砂漠の朝には格別の美しさがあります。シーワ・オアシス一番のお勧めは、シーワ湖畔に聳(そび)えるアドレーレ・アメラール(白い山)から望む朝日です。薄暗いうちから40mほどの岩山に登り、寒さを凌いで日の出を待ちます。三方を囲む湖水と、その向こうに続くグレート・サンド・シー(大砂丘海)が、朝の光を浴びて刻一刻と色彩を変えていきます。湖水は透けるような青に、石灰の山肌は刺すように白く、遠くの砂丘は薄紅色に染まります。
エジプト西方砂漠(リビア砂漠)の多くは、年間降水量5mm以下【1】の超乾燥地帯です。砂漠といえば水のない世界をイメージしがちですが、実際には潤沢な地下水資源に恵まれています。
リビア砂漠が緑豊かだった1万年以上の昔に降った雨水は、地中深い地層の間に閉じ込められました。このような太古の滞留水は化石水とも呼ばれます。リビア砂漠には5万km3、ナイルの水流にして約600年分の水が貯えられているといわれています。この水は汲み尽くしてしまえば枯渇する、石炭や石油と同じ再生不可能な資源です。
シーワ・オアシス一帯は海抜下10?22mの低地にあり、地表近くの岩盤が薄いところでは、水圧に押された地下水が天然の泉として湧き出しています。周辺には、大小約230もの泉や湖が確認されています。
シーワの町を訪れると、必ず誰もが立ち寄る名所が、太陽の泉(別名「クレオパトラの鉱泉」)と呼ばれる天然の冷泉です。オアシスの人々にとって、水の確保は死活問題です。自然の湧き水を石垣などで円形に囲ったローマ時代の泉の遺構は、他にもいくつか残っています。
実際にクレオパトラが訪れたかどうかは、疑問が残るところですが、ギリシャの歴史家ヘロドトスは、紀元前5世紀にシーワを訪れ、著書『歴史』にこの泉の記録を残しています。
「水は昼になれば実に冷たく、夜半に近づくに従って温度をまし、泡立ち沸騰する」【2】
実際にはこのように水温が変わるはずはありませんが、砂漠気候の寒暖差があまりに大きいので、ヘロドトスにはこのように感じられたのでしょう。
このように水が豊富なシーワなのですが、その水が最近オアシスの環境問題を引き起こしています。地下から湧き出た淡水は、いったん地表に出ると排水路がないため窪地に溜まり、長い歳月をかけてミネラルを多く含んだ塩湖になります。近年では、人口増加による違法な井戸掘削と過剰な灌漑により、行き場のない水が溜まってできる新たな湖が増えています。
シーワの農家は、伝統的に農地全体を水で満たす湛水農法をとってきました。農地を潤した水は低地に流れ込み、そのまま地表に残ります。湖水面の拡大とともに、土壌の塩分濃度が上昇し、オアシスの周辺では主要作物であるナツメヤシの立ち枯れが目立つようになってきました。こうした問題を解決するためには、表流水の再利用、新たな井戸の掘削制限、排水システムの改善などを含む、徹底した水の循環利用や節水が必要です。
ナミビア人の循環型農業のスペシャリスト、アンドレ・レティーフさんは、過灌漑の習慣を変えてもらおうと、シーワ郊外のベドウィンの村に住み込み、点滴灌漑【3】などの節水農法と、在来作物の再導入を指導しています。
「技術的な解決方法はある。しかし、必要なことは皆がオアシスの将来のヴィジョンを持ち、生活や生産様式を変える意思を持つことだ」と訴えています。
砂漠で水害??という意外なタイトルに惹かれて読みました。砂漠の泉や塩害のことは知っていましたが、塩害が起こる経緯はよく知らなかったです。砂漠地帯での農業や水利用にはこんなことに気をつけないといけないんですね。また、水利用は最後にはコミュニティー全体でタックルしないといけないところも、身につまされます。
オアシスの写真もとてもキレイです。
(2011.08.07)
最後のナミビア人の言葉、まさにその通りです。「オアシス」のところを「日本の電力」に置き換えても言えることですね。
(2011.07.29)
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.