「かしこい省エネは、まちの電器屋さんに聞け!」バックナンバー
株式会社ケイ・ディック(以下、K-DIC)は黒田さんの曽祖父が1892年に金物店として創業。1965年から家庭用電器機器の販売を始め、2005年から現在の社名となった。創業当初は地域に必要なものをということで、田植えの時期になれば縄、稲刈りの時期は鎌などを店の前に置いて、提供していた。戦後、米を薪で炊く鍋釜がだんだん電気釜に代わる時代になると、黒田さんの父親が大阪に丁稚奉公に出て勉強をして帰ってきて、金物店の半分を電器店にした。
「業態は変わってきていますが、地域のお客様のためにできることに取り組んできました。何を売るかは“変わっていいもの”ですが、地域のためにという基本姿勢は“変えちゃいけないもの”だと思うんです」と黒田さん。
K-DICのメインの仕事は、買ってもらってから始まる。御用聞き訪問というもので、近郊の人は毎月1回、遠方でも2か月に1回は社員がお客さんを訪問している。
9月は、夏に使ったエアコンのフィルターが汚れていたりリセットしていなかったりするので、点検のために訪問。フィルターのチェックをして掃除機をかけるなどしている。汚れていればクリーニングの提案もするが、そろそろ換えたら?という話も必ずしてくるという。お客さんが、いつどんな機種を買ったかわかっているので、省エネ度がどれくらいで、今の機種に換えるとどんなメリットがあるか話せるのが強みだ。「行って、話して、人間関係を作って、相談相手になる。信頼できる人からのアドバイスは聞いてくれるので、『あんたおらんかったら、私、生活できんわ』くらいの関係づくりをしています。そうすると、省エネ冷蔵庫を勧める時など『(電気代)2万円も毎年捨てていて、どうするん?』ときりだせるんです」
買い換えはお金がかかることなので、経済的に大変な家庭は、例えば樹脂サッシを入れて断熱性を上げよう、エアコンを使う部屋を絞ろうと伝えているそう。LED交換も、年に3回やるイベントごとに、1部屋ずつ順番に換えていくよう、提案している。
これから取り組もうとしているのが介護事業だ。お店のお客さんはほとんどがご高齢の方で、80歳を過ぎている方も多い。子ども達と同居することが少なくなって、老人だけの家庭やお一人の家庭も増えている。そんな中、K-DICでは高齢のお客さんから「テレビが映らない」と、1日4回呼ばれることがある。
「1回目はコンセントが抜けている。2回目に行くと人形がリモコンの反応部分をふさいでいるんです。3回目は、入力切替ができない。そして、一番の問題は4回目。『大相撲が映らない』と言われて行くと、テレビは映っているんです。ただ、その日は大相撲をやっていない日なんです。でも、『さっき見た』と」
ある時は、ポットが壊れたというので行ってみると、電気湯沸かしポットをガスにかけて、燃えて黒焦げになっていたこともあったそうだ。このような調子で、目も見えにくく、耳も聞こえなくなってきているから、音が聞こえればいいよという人が多いのに、一生懸命4KテレビをPRして「このテレビきれいでしょ!」という話でもないのが現実。
「必要な商品は、例えば補聴器や歩行器なんです」
そこで、お店から家電製品を思いきって減らして、福祉用具レンタルを開始。手すりをつけたり、お風呂場の段差を解消したり、ベッドを設置したり、そういうお手伝いをするために、黒田さん自ら介護の資格を取った。
「社員にも資格を取ってもらっています。金物屋から電気屋に替わって、さらに介護へと取り扱い業務は変わるけど、地域のお客様をちゃんとしっかり守っていくというのは変わらない、うちの会社のあり方になっているんじゃないかな」と、黒田さんは笑顔の中にも真剣な表情で語った。
K-DICでは、最先端のIoT【1】にも力を入れている。カメラで家の中を映して、一人暮らしのお年寄りの無事を確認するしくみなどはあるが、一歩進めて、使用している家電からインターネット上のクラウド【2】に体重や血圧などのバイタル情報【3】を吸い上げて、地域で共有しようという構想だ。
「IoTは“思いやり”だと考えています。スマホが使えるような若い人のための商品ではなくて、高齢者のためにあるものだと。メーカーはIoT機能を製品に入れていますが、面倒なセットアップが障壁になって結局使われていないことが多いです。でも、IoTやHEMS【4】をうまく使うとお年寄りが快適に過ごせるようになります」
例えば、外気温が5℃以下になって室内の温度も低いときには、自動で浴室暖房を動かすことができる。夏だと熱中症で倒れないように、温度と湿度を感知して窓が自動的に開くようになる。
訪問介護の会社や病院と連携すれば、医療的な見守りにもなる。また、冷蔵庫の中をスキャンして、例えばバターと牛乳がなくなったと感知したら、そのデータが生協やスーパーに届き、自動的に宅配が届くように連携する話もしている。
「地域の中小企業みんなで、一人の高齢者を見守る、一人住まいはしていても、生活の一人ぼっちはさせないようにしようというのがぼくらの考え方です」
都会に住むお子さん達も、年老いた一人暮らしの親の運動量、睡眠量、血圧、体重をインテリジェンストイレ【5】やウエラブル端末からの情報で確認し『ああ、おやじ(おふくろ)今日も元気だな』と、わかるわけです」
言葉で説明してもわかりづらいので、中小企業庁のやっているものづくり補助金を使って、実際の生活が模擬体験できる「IoTラボ」という体感施設を作った。HEMSの機能を使った高齢者の見守りは、2020年から始める予定だ。「お年寄りが住みやすいように」やっていることが、イコール「エネルギーの効率化」、「省エネ」にもなると、黒田さんは考えている。
ある日、富山県の地域包括ケアシステム推進会議で、医療財団とデイケアの会社、そしてまちの電器屋として「富山県電機商業組合青年部」の黒田さんが発表したときのこと。まちの電器屋さんが、誰に言われているわけでもお金をもらっているわけでもなくて、ほぼボランティアのようにお客さんのところをまわっていることに、県の担当者は驚いたそうだ。
医療や介護の分野は国の法律や制度で、補助金や医療保険や介護保険からの資金が使えるが、まちの電器屋さんは儲かるとか儲からないではなく、ずっと昔から地域のお客さんを守っているのだ。
「これからの時代、電器屋だけではなく、建築やハウスリフォームメーカー、介護施設など地域企業が連携して総力戦でやっていかないと地域を守ること自体がかなり難しくなっています。こうした活動がちゃんと見て評価してもらえて、まちの電器屋の活動に光が当たり、地域企業や行政、地域の自治体などとの連携が生まれればありがたいです」と黒田さん。
いまはまだ、民生委員や自治振興会の人など地域の顔役や、ホームヘルパーさんやケアマネジャーさんなど介護、医療の関係者で構成されている地域包括ケアシステムに、地域の企業人として加わる「まちの電器屋さん」を増やしていきたいという。
2018年、石川県電機商業組合と富山県電機商業組合が共同で、お客さんのお子さんに向けた「親孝行応援プロジェクト」というホームページを作った。親孝行したいけれど近くにいないお子さん達に代わって、まちの電器屋さんがお手伝いをします、と意気込みを伝えるためだ。
「親が元気で幸せで生活してほしいという子どもの思いを、ぼくらが代わりにやらせてもらっているので、ホームページを通じてまちの電器屋というものにちょっと注目してもらえればと思っています。すべての業種がそうだと思いますが、やっぱりお客さんに喜んでもらいたいから仕事をしています。量販店よりも通販よりも高いというのはわかっています。それでも、ぼくは一生面倒見ていくという約束をお客さんとしているつもりです。だから、まちの電器屋の存続=地域の存続くらいの気持ちで、商売に向き合っています」
K-DICの店内BGMで流れているのは、富山県電気商業組合青年部のPRソング 「スマイリーライト」だ。CDを作っても売れないことはわかっているが、まちの電器屋でしか買えないCDという話題性でケーブルテレビや北日本新聞などの取材を受けた。一見、突拍子もないことでも、まちの電器屋の思いを知ってもらえるような活動を商組青年部としてやっていきたいと、黒田さんは考えている。
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