皆さま、こんにちは。前回は、環境省の「家庭部門のCO2排出実態統計調査」(家庭CO2統計)(注1)を用いて2022年に1世帯から排出されるCO2の量が2.59トンだったということをご紹介しました(注2)。今回はこの1世帯あたりにCO2排出量2.59トンという数字を、同じく家庭CO2統計を使って、もう少し細かく見てみようと思います。
なお、前回お伝えすべきでしたが、このシリーズで言う「世帯から排出されるCO2」の範囲について、認識を共有したいと思います。
このシリーズで扱う「世帯から排出されるCO2」は、エネルギーを使うことにより排出されるものを言います。実際には、ゴミや水の使用もCO2排出に関係するのですが、ここでは取り扱いません。また、ここで取り扱うエネルギーについては、大きく分けて、家庭内用途(電気・ガス・灯油)と自動車用途(ガソリン・軽油)の2種類がありますが、先ずは家庭内のエネルギー使用についてご紹介しようと思います。自動車用途についても別の機会にご紹介したいと思います。
まずここでは、電気、ガス、灯油といったエネルギーの種類でみるのではなく、エネルギーの使い道(用途)でみてみようと思います(図1)。
この図では、1世帯が1年間で排出するCO2の量を、暖房、冷房、給湯、台所用コンロ、照明・家電製品等という5つの用途に分けて、それぞれがどのぐらいの割合を占めているのかをみたものです。
これを見ると、全体の半分弱を照明・家電製品等が占めていることが分かります。ここには、照明機器の他、冷蔵庫、テレビ、パソコン等の家電製品全般が含まれています。ひとつずつの影響はここからは読み取れませんが、そういったもの全部を積み上げると全体の半分近くを占めることになります。中でも冷蔵庫の影響は大きめです。冷蔵庫は24時間365日稼働し続けている、かなり「頑張っている」家電です。中に詰め込み過ぎたり、強く冷やし過ぎたり、何度も開け閉めをしたりすると、エネルギー消費量が増えてしまいますので注意しましょう。
次いで多いのが給湯です。お風呂や台所でのお湯の使用がこれに該当します。海外ではシャワーのみで済ますことも珍しくありませんが、日本の家庭では毎日浴槽に湯を張って湯船に浸かるのが普通で、世帯全体のCO2排出量の1/4近くを占めています(最近はシャワーだけで済ます世帯も増えているようですが)。何度も追い焚きをしたり、シャワーを流しっぱなしにしたりすると、お湯をたくさん作らないといけなくなり、エネルギー消費量が増えてしまいますので気を付けましょう。
その次に多いのが暖房ですが、暖房のCO2排出量には地域差があります。全国平均では20%弱ですが、寒冷な地域ではその割合は多い一方、沖縄では暖房用途でのCO2排出はほとんどありません。逆に冷房用途でのCO2排出量は、寒冷な地域では少なめです。このあたりは後ほど少し詳しく見てみましょう。
なお、暖房用途のCO2排出量が多くなるか否かは、気候だけで決まるわけではありません。大きい家に住む世帯や人数が多い世帯では、家の中で暖房する面積が増えますし、家で過ごす時間が長い世帯では、暖房する時間が長くなります。暖房機器の種類や、家の断熱性・気密性などによっても変わります。暖房の使い方や家の質にも気を付けることが大切です。
さて今度は、1世帯が1年間で排出するCO2の量を、地方別(注3)に見てみます。皆さんのお住まいの地域と他の地域を比べてみて、どんな違いがあるか、なぜそのような違いがあるのか、考えてみましょう。
図2はエネルギー種(電気・ガス・灯油)別に積み上げたもので、一番右側にある「2.59」が、前回ご紹介した全国平均の値です。棒がたくさんあってイヤですよね、ごめんなさい。
これを見ると北海道、東北地方、北陸地方といった寒冷な地方で、1世帯あたりのCO2排出量が多くなっていることが分かります。そして、これらの地方では灯油由来のCO2排出量が多くなっています。灯油は主に暖房や給湯に使われる燃料で、特にこれらの地方では暖房として灯油が使われる割合が多いです。ただ、北陸地方では、北海道や東北地方と比べて灯油由来のCO2排出量は少なめで、代わりに電気由来のCO2排出量が全国最多となっています。オール電化世帯が比較的多いという北陸地方の特徴が表れています。
続いて図3は、1世帯が1年間に排出するCO2の量を、用途別に積み上げたものです。
これを見ると、前述の北海道、東北地方、北陸地方といった寒冷な地方では、暖房によるCO2排出量が多くなっているのが分かります。一方、給湯や照明・家電製品といった用途については、幾らか差はあるものの、暖房ほどの地方差は見られません。これらの用途については、家の大きさや世帯人数等といった要因の方が影響します。このあたりは、また別の機会に深掘りしてみましょう。
ここで2点、注目すべきポイントがあります。
ひとつは、沖縄のCO2排出量です。図4は、1世帯が1年間に排出するCO2の量ではなく、エネルギー消費量で比較したものです。図2と図4を比べてみてください。実は沖縄は、エネルギー消費量で比較すると全10地方の中で最も少ないのですが、CO2排出量は上から5番目です。これは、沖縄で使われている電気の発電方法が、石炭等の化石燃料由来である割合が高いことによります(注4)。一方、再生可能エネルギー由来の発電や原子力発電といった、発電時にCO2を排出しない方法による電気が多いと、CO2排出量は少なくなります。近畿地方のCO2排出量が最も少なくなっているのは原子力発電の割合が大きいことの影響が大きいです(注5)。
このように発電方式には地域の特徴が現れており、それがCO2排出量にも含まれています。個人・世帯レベルでは、再生可能エネルギー由来の発電割合の高い電気を契約したり、太陽光発電を導入したりすることは可能ですが、地域全体にそれを波及させることは容易ではありません。このように、CO2排出量の数値を見るときは、個人・世帯レベルでできることと、できないことの両方が含まれているという点を知っておくことが重要です。
ここで気を付けたいのは電気自動車です。今回冒頭、自動車用途については別の機会に紹介すると申しましたが、ちょっとだけお付き合いください。
電気自動車はクリーンなイメージがあるかもしれませんが、充電する電気が「汚れて」いると、CO2排出量を減らすことには繋がりません(ただし、走行中の排気ガスは無いので、そういう意味ではクリーンです)。皆さんが契約している電力会社は、どんな方法で発電しているかをちゃんと公表しているはずです。電力会社名と一緒に「電源構成」と入力して検索してみてください。
もうひとつは、図2をみても図4をみても、全体として寒冷地の世帯のCO2排出量やエネルギー消費量が多く、都市部の世帯では少ないという点です。こういう図表を見ると、都市部に住む方で「いっぱいCO2を排出しているところがCO2を減らすべきだ」ということを思う方はいませんか?つまり「寒冷地がもっと頑張るべきだ」という考えです。もちろん、そういう面もあると思います。
しかし、ここで図5(注6)を見てみてください。
これまでは1世帯当たりでみてきましたが、これは日本中の全世帯からの排出量の内訳です。これを見ると、1世帯当たりではCO2排出量の多かった北海道で7%、東北地方で9%、北陸地方で5%となっている一方、関東甲信地方は35%、近畿地方は14%となっており、この2地域だけで全国の約半分を占めていることが分かります。この2地域は世帯数が圧倒的に多いため、全体でみれば、このような割合になるわけです。
大事なのは「いっぱいCO2を排出しているところ」というのは、見方によって変わるということです。つまり、一人一人が、自分にとって「いっぱいCO2を出しているところ」に目を向けて、減らしてゆくことが大切だと言えます。
さて今回は盛沢山になってしまいましたが、どうでしたでしょうか?少しは新たな気づきが得られましたでしょうか?次回はまた違った視点から「いっぱい排出しているところ」を探してみましょう。
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