もしあなたがワインをつくるとしたら、まず最初になにをしましょうか?
葡萄がはじめて栽培品種となったのは紀元前5,000年位といわれています。太古の昔、野生の葡萄は木に巻きついて生きる蔓(つる)植物だったようです。旧石器時代に生きた人々が、野生の葡萄を食べてみたら美味しかったので、たくさんとって容器に入れ…そのうち葡萄の実が重みでつぶれてそこから発酵がはじまり、飲むとふんわりした気持ちになる液体ができました。これを気に入った誰かが、自分の手で葡萄を植えはじめ…というわけです。大昔の誰かと同じように、ワインをつくるためにはまず葡萄を栽培しなければなりません。
さて、その葡萄はどこに植えましょう?
手っ取り早く仕入れるという方法もありますが、ワインの原料は100%葡萄。葡萄を育てることこそがワインづくりです。
今の日本で、葡萄に限らず農業を始めるにはさまざまな法律的問題が横たわっています【1】が、それはみなさんに直接お会いする機会があればお話することとして…まず日本のどこかに葡萄を植えるとしましょう。
「やせた土地で育った葡萄からつくると、いいワインができるのでしょう?」とか「葡萄は水がほとんどいらないのでしょう?」とか言われることが時々あります。
ワインは農産物です【2】。葡萄は植物として土壌にしっかりと根を張って、太陽の光を得て水と二酸化炭素から糖分をつくります。水はとても大切です。太陽の光が大切なことはいうまでもありません。いろいろな微生物が活発に活動する土も欠かすことができません。
葡萄は根から水を吸収します。それから三大栄養素と呼ばれる窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)。多量必須元素と呼ばれるカルシウム(Ca)、硫黄(S)、マグネシウム(Mg)。また微量必須元素である鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ホウ素(B)、塩素(Cl)を必要とします。これらは植物の必須元素で、たくさんあると過剰障害が、不足すると欠乏障害が出てしまいます。“葡萄はやせた土地によく育つ”というのは、窒素過多を嫌い、肥沃すぎる土壌では蔓を伸ばすためだけにエネルギーを使い、実をつけようとしないからで、最低限の栄養がないと葡萄も育ちません。
ワインの表現によく使われるミネラルとは、日本語で言えば無機成分。ミネラルというとよいイメージなのに無機物とか無機質とか言うと眉をひそめる方が多い…のはさておき、ワイン中に含まれるミネラル(無機成分)としては、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、銅、アルミニウム、鉛、亜鉛などがあり、その中でもカリウムはワインに一番多く含まれています。ワインと土壌中のミネラルについてはテロワール【3】の概念とあいまって、専門家や研究者がいろいろな研究をおこない、さまざまな考えを述べています。ワインのミネラルは味に奥行きを与え、複雑な味わいや深みが生まれるという専門家もいれば、土壌のミネラルがワインの中に反映されるというのは考えにくいことだというコンサルタントもいます。ワインの特徴は、土壌のミネラルの関係より土壌の物理的条件、すなわち葡萄への水分供給や水はけにあるという研究者もいます【4】。
いずれにせよ、土壌にとっても植物にとっても、また人間にとっても、“バランス”がとても大事です。無機成分も有機成分も過ぎたるは及ばざるが如しです。
ところが昨年3月11日以降、原発事故による異常な量の放射性物質が山林や耕地や牧草地や湖沼にふりそそぎ、動物が植物が微生物が、事故由来の放射性物質をしっかりその身に受け止めてしまいました。
でも、しかし、たとえ明日がなくても、葡萄を植えましょう。
いつかだれかが飲むかもしれない一杯のワインのために。
46億年前に誕生した地球の片隅に。
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.