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「かしこい省エネは、まちの電器屋さんに聞け!」バックナンバー

0032020.02.25UP家電製品の適切な使い方を伝え導くのが、地域電器店の一番大事な役割

まちの電器屋さん:株式会社敬尚電気山田店代表取締役社長 谷川修久さん
昭和31年高知市生まれ。昭和52年に前身の株式会社敬尚電気に入社。山田店に7年ほど勤務したあと、当時はグループ企業だった南国店に移って20年ほど勤務、平成13年に山田店に戻る。平成22年より山田店の経営権を従業員ごと引き継いで、株式会社敬尚電気山田店を設立。
高知県電機商業組合副理事長。
聞き手:高知県地球温暖化防止活動推進センター・プロジェクトリーダー 中村将大さん
平成24年から「NPO法人環境の杜こうち」にて地球温暖化に関する業務を担当。
同NPO法人が高知県から指定を受け運営する「高知県地球温暖化防止活動推進センター」業務を通じて、県内の市町村や団体等と連携し、地球温暖化防止活動を推進している。
NPO法人いなかみ 代表理事 近藤純次さん
元高知県地球温暖化防止活動推進センターのスタッフ。現在は、香美市の移住促進をミッションとするNPOを立ち上げて、独立。そのかたわら、高知県地球温暖化防止推進員として、地域の温暖化対策にもかかわっている。
株式会社敬尚電器山田店社長の谷川修久さん(左)と、高知県地球温暖化防止活動推進センター・プロジェクトリーダーの中村将大さん(中央)及びNPO法人いなかみ代表理事で高知県地球温暖化防止活動推進員の近藤純次さん(右)

株式会社敬尚電器山田店社長の谷川修久さん(左)と、
高知県地球温暖化防止活動推進センター・プロジェクトリーダーの中村将大さん(中央)及び
NPO法人いなかみ代表理事で高知県地球温暖化防止活動推進員の近藤純次さん(右)


2千円のシェーバー1つのために、往復1万円かけてやってきた客

 高知県香美市は、土佐平野の北東部、面積約540km2、人口約2万7千人(2020年1月現在)の緑豊かな風土にある。2006年に清流物部川流域の旧3町村が合併して発足した、旧町村名でいう土佐山田・香北・物部の3地区で構成される。人口は減少傾向にあり、特に香北、物部と山深くなるに従って人口密度が下がり、逆に平均年齢はあがっていく。
 香北地区では、暮らし自体は都市部の住宅街とそれほど変わらないものの、昔と比べてバスの便も減ってきた。車に乗れなければ、病院に行くにも何をするにも、一苦労だ。物部地区になると、街中以外はもうほとんど高齢者ばかり。夫婦2人で暮らしているところは少なくなって、多くは独居老人宅となる。たまに息子や娘が家族でやってきて面倒を見るような、そんなところがほとんどになっている。

JR土佐山田駅から駅前通りを歩いて5分ほどのところに立地する、株式会社敬尚電器山田店

JR土佐山田駅から駅前通りを歩いて5分ほどのところに立地する、株式会社敬尚電器山田店

 敬尚電器山田店社長の谷川修久さんが電器店に勤め始めた昭和52年当時は、旧物部村にもスーパーはもちろん、映画館やパチンコ店もあったし、スナックも結構あって、人々で賑わっていた。今は小学校も地区内に1校となって、子どもの人数も少ない。もうあと10年もしたら子どももいなくなってしまうのではないかと心配している。
 そんな物部地区から、つい先日、ある買い物客が店を訪れたという。
 「物部の大栃いうところから、タクシーに乗って店に来られた方がいました。シェーバーが壊れたので買いに来たと言うんです。タクシー代はいくらになりますかと聞いたら、片道5千円かかると言います。2千円ほどのシェーバーを買うためだけに、往復1万円をかけてわざわざやってきたわけです。“そんなこと、もうせんといてください、2日に1度は物部までうちの従業員が行っとりますんで、電話してもらえれば配達しますから”とお伝えしましたが、物部の人たちは、今や家電はもちろん、暮らしのことで相談できる人もいない、そういう状態ながですよ」
 香北地区や物部地区には現在、家電販売店が1軒もない。電器店のない地域に住む人たちがそれぞれ車に乗って買い物に行くよりも、2日に一度でも山田地区から車1台でまわって、それぞれの必要なものを届けられた方がはるかに効率的だし、CO2排出量の削減にもなる。

割り切った買い物をする若者と対照的に、買い物に出かけるのにも難儀する高齢者

 市域全体では人口が減っている香美市内でも、山田市街は若い世代の移住・流入が増えている。高知工科大学の山田キャンパスができたこともあって、主に学生向けのワンルームのアパートもたくさん建ったし、県内の市としては唯一海岸線に接していないこともあって、高台の街をめざして移住してくる若いファミリー層も目立つようになってきた。こうした若い世代は、地域電器店よりも大型店をまわって買い物をするのが一般的だが、最近はそんな人たちからの依頼も入ってきていると谷川社長は言う。
 「若い人たちは、まずネットショップで値段を調べてから、量販店の店頭でデザインや使い方を確認して、安ければ買っていくという割り切った買い物の仕方をしています。うちのような地域店にはそもそもあまり来ませんけど、最近は据え付け工事やアンテナの設置の問い合わせなどが入ってくるようになりました。量販店では都合のよい日時に来てもらえないとか、エアコンの設置が2週間待ちになるとか、そんな事情もあって、近所の電器店に電話をしてまわって、すぐに来てくれるところを探しているようです。そんな時代になっているんですね」
 一方、高齢者の場合はそんなふうにはいかない。子どもが独立して、高齢夫婦の2人暮らし、もしくは連れ合いに先立たれて1人暮らしをしている人の場合、買い物に行くのも一苦労となる。地域電器店にとっては、古くからの馴染み客が顧客の中心層だから、8割方は60歳以上の高齢世帯だ。
 「5つ星の省エネ家電は、商品そのものはとてもええんですけど、1人暮らしの80歳以上の方だともう使い切らんのですよ。若い世代の4人家族やったら、ランニングコストを考慮して、同じ500リットルの冷蔵庫を買うなら、5つ星製品の方が電気代は半分近くになって、年間で5千円くらい違ってくるので、これから10年使こうたら5万円違ってきますよと、そういった話もできます。でも、年金暮らしの高齢者には、酷な話です。そら、壊れたらやっぱり買うていきますけど、その先何年使うのかと考えると、物を売ること自体が悪いような感じもするんですよ」

家族構成はもちろん、部屋の状況なども知ったうえで提案できるのが地域電器店の強み

 地域の電器店としては、省エネ家電への買い換えもさることながら、まずは購入してもらった商品をどう使ってもらうかが大事だと谷川社長は言う。
 家電製品の使用状況は、地域や家庭によって異なる。高知県では冬季の暖房にもエアコンを使う家庭が多く、その場合、冬季の電気代は3割方を暖房が占め、その次に照明や冷蔵庫と続くのが一般的といえる。ただ各家庭で使用する家電製品等によっても構成比率は大きく変化する。地域電器店では、そんな家庭ごとの使用状況をきちんと把握しながら、各家庭に合った使用方法を伝え、導いていく。
 「地域店であるぼくらの強みは、ご家庭の家族構成はもちろん、部屋の状況なども知ったうえで提案できることです。台所や居間の様子もわかっていますから、ここにエアコン付けたかったら、ここに乗せて、電気配線はこうやって引っ張らんといかんねえといったこともすぐにわかります。設置する部屋や使用頻度によって、お勧めする商品も変えています。例えばリビングで毎日長時間使うエアコンやったら、当然、省エネ性能の高い5つ星の製品の方が電気代は安くなりますし、暖房の効率もすごくよくなりますと説明しています。そしてなにより、買うてもろうた家電製品の上手な使い方を説明するのが、ぼくら地域電器店としては一番重要やないかと思うがです」
 例えば、エアコンを冬の暖房に使う場合は、立ち上がりにファンヒーターを点けて部屋を暖めるのが効果的だ。部屋がある程度暖まった段階でエアコン暖房に切り替えれば、電気代も節約できる。一方、夏に寝室で使う場合、温度は28°に設定するように伝えている。ただし、扇風機やサーキュレーターを併用して、天井に向けて、弱にして送風する。これによって、28℃の温度設定でも26℃以下の体感になる。
 使い方とともに、使用する部屋の状態を改善するのも省エネ性能の向上に役立つ。エアコンの場合、冷房時の消費電力は全体的にかなり省エネ化が進んできているが、隙間風が吹くような部屋では、冬なら外の冷気が侵入してくるし、夏には熱風が入ってきて、せっかく暖めたり冷やしたりした室内の暖気や冷気が逃げていくことになる。
 「窓ガラスからの熱の出入りも大きいですから、窓に断熱シートを張ると効果的です。今の時代、ホームセンターなどでいくらでも買えますから、そういう家電製品以外のアドバイスも含めて、ただでできるサービスを心がけています」

 365日24時間稼働している冷蔵庫の場合は、省エネ性能が高くなれば電気代の節約効果にも大きく影響する。使い方のポイントとしては、一番消費電力が高くなる夏季の放熱効果の向上が最重要だ。
 「冷蔵庫は、一度据え置いたら、ほとんど動かすことがないのが普通です。冷蔵庫の裏や底面にどれくらい埃が溜まっているか、お客さん方は、全然知りません。買い換えたときに、初めて気が付くわけです。冷蔵庫の裏側にある放熱器が埃で目詰まりしてもうたら、放熱効果はかなり低下しとるわけですから、無駄な電気代を使うことになります。私らは、そういうところのメンテナンスで、半年に1回くらい訪問して、掃除をさせてもらいます。買ってもろうた商品をいかに上手に使うかが、一番のポイントです」


地域の店として、電器店が今後担うべき役割がある

 時代の変化を感じながら、今後、地域電器店が担うべき役割も変わってくるのではないかと、谷川社長は話す。
 「地域の電器屋さんって、自分とこのお客さんのことはよくわかっています。ところが、その隣のお宅のことになると、ほとんど何もわかっとらんのです。お客さんから、“あそこ一人やき、困っているから行ってやって”と、お隣さんを紹介されることが、実は、最近は増えてきました。ほとんどが年配の方で、お子さんも県外におるとか、高知市内におってもなかなか来られないような人たちです。うちのお客さんやったら、困ったことがあればいつでも電話してもらえれば駆けつけます。家電製品だけでなしに、雨戸のことやら水回りのことやらと、何でも言われます。でも、紹介されるのでもない限り、私らから声をかけることはできません。そんな人たちに対して、地域のお店として何ができるのか、何をするのが一番いいのかということを、最近よく考えるがですよ」
 地域電器店にとって、馴染みの固定客は年々高齢化していっているから、徐々に減ってきていることもひしひしと感じている。そうした中で、地域電器店はこれからどういう方向に舵を切っていくべきか。ただ家電製品を売るだけではない、地域のためにするべきこともあるはずだ。そんな岐路に差し掛かっていると、谷川社長は話す。

敬尚電器山田店代表取締役社長の谷川修久さん。ひとり暮らしの高齢者には、大きすぎず、余計な機能で惑わせない、それで省エネ性能を高くして月々の電気代が安くなる、そんな製品をメーカーに作ってもらえれば買い換えもお勧めしやすいと話す。

敬尚電器山田店代表取締役社長の谷川修久さん。ひとり暮らしの高齢者には、大きすぎず、余計な機能で惑わせない、それで省エネ性能を高くして月々の電気代が安くなる、そんな製品をメーカーに作ってもらえれば買い換えもお勧めしやすいと話す。


「大川村まるごと!省エネ電球交換大作戦」の経験を経て

 高知県では、もう10年ほど前になる平成21年10月に、土佐郡大川村を舞台にした「大川村まるごと!省エネ電球交換大作戦」を実施している。四国の水がめ「早明浦ダム」の水源地の森林が村域全体の93%を占める大川村だからこそ、水源地を守る村として継続的な森林整備と併せて村ぐるみでCO2の排出削減に取り組んだ。
 作戦の内容は、人口約400人・200世帯ほどの村の全世帯の白熱灯約1,200球を省エネ電球(蛍光ランプ)に交換するというもの。この作戦をきっかけに、持続可能な温暖化対策について考え、実践していくことをめざした。
 実行委員会には、大川村と高知県電機商業組合、高知県地球温暖化防止活動推進センターのほか、エコ議員連盟や環境省中国四国地方事務所高松事務所や経済産業省四国経済産業局、賛同企業各社も名を連ねた。
 その後も、高知県センターと電機商業組合は継続的な情報交換等により、普及啓発のパンフレット作成などで協力体制をとってきた。
 来年度(2020年度)、高知県地球温暖化防止活動推進センターでは、独自予算を組んで、省エネ家電の買い換えを訴求するパンフレットを作成したいとプロジェクトリーダーの中村将大さんは話す。地域電器店ならではの現場の声なども聞き取りながら、「こんなご家庭には、こんなアドバイス」とか「エアコン・冷蔵庫ならこんな使い方をすると賢く省エネできる!」などといった、それぞれの暮らしに合わせた家電の使い方の具体的な提案を盛り込んだものにしていこうという計画だ。


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