「かしこい省エネは、まちの電器屋さんに聞け!」バックナンバー
坂口テレビサービス株式会社は、現社長の坂口昌弘さんの父が昭和36年に設立。
会社がある滋賀県大津市やお隣の草津市は、京阪神のベッドタウンとして開発された40年くらい前に、当時の新興住宅地に引っ越してきた世代が多く住んでいる。1人暮らしのお年寄りも多い。一方、進学校への入学率が高い学区にマンションが立ち始めて、若い人が多く住む地域もある。最寄りの東海道本線の瀬田駅は、京都駅から20分足らず。大阪にも1時間ほどで行ける距離だ。
もともとは家電メーカーの系列店だったが、早くから各メーカーの製品を扱うようになった。
「省エネ機器の販売促進をするにはまず『地球に優しい暮らしってどんなん?』みたいなライフスタイルの提案をしなければならない」と坂口さんは言う。年金暮らしのお年寄りに、高価な省エネ家電製品を売る前に、いま持っている製品の上手な使い方を伝えるのが地域電気店の役割だと考えている。「20年前のエアコンだからもう買い替えなさいよ。電気代が5?6倍ちゃいますよ」と言うのではなく、エアコンをどう上手に使ったら良いかを伝えていく。例えば、寒いから暖房の設定温度をマックスに上げるのではなく23度設定で一枚多く着るとか、夏場ちょっと買い物行くにはクーラーは切らないほうが良いとか、そんなことからだ。電気に限らず、水道の使用量やガスの省エネ、灯油の省エネでなど、インフラ自体のコストを下げることを一緒に考える。我慢するのではなく、快適な暮らしをする中でいかに節電をしていくかの提案をする。そして「ほんまやな、あんたが言う通り、電気代が去年と比べたら安なったわ【1】、ちょっと。他になにかもっとええ方法はありませんか?」と、お客さんから言ってくれるよう道筋を作る。そして「もっと電気代を下げる方法はあらへんの?」と聞かれたら、ハードである省エネ器具の買い換えを提案する。買い換えの話をする前に、お客さんが省エネを意識し出すことができるのが、理想的だ。
滋賀県地球温暖化防止活動推進センター(以下、温暖化センター)の来田さんも「地域の中で販売されたものを地域の中できちんとメンテナンスし、その使い方をフォローしていく。それが、町の人々の信頼にも繋がっていく。こういった地域のつながりや支え合いが、今後、環境省の推進する地域循環共生圏【2】の実現に向けて大切になってくると思います」と、坂口さんの考えに同意する。
坂口さんは、電器店のほかに株式会社暮らしの便利便【3】という暮らし・住まいのお困り事を一手に引き受ける会社を2006(平成18)年の12月に立ち上げている。
ある時、昔からの電器店のお客さんが「こうもりの巣ができたからどけて欲しいけど、どこに頼んだらいいかわからない」と暮らしの便利便のほうに電話してくることがあった。チャンネルを多角化したことで、昔からの顧客が本業以外のお困りごとを頼みやすくなっているのだ。
また、常連客にはサービスでやっていたことを、新規の顧客なら有料化しやすいというメリットもある。家電製品はネットや量販店で買うけれども、暮らしの中での困りごとはどこに頼んだら良いかわからない、というこれまでの顧客ではない若い世代からの依頼もある。地域で長く仕事をしている坂口テレビサービスがやっている会社だからこそ、信用してもらえる。
「家電の販売、点検ついでに、生活のお困りごとサービスはするけれど売り上げになかなか繋がらないというのは、全国のまちの電器屋さんの悩みです。サービスがなくなったら、常連のお客さんが困るから使命感で続けています。結果、それは消極的なサービスになるんです。僕は積極的に全部拾っていこうというスタンスでやっています」と坂口さんはいう。便利便という事業にすることで売り上げをあげて、地域にとって役立つ存在にもなれるのだ。電器店の人は器用だから、便利便に必要な新しい技能を身につけるにもとりかかりやすい。積極的に取り組むことによって仕事の幅も増えるし、新しい雇用も増えるようなプラス要素になりうる。
昔はどこにでもあった文房具屋さんは、今ほとんど見当たらない。酒屋さんはあるけれども、酒屋さんでなくても酒類を売ってもよい時代になった。このまま電器店というカテゴリがずっと続くかどうかもわからない。便利便というチャンネルが世の中の流れにハマる可能性は大いにある。
一般に、滋賀県民は環境意識が高いと言われている。40年ほど前、琵琶湖で大規模な赤潮が出たときに、石鹸運動という大きな環境運動が起こったことがきっかけだ。滋賀県の子どもは、小学5年生になると「うみのこ( https://uminoko.jp/ )」という県の学習船に乗って琵琶湖について学ぶので、琵琶湖を通じて環境意識を育む。
最近の異常気象などに対しても「なんだかちょっとおかしいな」という感覚は持っている。2019年のように暖冬になると、水温が表水層から深水層まで一様になる「琵琶湖の全層循環」が起こらず、生態系が変わるかもしれないと、滋賀県民の多くは知っているのだ。
ただ、温暖化対策にまでは目が向かない。赤潮は、自分たちが日常で合成洗剤の代わりに石鹸を使うことで消えていくのが目に見えて実感できたのだが、温暖化対策の成果はなかなか見えないので、自分との繋がりが感覚的に理解できないのだ。
滋賀県では2050年までにCO2排出実質ゼロを目指す「“しがCO2ネットゼロ”ムーブメント」宣言【4】をしており、県内で宣言への賛同と取り組みへの参加を呼びかけている。
温暖化センターの来田さんは、宣言を実行するため、ムーブメントを起こすためにも、まちの電器屋さんと連携していきたいと考えており、滋賀県電器商業組合理事長の坂口さんとの相互協力に期待をよせる。
「もし滋賀県電器商業組合さんとお話できる機会があれば、皆さんからのお知恵をいただいてどういう風にどんなことができるか、新たな提案をさせていただきたいです。温暖化対策をしていけるようなまちづくりの取り組みを行うなかで、まちの電器屋さんに活躍してもらえたら非常に助かります」と働きかけている。
坂口さんは、環境への取り組みはもちろん、県警と連携した高齢者のみまもり【5】など、まちの電器屋さんとして地域の課題に対して担える仕事はたくさんあると考えている。
「電器店のなかで跡継ぎのいるお店には、これからの時代に必要とされる仕事のあり方を話していかなければならないと言っています。環境意識や地域への貢献意識の啓蒙から始まって、自ら事業計画が立てられるようにしてもらいたいと思っています。そういう勉強会をこれから温暖化センターさんにもしてもらおうかなと考えているんです」
さらに、電器店の仕事にこだわらず、暮らしの便利便も横展開できればという考えもある。機動力のある人材がいれば、地域ごとに仕事を振りわけられる。“便利便”で一括して依頼を受けて、依頼内容と現場のマッチングをして各地域の人材に任せれば、地域循環できる。
「お客さんと一度顔を繋げたら、その後は直接頼んでもらえばそれでいい。こっちは新規のお客様の窓口で良い」と坂口さん。
来田さんは便利便の使いやすさをこう説明する。
「こんな、些細なことを頼めるだろうかと悩んでおられる方にとって、HPにサンプル的に作業内容を上げてくださっているので、お願いしやすいと思います」
若い人の所得が決して高いとは言えない家電販売業界で、まちの電器屋がただ物を売るところではなく、社会のために頑張る業種となり、社会課題を解決するのが使命となれば、モチベーションのある若い人たちも入ってくるだろう。それがまちの電器屋さんのひとつの転機となるかもしれない。
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