10年くらい前のことです。スペインでスーパー・マーケットのチラシに「ワイン1本1ユーロ」と書いてあって、ミネラルウォーターより安いのにびっくりしたことがあります。そのころ訪れたフランスのブルゴーニュ地方の暗いワイン地下貯蔵庫では、百年前の白ワインを「サザビーズ【1】で百万円で落札されました」と説明され、これまたびっくり。
今シーズンは、ボジョレー地方の新酒が日本で1本500円以下で発売されたとか…。一方、東京で開かれた東日本大震災の復興支援チャリティー・オークションでは、1868年産、フランスのボルドー地方のワインが230万円で落札されたり、11月にワイン専門競売会社が香港で開いたオークションでは、ブルゴーニュ地方のワイン12本が732万円で落札されたり…【2】。
ワインは1本750mlの液体。チャリティーや投資といった背景があるにせよ、1本の値段に5千倍もの差がある飲み物は、ほかにはないような気がします。このような極端な例はともかく、安価なワインと高価なワインの違いはどんなところにあるのでしょうか?
1,000円以下のワインは、大量生産・大量消費だから? 土地や農産物の価格が安いから? 農家やワイン工場の人件費が安いから? 円高のときに日本で輸入した海外のワインだから?
10,000円以上のワインは、生産量が少ない貴重なワインだから? ヴィンテージ【3】ものだから? 熟成期間が長いから? 有名な産地の有名なワインだから? ワイン評論家が高得点をつけたから? 金賞受賞のワインだから? 広告代がたくさんかかっているから? そのワインを生産し流通させることに関わってたくさんの人々がご飯を食べているから?
1本500円以下の値がついた今年のボジョレー・ヌーボー
(ドン・キホーテの『ボジョレー・ヌーボー2011』サイトより)
ヴィンテージワイン
Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by laura47
よいワインは「複雑で、バランスがとれていて、味わいが長い」といわれています。ほんの少しの苦味や渋みが味わいを増したり、すばらしい香りのなかにほんの少しの獣臭がふくまれていたりするように、ワインにとって複雑であることは重要な要素です。そして、酸味と甘味のバランスだけでなく、それらの複雑な要素のバランスが取れていること。しかも複雑でバランスのとれたワインの魅力が長続きすることも…。
価格を考えるときも「複雑でバランスがとれていて長続きする」ことがポイントなのかもしれません。ワインの価格は経済だけでなく、文化的歴史的背景も含めた、複雑な要因で決まります。需要と供給のバランスも重要な要素でしょう。しかもワインには賞味期限というものがありません。
なんでもお聞きになってくださいとワイン屋がいいますと、必ずいただく質問が「高いワインはよいワインなのですか?」という質問です。
その質問には「一般的にはよいワインはそれなりの価格です。でもあなたが好きなワインこそがよいワインです」とお答えしています。もう1杯飲みたいか、もう1曲聴きたいか、もう1作品観たいか…。正しいか正しくないかではなく、高いか安いかではなく、誰になんと言われようとご自分の好みを大切にしてほしいと思います。
ワインの起源は紀元前6000年頃からといわれています。また、今、地球の上で1年間につくられるワイン生産量は推計約2,800万kl(約3千700万本)【4】。
こんなに古く8,000年以上前から造られてきたワイン、今年も世界中でつくられているワイン。それらのワインのなかから、今夜あなたの夕食にやってきたのが、この1本です。
ワインは好きな人(や好きな音楽や絵画)と同じ。あなたが1番好きなワインが世界で1番いいワインなのです。どうぞゆっくりお楽しみください。友情を長くはぐくむように。
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.