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「オーストラリアのユニークな自然環境に迫る!」バックナンバー

0232022.05.10UPグレートバリアリーフの取り組みから考えるサンゴ礁の保全 ~豪州と日本を繋ぐ公開授業-地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-

南半球の初夏に当たる11月から12月にかけてみられるサンゴの大規模産卵

 世界最大のサンゴ礁「グレートバリアリーフ」では、ほぼ毎年、南半球の初夏に当たる11月から12月にかけて、サンゴの産卵がみられます。今年の夏も昨年(2021年)の11月に、何十億もの色鮮やかなサンゴたちの大規模産卵がみられました。

さまざまなサンゴが生息するグレートバリアリーフ © Tourism and Events Queensland

 生きものであるサンゴは、満月に近い夜に一斉に卵を産みますが、深夜の静まり返った海に放出される無数の卵は、まるで生まれたての星が夜空に散らばっていくかのような、幻想的な光景を見せてくれます。

 オーストラリアは、新型コロナウイルス・パンデミックによって閉ざされていた国境を徐々に再開しつつありますが、今はまだ観光客の姿が少ない静かな海に、たくさんの新たな命が生まれていく様子は、希望をもたらしてくれたと、研究者たちは感嘆の声を挙げたそうです。


毎年11月頃に起こるグレートバリアリーフのサンゴの産卵 © クイーンズランド州政府観光局公式YouTubeより

2022年3月に起こった大規模白化現象の陰でみられたサンゴのベビーブーム

カラフルな色合いの多様なサンゴが生息している © Tourism and Events Queensland

 オーストラリア政府管轄のグレートバリアリーフ海洋公園局は、公園内750以上のサンゴ礁を対象に航空調査を実施した結果、3月下旬に大規模な白化現象が発生したと発表しました。サンゴ礁の広範囲における白化現象は、1998年以来6回目となるそうです。

 ところが、広範囲で白化現象が進んでいるにも関わらず、グレートバリアリーフ北部のマグネティック島では、サンゴの赤ちゃんともいえる幼生が驚くほど増えていることがわかりました。

 これは、クイーンズランド州にあるジェームズクック大学がマグネティック島周辺で行ってきた「Seaweeding(シーウィーディング)」と呼ばれる作業の影響なのだとか。「Seaweeding」は、海藻によって日光が妨げられたり、栄養分がとられてしまうような状態になっていると、サンゴの成長が阻害されてしまうため、サンゴの周辺に生えてくる海藻を人間が取り除くものです。これは、庭の植木や野菜を大きく育てるために行う除草作業とまったく同じ原理といえます。

 研究によると、海藻除去作業を行ってきた結果、2019年と2020年には、サンゴの幼生の数が3倍に増加したといい、地道な作業の成果が現れてきているようです。マグネティック島周辺で行われてきた「Seaweeding」は、できることを少しずつでも継続してやっていくことで、環境や生態系にとってよい方向へ改善されていくことを示す、お手本のような事例です。こうした手作業で行う海藻除去には、ジェームズクック大学と市民科学者、ボランティアらが参加しているそうですが、大勢の人が関心を持って関わっていくことは、とても重要なことだと実感しました。


グレートバリアリーフの北部セクションに位置するマグネティック島 © Tourism and Events Queensland

シュノーケリングでもサンゴ礁を間近で見られるマグネティック島のフローレンス・ベイ © Tourism and Events Queensland


世界が力を合わせてサンゴ礁を守っていくために

 気候変動や海洋汚染によって海水温が上昇し、生態系に慢性的なストレスを与えていることは疑いようのない事実です。グレートバリアリーフという地球上最大のサンゴ礁があるクイーンズランド州では、世界有数のサンゴ研究拠点として、世界のサンゴ研究者との繋がりを深め、地球の遺産としての価値を再認識し、保全していく取り組みを積極的に行っています。

 その取り組みのひとつとして、昨年11月に、日本の喜界島にあるサンゴ礁科学研究所とグレートバリアリーフの海洋生物研究者を繋ぐ、オンライン公開授業が行われました。日本でサンゴの研究をする学生たちが、この分野の最前線で活動するオーストラリアの研究者から、直接学び、質問できるまたとない機会になったようです。パンデミック後には、お互い行き来しながら、サンゴ礁の環境改善に向けて、さらに研究が進むことが期待されます。

 今回、オーストラリアと日本を繋ぐ公開授業を拝見し、これからは、研究者だけでなく、一般市民である私たちも、普段の生活圏や旅行などで訪れる場所の環境や生態系に関心を持って接していくことが、よりよい環境をつくる第一歩ではないかと強く感じました。

 また自由に行き来ができるようになった時には、サンゴの生態や海の環境についての知識を深めるためにグレートバリアリーフを訪れてみてはいかがでしょうか。

グレートバリアリーフの研究者と日本を繋いで行われたサンゴ保全に関するオンライン授業 © 喜界島サンゴ礁研究所公式YouTubeより

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バックナンバー

  1. 001「知っているようで、意外と知らないオーストラリアという国。」
  2. 002「自然環境を大きく変えるグレートディヴァイディング山脈」 -ニューサウスウェールズ州-
  3. 003「世界最大の珊瑚礁と世界最古の熱帯雨林」 -クイーンズランド州-
  4. 004「コンパクトな地の利と多様な環境が育む‘食の宝庫’」 -ビクトリア州-
  5. 005「原始の森に包まれた世界でいちばん空気がきれいな島」 -タスマニア州-
  6. 006「乾燥と寒暖差を利用した世界屈指のワイン産地」 -南オーストラリア州-
  7. 007「インド洋に沈む夕日と独自の生態系が見られる資源の宝庫」 -西オーストラリア州-
  8. 008「湿潤な森と湿原、乾燥した砂漠の2つの顔を持つ準州」 -ノーザンテリトリー準州-
  9. 009「二大都市間に計画的に造られた政治の中枢都市」 -キャンベラ首都特別地域-
  10. 010「その昔は海だった!? 5億年以上前の地球を目の当たりにする、ウルル-カタジュタ国立公園」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  11. 011「地球にとって重要な古生物が今も生き続けるシャーク湾」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  12. 012「地球が生んだ七色の宝石と過酷な環境で暮らす地下都市・クーバーペディ」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  13. 013「自然界の偶然が生んだ奇跡の楽園!不思議な世界最大の砂島・フレーザー島」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  14. 014「砂漠地帯に残された氷河期の人類の足跡・ウィランドラ湖群地域」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  15. 015「オーストラリア史上最悪の森林火災はなぜ起きたか」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  16. 016「大規模森林火災でコアラ数万頭が犠牲になったカンガルー島」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  17. 017「世界一幸せな動物“クオッカ”が棲むロットネスト島」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  18. 018「驚くほど白い砂はなぜそこにあるのか?謎に包まれた純白の砂浜・ホワイトヘブン・ビーチ」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  19. 019「はやぶさ2が帰還した、何千年も前から変わらぬ風景が広がるウーメラ」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  20. 020「地球上の植物の歴史と進化を垣間見る、世界遺産ブルー・マウンテンズ」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  21. 021「コロナ禍の観光客減によるグレート・バリア・リーフへの影響」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  22. 022「オーストラリアの研究から見る、トンガの火山噴火。なぜ巨大規模噴火になったのか?」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  23. 023「グレートバリアリーフの取り組みから考えるサンゴ礁の保全 ~豪州と日本を繋ぐ公開授業」-地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  24. 024「豪雨がもたらす様々な被害、感染症と食糧不足の懸念」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  25. 025「地球上、最も乾燥した大陸を襲う大雨で砂漠地帯の内陸部が水没、甚大な被害」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
  26. 026「モンスーンが運ぶ豊かな水が育む命の森 ~リッチフィールド国立公園」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
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