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「統計から暮らしを読む」バックナンバー

0042025.05.07UP家庭の中でよく使われている暖房機器は?

 皆さま、こんにちは。前回の連載公開は2月末で、その頃はまだまだ寒かったですが、そこからわずか2ヶ月程度で夏日になって、半袖で過ごすことになるとは、びっくりですね。ここ数年は、春の短さに驚かされます。
 さて、今回も環境省の「家庭部門のCO2排出実態統計調査」(家庭CO2統計)(注1)の2022年度値を見てみましょう。前回までは主に、1世帯から排出されるCO2の量に着目してきましたが、今回は暖房に着目してみようと思います。冬が終わって暑くなってきたこの時期に暖房の話をするのは、季節感が無く申し訳ないです。しかし、暖房はエネルギーの使われ方を考える上で、とても重要な観点なのです。暑苦しいかもしれませんが、少しお付き合いください。

年間CO2排出量に占める暖房用途の割合は?

 図1は、1世帯が1年間で排出するCO2の量を、暖房、冷房、給湯、台所用コンロ、照明・家電製品等という5つの用途に分けて、それぞれがどのぐらいの割合を占めているのかを、地方ごと(注2)に分けて示したものです。この図の中の「暖房」の割合に注目してください。


【図1】2022年度の世帯当たり年間CO<sub>2</sub>排出量の内訳(地方別・用途別)

【図1】2022年度の世帯当たり年間CO2排出量の内訳(地方別・用途別)
※四捨五入のため、合計が100%にならない場合があります。


 この連載の第2回(注3)でもご紹介しましたが、暖房使用に伴うCO2排出量の割合は全国平均で20%を占めており、北海道や東北といった寒冷な地域ではその割合は多く、特に北海道では40%以上を占めています。このように、日本の家庭での省エネ・省CO2を考える上では、暖房はとても重要な観点なのです(一方で、沖縄では暖房が使用されることがあまり無いため、暖房由来のCO2排出はほとんどありません)。

最もよく使う暖房機器を地方別に見てみると?

 ところで、皆さんは普段、どのような暖房を使っていますか?冷房と言えば基本的にエアコンを指しますが、暖房には多くの種類があります。皆さんの中にも、いくつかの暖房機器を併用している方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。家庭CO2統計では、家庭の中にある色々な暖房機器の中で、最もよく使う暖房機器を1つ選んで答えてもらっています。図2(注4)は、その結果を地方別に示したものです。


【図2】家庭の中で最もよく使う暖房機器(地方別・2022年度)

【図2】家庭の中で最もよく使う暖房機器(地方別・2022年度)
※四捨五入のため、合計が100%にならない場合があります。


 分かりやすい特徴としては、ほとんどの地域においてエアコンの割合が40%前後となっている一方で、北海道ではそれが2%と非常に小さいことが挙げられます。近年は北海道でも夏の気温が高くなってきたことに伴い、エアコンが売れるようになってきましたが、あくまで夏に使うためであって、まだまだ、冬の主たる暖房として普及しているわけではありません。北海道で最もよく使われている暖房機器は灯油ストーブ類です。

 また、部屋だけでなく家全体を暖房するセントラル暖房システムに着目しますと、北海道では16%となっている一方で、他の地域においてはごくわずかとなっています。それに代わり、北海道以外の多くの地域では、電気カーペット・こたつの割合が20%前後を占めています。暖房の「房」は部屋を意味しますが、電気カーペットやこたつは部屋でなく身体を暖めるものなので、正確には暖房と呼べるものではないのですが、その割合が20%程度(5世帯に1世帯程度)を占めているというのは、実は日本の暖房の特徴とも言えます。

暖房用エネルギー消費量の国際比較

図3(注5)は、1世帯当たりの用途別エネルギー消費量を、諸外国と比較したものです。


【図3】1世帯当たりの用途別エネルギー消費量の国際比較

【図3】1世帯当たりの用途別エネルギー消費量の国際比較


 これを見ますと、日本の暖房用途でのエネルギー消費量が他国と比較してとても小さいことがすぐに分かると思います。なぜこれほどの差があるのでしょうか。その要因の1つとして、暖房のしかたが大きく異なっていることが挙げられます(注6)。ここで比較対象として挙げている国々では、家全体を暖房する全館暖房が主流である一方、日本では、さきほど見たように、部屋単位で暖める暖房機器が主流で、電気カーペットやこたつのような、身体だけを暖める機器も主たる「暖房」機器として用いられています。つまり、暖房用途でのエネルギー消費量が諸外国と比べて少なくなっている要因の1つとして、暖房規模の違いが挙げられるのです。

日本の暖房は「省エネ」?

 さて、これは「省エネ」なのでしょうか?

 ある意味では「省エネ」と言えると思います。使っていない部屋も含めて全室を暖めるというのは抵抗を感じる人も多いと思います。人のいないところを無駄に暖めはしない、というのは合理的で、その意味では「省エネ」でしょう。
 一方で、日本の寒い住宅では、ヒートショックで命を落としてしまう方々が毎年いらっしゃいます。ヒートショックの原因は温度差です。暖房をしている部屋は暖かいのに、廊下やトイレ、脱衣所は非常に寒いため、暖房している部屋を出ると血圧が大きく変動し、心臓や血管に負担がかかってしまうのです。

日本国内に、北海道よりも寒い場所がある?

 このような健康被害が、実は北海道を含む寒冷地よりも、比較的暖かいと思われているような地域で多く発生している、という報告があります。少々古いデータですが、2011年に全国47都道府県における入浴中の心肺停止件数を調査した事例をみますと(注7)、高齢者1万人あたりの入浴中心肺停止件数が、北海道は沖縄県に次いで全国で2番目に少なく、青森県も全国4位です。一方で最も多いのが香川県で、次いで兵庫県、滋賀県、東京都と続いています。この原因を暖房の規模だけで説明するのはさすがに無理がありますが、少なくとも、北海道での件数が少ないことの要因として、暖房が貢献しているということは言えると思います。

 なお、冬季のリビングルームの室温を調査した研究事例もありますが(注8)、その結果でも、最も暖かかったのは北海道、最も寒かったのは香川県となっています。両方の調査で香川県が最も悪い結果となったことは偶然かもしれませんが、外気温が寒い北海道よりも、寒い家が多い地域は実はたくさんあることは間違いありません。そのような寒い家では健康被害リスクも高くなるということを、高齢化がますます進む日本においては特に注意しておく必要があると思います。

 このような現状を踏まえると、日本の暖房の状況は「省エネ」というより「暖房不足」と言えるのかもしれません。省エネ・省CO2を目指すことは大事ですが、足りていないところからさらに減らすことは容易ではありません。ウェルビーイングと省エネ・省CO2との両立を目指してゆくことが大切と言えます。

 今回は暖房に着目してみましたが、いかがでしたでしょうか。暖房に着目すると、難しい課題がたくさん出てきますので、またいつか改めて、暖房のことについて書きたいと思います。
 次回は、CO2排出量が近年どのように推移してきたのかについて紹介しようと思います。


注釈

(注1)
環境省 家庭部門のCO2排出実態統計調査(家庭CO2統計)
(注2)
家庭CO2統計における地方と都道府県の対応は以下の通り。
北海道:北海道
東北:青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
関東甲信:茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県
北陸:新潟県、富山県、石川県、福井県
東海:岐阜県、静岡県、愛知県、三重県
近畿:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
中国:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
四国:徳島県、香川県、愛媛県、高知県
九州:福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県
沖縄:沖縄県
(注3)
エコレポ「統計から暮らしを読む」第2回:1世帯が排出するCO2の量を地域別にみると?
(注4)
令和4年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査(確報値)を用いて、住環境計画研究所が作成
(注5)
環境省 (2020) 令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書, 第3章, 図3-1-7
(注6)
もちろん、比較している年次が違うことに加え、そもそも、気候、住宅の大きさ、文化等、様々な条件が異なることにも注意を払う必要があります。
(注7)
地方独立行政法人東京都健康長寿命医療センター研究所 (2014) 「入浴中に心肺停止(CPA)状態におちいった全国9360件の高齢者データを分析」
(注8)
Umishio, W., et al (2020) “Disparities of indoor temperature in winter: A cross-sectional analysis of the Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan” Indoor Air, 30, pp.1317-1328

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バックナンバー

  1. 001「1世帯が1年間で排出するCO2の量はどのぐらい?」
  2. 002「1世帯が排出するCO2の量を地域別にみると?」
  3. 003「1世帯が排出するCO2の量を住宅の建て方別にみてみると?」
  4. 004「家庭の中でよく使われている暖房機器は?」

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