皆さま、こんにちは。記録的な猛暑だった夏も終わり、一気に冬モードになってきましたね。気象庁による寒候期予報(12月~02月)(注1)を見ますと、今冬の気温は概ね平年並みと予想されているようです。本格的に冬に入る前に、必要な寒さ対策を準備しておきましょう。
さて今回は、窓を取り上げたいと思います。近年は国や自治体も高性能な窓の導入促進に力を入れていて、導入が進んできています。しかし、皆さんは普段、窓の重要さに意識を向けることってありますか?家を購入する時や選ぶ時には気にすることもあると思いますが、それ以外のタイミングで、窓のことを意識することはどれだけあるでしょうか。このコラムを読まれるような方であれば、もしかしたら考えているかもしれませんが、正直に申しまして、私はこの職に就くまで、窓のことを考えることはほとんどありませんでした。
しかし住宅の熱の大部分は窓から出入りしています。いくら暖房の出力を上げても、熱が外にどんどんと漏れ出すようでは、部屋はなかなか暖まりませんし、そもそもエネルギーの無駄です。窓の断熱性能を向上させると、熱の漏れ出しは減って暖房の効きが良くなり、さらに防音対策にもなります。最近は国や自治体から補助金も出ていて、比較的導入しやすい状況にあると思います。
ということで、今回も環境省の「家庭部門のCO2排出実態統計調査」(家庭CO2統計)(注2)を使って、高断熱窓の普及状況を見てみましょう(注3)。
本題に入る前に、日本の住宅の温熱環境に関する課題について少しお話します。
本コラムの第4回(注4)で、日本では暖房用途でのエネルギー消費量が他国と比較してとても小さいこと、そしてその主な理由が暖房規模の違いであることを紹介しました(詳しくは第4回をご覧ください)。
しかし課題はそれだけではありません。日本には、熱が漏れやすい家が多いのです(注5)。その理由は意外と複雑で、法制度的な課題だけでなく、文化的に冬の寒さ対策よりも夏の暑さ対策が重視されてきたことや、戦後の住宅大量供給時代にコストが重視されたことなど、多岐に渡ります。そして人々も、寒い住宅環境の中で長く生活してきたことで、特に高齢の方々にとっては寒い家が当たり前になっているのではないかと考えられます。
また、思い切って壁や天井の断熱性能を向上させるとなると、比較的大がかりな工事が必要になってしまいがちです。特に高齢の方の場合、そのような大がかりな工事は避けられることが多いです。
一方で、窓であれば導入は比較的容易です。また、寝室だけ、子供部屋だけ、リビングだけ、というように、部分的な導入で「お試し」もしやすいです。住宅の断熱性能を高める対策として、窓は最初に手を付けやすい部位なのではないでしょうか。
家庭CO2統計では、二重サッシまたは複層ガラスの窓があるかどうかについて調査しています。皆さんは、それらがどのようなものかご存知でしょうか?
二重サッシ(二重窓)とは、外窓と内窓の二重構造となった窓を言います(図1)。一方、複層ガラスは、1つの枠の中に2枚もしくはそれ以上の枚数のガラスが、隙間を開けて組み合わせられている窓を言います(図2)。ガラスが2枚の場合は二重ガラスやペアガラスとも言います。二重サッシと複層ガラスは混同されやすいのですが、全く別物です。二重サッシはガラスが2枚あるのではなく、枠も含めた窓そのものが2つある窓構造を指しています。複層ガラスの場合は、ガラス板は2枚(以上)ですが、窓は1つです。
【図1】二重サッシ(内窓新設)のイメージ図(出典:イラストAC(注6))
【図2】複層ガラス(二重ガラス) のイメージ図(出典:イラストAC(注6))
いずれもガラスとガラスの間に隙間(つまり空気の層)があり、そのことで、魔法瓶の水筒と同じ原理で熱が逃げにくくなります。熱の逃げにくさという点では二重サッシの方が優れていますが、複層ガラスの方が安価に導入できることが多いです。また、二重サッシの場合、窓が2つあることで開閉が若干面倒だと感じられることもあるようです。ただ、いずれにしても快適な温熱環境と省エネルギーの両立という点では、導入は効果的な対策と言えるでしょう。
なお窓から熱を漏れ出さないようにするには、窓枠の材質も重要です。日本ではアルミ素材の窓枠(アルミサッシ)が広く普及しています。アルミサッシは軽量で頑丈で安価、さらに気密性にも優れているのですが、熱が伝わりやすいため断熱性の点では難があり、冬になると結露が発生しやすくなります。近年は熱が漏れにくい樹脂サッシや、アルミと樹脂の複合サッシ(室外側はアルミ、室内側は樹脂)も出てきていています。
さて、これらの窓が現在日本でどのぐらい普及しているのかを見てみましょう。図3は、二重サッシまたは複層ガラスの窓の有無の状況を、10地方別(注7)に分けて示したものです。
【図3】二重サッシまたは複層ガラスの窓の有無(地方別・2023年度)
※四捨五入のため、合計が100%にならない場合があります。
まず一目瞭然なのが、北海道での普及率が高いことです。住宅内の全ての窓で採用されている割合が全体の78%を占めていて、一部の窓で使用されている割合も含めると、二重サッシまたは複層ガラスの窓の普及率は90%に上ります。東北地方や北陸地方でも他地域と比べると普及率が高めです。これらの地域は寒冷地ですので、窓を含め住宅の断熱性能を高めることの必要性が他の地域よりも高いことによります(注8)。一方で他の地域では、全ての窓で採用されている割合は20%前後で、一部の窓で採用されている割合と合わせても50%未満となっています。日本全体で見ても、採用されている割合は40%に留まっています。寒冷地以外の地域での普及が、現在の課題です。
続いて、住宅の建て方(一戸建て住宅or集合住宅)と住宅の建築時期という観点から、普及率を見てみましょう。
【図4】二重サッシまたは複層ガラスの窓の有無(住宅の建て方×建築時期別・2023年度)
※四捨五入のため、合計が100%にならない場合があります。
この図からは、一戸建て住宅では、築年数の浅い住宅で高断熱窓がしっかり普及していることが窺えます。2001年以降築の一戸建て住宅では、「全ての窓にある」割合が過半数となっており、特に2021年以降築の場合は、一部の窓での採用も含めると、普及率は94%に上ります。一方、ヒートショック等に弱い高齢の方々が多く住む築古住宅では普及が進んでいないことが窺えます。新しい家では、最初から高断熱窓の採用が当たり前になりつつある一方、築古住宅の場合は、窓を取り替えないと高断熱窓には置き換わっていきません。
また、集合住宅については、一戸建てと比べると新しい住宅でも普及が進んでいないことが窺えます。ここには色々な要因があると考えられますが、そのひとつには、一戸建ては居住者が所有していることが多い一方、集合住宅は賃貸物件が多いことがあると考えられます。オーナー(大家さん)にとっては、高性能なものを導入しても、それがお客さん(テナント)にとって「住みたい」と思う条件にならなければ、逆に家賃が上がってしまってリスクになってしまう、という側面があると考えらえます。今後は、賃貸住宅で高性能なものが採用されやすくなるような環境づくりが重要になりそうです。
最後にひとつ、シビアなデータをお見せします。図5は、二重サッシまたは複層ガラスの窓の有無を、年間の世帯収入別に分けて見たものになります。
【図5】二重サッシまたは複層ガラスの窓の有無(年間世帯収入別・2023年度)
※四捨五入のため、合計が100%にならない場合があります。
これを見ると、年収が低い世帯ほど、熱が漏れやすい窓を使っている割合が高いことが分かります。このような状況だと、年収が低い世帯の方が、高年収の世帯よりも、同じぐらい暖まるためにより多くのエネルギーが必要になってしまうため、十分に暖房することができず、我慢しないといけない状況に陥りやすくなります。このような状況を「エネルギー貧困」と言います。最近ではテレビでも報道されたので(注9)、聞いたことがある人もいるかもしれませんが、エネルギー価格が高騰してくると、今後より大きな社会問題になりかねないと考えています(注10)。
いかがでしたでしょうか。窓の現状を知るだけでも色んな課題が見えてきますね。寒い家が当たり前だという環境で長年過ごしていると、あまり窓の価値に気づきにくいかもしれませんが、健康で快適な生活を送るためにも、窓の性能に少し目を向けてみてはどうでしょうか。
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