今年もヌーヴォー(nouveau)の季節がやってきました。フランス語で「新しい」とか「初めての」といった意味の言葉です。
秋になると、日本の田舎のワイナリーにも「ボジョレー・ヌーヴォー(Beaujolais Nouveau)くださ?い」なんてお客さんがきてくださいます。フランスのボジョレー地方で作られた新酒のワインのことです。日本の田舎のワイン屋はどうするかって? もちろん「はいはい、ヌーヴォーですね」といって、日本の葡萄でできた日本のヌーヴォーをご案内します。
日本は南北に長い国なので、日本ワインの新酒は11月初旬から北上し、11月後半にかけて新発売されていきます。長い時間をかけて熟成されたよいワインのおいしさは特別なものですが、葡萄の種類やTPOによっては、フレッシュでフルーティな新酒のうちに飲んだ方がおいしいものもあります。普段はワインを飲まないけれど、ヌーヴォーは飲むという初物好きな方もいらっしゃいます。
ところで、毎年11月第3木曜日に解禁となるフランスのボジョレー・ヌーヴォーは、1950年以前は軍隊への供給を優先するために12月15日までは出荷できなかったそうです。戦争も終わり、ボジョレーの農夫たちはフレッシュなボジョレーの新酒を早く販売したいとお役所に申請を起こし、1951年11月13日、「12月15日の解禁を待たずに販売してもよい」ということになりました。つまりボジョレーの新酒のワインは、この年を境に早く資金を回収できるようになったとともに、新しい時代の幕開けをつげるワインでもあったのです。
電車で、トラックで、いち早くパリに運ばれた「ボジョレー・ヌーヴォー」。サン・ジェルマン・デ・プレにあったカフェで、サルトル(1905年?1980年)やボーヴォワール(1908年?1986年)たちもこの新しいワインを楽しんだに違いありません。自由で闊達な良い時代でした。そこでは、その時代を共に生きた作家、哲学者、劇作家、演出家、俳優、詩人、歌手たち、そして名もなきたくさんの人々が一緒に楽しんだことでしょう。
年ごとの新しいワインは南半球では春に新発売になり、北半球では秋に新発売になります。たとえば毎年11月6日はイタリアの新酒ヴィーノ・ノヴェッロ(Vino Novello)の解禁日です。スペインの新酒VINO NUEVOは、毎年11月11日(サン・マルティンの日)と決められているそうです。
「新しいワインは新しい革袋に」(聖書ルカ伝5章27?39節)
もし新しいワインを古い皮袋に入れたら、新しいワインは革袋をはり裂き、流れ出てしまうであろう、新しいワインは、新しい革袋に入れるべきである──。
このキリストの教えは、醗酵中に発生した二酸化炭素がまだ残っている新しいワインのことを実に科学的に表しています。同時に新しい概念を受け入れるには、それに対応する柔軟な心が必要であることを教えています。
本コラム『ワイン畑の四季』も最終回となりました。最後にイギリスのワイン評論家、ヒュー・ジョンソン(Hugh Johnson, 1939年?)の文章を紹介して、終わりたいと思います。
「農民で芸術家、労働者で夢追い人、快楽主義者(ヘドニスト)で被虐性愛者(マゾヒスト)、錬金術師で会計士-----ワインをつくる者は、これを全部兼ねている。ノアの大洪水以来、それは変わっていない。」
『 ワイン物語[上] 』(日本放送出版協会、小林章夫・訳)の序文です。
そしてこのワイン物語の最後はこのように結ばれています。
「忘れてならないのは、ワインは自然界の奇蹟の一つで、人間と一万年もつきあっていながら、いまだに未知の要素をもち、またあらゆる食物のなかでワインだけが自立した生命をもっているからこそ、人間はこれを神聖視するという点なのである。農民も芸術家も、勤勉家も夢想家も、快楽主義者もマゾヒストも、錬金術師も会計士も-----こういったすべての人々がワインを育てるのである。ノアの洪水以来、ずっとそうだったのだ」(『ワイン物語[下]』)
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