ワインは葡萄からつくります
ワインは農産物で、葡萄と容器があればできることは前回お話しました。水も酵母も砂糖もいりません。畑でつくられる葡萄の中には、ワインを構成するすべての要素が含まれているからです。
では、実際にワインをつくる工程を見てみましょう。赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、スパークリングワイン、デザートワイン、いろいろな種類がありますが、基本はすべて同じ。葡萄を醗酵させることでワインができます【1】。
- 赤ワインと白ワインとロゼワインのつくり方の違い
赤ワインは果皮も種も一緒に容器に入れ、醗酵させます。白ワインは、果皮や種を取り除いた果汁のみを醗酵させます。ロゼワインは醗酵途中で果皮や種を取り除きます。つまり、白、赤、ロゼのつくり方の違いは、葡萄をプレスする(搾る)時期が、醗酵の前(白ワイン)か、後(赤ワイン)か、途中(ロゼワイン)かということです。
赤ワインは果皮も種子も
白ワインは搾って
- スパークリングワイン
葡萄の果皮に住む酵母は糖分をアルコールと二酸化炭素に変え、細かい泡を発生させます。この性質を利用したワインがスパークリングワインです。一度ワインを造って、できたワインに酵母と酵母の栄養素(糖分)を加えビンに入れ、ビンの中に細かい泡を発生させるビン内二次醗酵方式や、酵母が大きなステンレスタンクの中で泡をつくるシャルマー方式、二酸化炭素吹き込み方式などなど、スパークリング(発泡性)ワインの造り方にはさまざまな方法があります。
ビン内で酵母がつくった泡とタンク内で酵母が作った泡、また、酵母がつくった泡と吹き込まれた二酸化炭素の泡は、手間や泡の細かさや泡のたつ時間が違います。
- デザートワイン
葡萄の水分を少なくして糖分を高めてから醗酵させます。葡萄の水分を蒸発させるのがボトリティス・シネレアというカビであれば貴腐ワイン。そのほか、水分を飛ばし糖分や酸などの濃度を高めるために、葡萄を干して乾燥させたり、葡萄を氷らせたり、摘みとりを遅くしたり、…甘美な甘口ワインは、水分と同時に世界各地の醸造家たちの時間と精力を奪ってつくられます。
干して水分をとばす
ワインは1本1本ちがいます
白ワイン選果
ワインの基本的なつくり方はとてもシンプルなのに、なぜ、あきれるほどたくさんの種類があるのでしょうか? ワインの違いとはいったい何なのでしょうか? ワインの違いを整理してみましょう。
- 葡萄の種類(セパージュ)によって、ちがう
葡萄の違いによって、ワインの味や風味が異なります。いろいろな種類の葡萄を混ぜる場合は、この葡萄を60%、こっちは40%という具合にブレンドの種類やパーセンテージによってもちがってきます。
- 育った畑や場所(エリア)、育て方によってちがう
同じ種類の葡萄やブレンドでも、北国の葡萄と南国の葡萄は糖度や酸度などが異なってきます。
- 収穫の年(ヴィンテージ)の天候によって、ちがう
同じ種類の葡萄で、同じ畑や場所に育っても、今年のように猛暑で豪雨で大変な年もあれば、冷夏で雨が少なくて苦労する年もあります。
- 収穫年が同じでも、つくり手(葡萄農家や醸造家やメーカー)によってちがう
同じ種類の葡萄で、同じ畑や場所に育って、同じ年の同じ葡萄を原料にしても、つくる人によってできるワインが異なります。
- 収穫年やつくり手が同じでも、つくり方(メソッド)によって違う
醸造家、葡萄の種類、畑や場所が同じでも、「こちらはフリーランの果汁【2】をつかってステンレスのタンクで醗酵」させ、「こちらは醗酵後ミズナラの樽で6ヶ月貯蔵させる」…というように、つくり方もいろいろです。
さらに、上記の5の条件でまったく同じつくり方をしたワインが、ここにあるとしましょう。これがあなたの手元に届くまでには、ビンの大きさ、保管状況、いつ飲むか(熟成期間)、一緒に何を食べるか、サービスの仕方(温度や、デキャンタージュ【3】、グラスなど)によって、ちがってきます。
ワインの香りや味は気圧によっても変化します。全部同じ条件でも、開栓してから刻々とその香りや味わいが変化していくものもあります。
ワインは1本1本全部ちがう。
でもどんなワインも同じ、それは地球の上の畑という大地に生まれた葡萄という農産物のみが原料であることです。そしてそれを、気のあった人と、ゆっくり楽しんでいただきたいのです。