態であれば、日中のみ食料の保管が認められていますが、夜間はフードロッカーやホテルの部屋内での管理が必要です。こういったきまりに違反した場合は最大5,000ドルの罰金が科せられます。

キャンプ場カリービレッジの様子。カリービレッジは、タープでできた簡易小屋がある
キャンプサイトとなっており、各ユニットの入り口にフードロッカーが設置されている。

私が使っていたフードロッカーの中の様子。料理に使う鍋や食器、歯磨き粉なども
すべてロッカーの中に保管する必要がある。
クマチームでは、ヨセミテバレーのキャンプ場やピクニックエリア(バーベキューができるよう炭火台が設置されている場所)などを定期的に巡回し、クマを誘引する食料が放置されていないか、チェックしています。食料が外に放置されているなど、ロッカーがきちんと閉まっていない様子を見つけた際は、持ち主へ適切に保管してもらうよう伝えますが、近くに持ち主がいない場合はクマチームのスタッフが食料をフードロッカーに仕舞います。食料が多すぎて入らない時は、回収し、公園内の安全な場所に一時保管します。回収した食料は、3日以内に所有者が取りに来れば返すことになっています。
クマチームの仕事は、このように一般利用者との接点も多い仕事なので、ボランティアであっても制服が支給され、日々制服を着て勤務することになりました。パトロールでは、利用者に注意する場面も多く、その際は、厳しい伝え方にならず、気持ちよく協力してもらえる言い方をするよう気を付けていました。同僚の中にはカジュアルな会話の中でサラッと伝えるべきことを伝えるのがうまい人もいて、コミュニケーション能力の大切さは日米問わず一緒だなと感じました。
利用者が管理する食料に加え、パトロール中での重要なチェックポイントは公園内に設置されているゴミ箱です。公園内にはいろいろなサイズ・タイプのゴミ箱がありますが、どれもクマが開けることができない構造になっています。例えばキャンプ場にある大きなゴミ箱には、蓋にカラビナのクリップがかかっており、クリップを外さないとゴミを入れられない構造になっています。ただし、クリップが外れたままではクマが蓋を開けゴミをあさることができてしまいます。そのため、クリップがきちんとかかっているかを確認したり、ゴミ箱からあふれ出ているゴミを拾ったりといった作業も行います。クマチームの主な仕事はゴミの片付けなんじゃないかと思うほど、ゴミを拾ったり、ゴミ箱をきちんと閉めたりといったゴミ関係の処理が必要になることは非常に多かったです。

ペットボトルや缶用のゴミ箱。ゴミ投入口からゴミがあふれ出てくることもある。

大型のゴミ箱
ヨセミテには「クマを守るホットライン」という電話番号があります。ここには、一般利用者からクマの目撃情報や事故の情報が寄せられます。ホットラインはクマチームの留守番電話につながるので、情報が寄せられた際は、現場に駆け付けるのもチームの仕事のひとつです。現場では、クマと利用者が近づきすぎないよう利用者を誘導したり、クマが利用拠点から立ち去るよう追い払いをしたりといった対応を行います。追い払いでは、大声を出したり、ペイント弾(染料を固めた弾で、標的にあたると染料が砕け散る)を使って追い払いを行います。クマに対し、人間との関わりをネガティブな記憶として定着させる、すなわち、人との関わりを避けたいと思わせるような学習付けを行い、人がいる場所には戻ってこないようにすることが目的です。
過去10年の実績では、9割以上の場合に学習付けが効果的でしたが、それでもクマが人の食べ物を手に入れる事案や、キャンプ場など利用施設の近くに現れる事案も発生しています。このようなクマは人に危害を与える可能性もあるため、箱罠で捕まえて、基本的な生体情報を計測し、GPS付き首輪や電波発信機を装着して放獣し、モニタリングしています。ただ、このような努力をもってしても、人家に入るなど行動がエスカレートした個体は補殺(安楽死させる)せざるを得ないケースもあります。

電波発信機をつけたクマをモニタリングしている様子

クマによる事故件数・被害金額を知らせる看板。
現在ではこのような先進的なクマ管理プログラムで知られるヨセミテですが、歴史を紐解くと今に至るまでにはさまざまな変遷がありました。20世紀初頭には、クマが観光資源として積極的に利用されており、公園ではクマに餌を与える「クマショー」が開催されていました。この時代には、公園内のゴミ捨て場にもクマが集まり、人間の食べ物に慣れたクマと利用者との接触事故や車の破損などの問題が多く発生しました。
調査により食料とゴミにクマが誘引されていることが明らかになったことを受け、1980年代以降、クマが開けられない形状のフードロッカーやゴミ箱の設置等が開始されましたが、人員も予算も不足しており問題の解決にはつながりませんでした。ただ、ある連邦議会議員がプライベートでヨセミテを訪問した際、クマの被害を目の当たりにしたのがきっかけで、連邦議会においてクマ対策の重要性が認識されるようになり、1999年からヨセミテ国立公園のクマ対策に特化した形で、連邦政府予算50万ドルが毎年恒常的に確保され、本格的なクマ管理が行われるようになりました。
1999年に開始されたクマ管理の特徴は、徹底した食料管理と、それを実現するため公園の様々な部署が分野横断的に関わっていることにあります。クマとの軋轢解消には、問題を引き起こしているクマの行動改善といったクマ側への対策だけではなく、食べ物を放置しないなど利用者側への指導も重要となります。そのため、野生動物、インタープリテーション、ゴミ処理、キャンプ場、法執行などの部署により構成されるクマ評議会が設立され、定期的なミーティングなどを通じて密に連携しクマ対策が行われています。
前段でカリフォルニア州ではクマによる死亡事故はほぼないと書きましたが、死亡事故はないものの物損・傷害事故等はヨセミテでも毎年発生しています。私が滞在していた2024年の事故(物損や食料を食べるなど金銭的な損害が生じた事例。クマとの接触など人身事故も含む。)は34件であり、3000ドルの経済的被害が発生しました(出典:https://keepbearswild.org/bear-facts/)。これは過去最大の事故数であった1998年と比較し98%の減少となり、クマ管理プログラムの有効性が示されています。なお、2025年のデータでは、事故が27件、4,277ドルの経済的被害が発生しています。
これらの統計は、キャンプ場の掲示板など利用者の目につく場所に掲示されています。私が以前レンジャーとして働いていた知床ではヒグマの目撃数を公開し、利用者に注意喚起を訴えていましたが、日本でクマによる経済的損害も併せて情報を発信している例は見たことはありませんでした。日本でのメッセージの主眼は人身被害の防止や野生動物を守るという観点となりますが、ヨセミテのように経済的な観点からも対策の必要性を訴えることは、利用者に自分事として問題意識を持ってもらうことにつながる効果的な情報発信だと感じました。
ヨセミテのクマ対策には、アメリカの中でも比較的豊富な予算が確保されていますが、インフレのため、実質的な予算は減っているという側面はあるようです。それでも、日本と比べ職員体制が充実し、クマのモニタリングや追い払いなども含めきめ細かな管理ができていることは非常に印象的で、大きな学びを得ることができました。
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