3月からは休猟期ですが、なんだかんだで頻繁に山に入ります。猟期中に目を付けておいた枯死木【1】や倒木を薪にするために運び出すこともありますし、山菜採りや渓流釣りなどにも出かけます。今年の春は、ニホンミツバチの分蜂群捕獲【2】にも精を出し、周辺の山々で計6群捕獲しました。現在巣箱に入れて飼育中です。
さて、今年で猟師10年目となります。山に頻繁に入っていて思うことは、最近、山に関わる人が減っているのではないかということです。世間では山菜採りや中高年登山などのアウトドアがブームだと言われているので、そんなはずはないんじゃないの?と思われるかも知れません。確かに、外部からやって来る人は増えているかも知れませんが、地元に住んでいる人の山との関わりは確実に希薄になっていっているように思います。
京都の山々では、春になるときれいな紫色の花を咲かせる藤があちこちで見られます。しかし、そこは杉や檜の植林地であり、本来なら木の生長を妨げる藤の蔓(つる)は林業家によって「蔓切り」されなくてはならないものです。つまり多くの人が車を止めて記念写真を撮るくらい見事な藤の風景は、植林地が手入れされなくなって、放置されていることを示しているのです。
近年植林された山は、最初に防獣ネットが張られるものの、その後の維持・補修までは手が回っていないところがほとんどです。シカやイノシシになぎ倒されたり破られたりして、囲いのなかの幼木はほとんどがシカにかじられています。ネットに絡んだシカは放置され、あちこちで白骨化したシカの死体に対面します。
知り合いの林業家は、成木の樹皮までどんどん齧(かじ)られており、このままではもう林業は終わりだと語っていました。
また、山間部の田畑の耕作放棄も進んでいます。農家の高齢化や獣害の増加でかつての田畑はどんどん薮になっていっています。その薮が獣達の格好の隠れ家になり、そこを出撃拠点にさらに周辺の田畑を荒らしていくという悪循環です。さらに猟師の減少も拍車をかけています。
かつての里山は林業家が丁寧に植林地を管理し、地元の人も雑木林を薪炭林【3】として有効利用してきました。それがある意味、野生動物の暮らす森と、田畑などのある人里との境界の役割も果たして来たとも言えるのですが、その構造がここ10年でも確実に崩壊へと進んでいるのを肌で感じます。
野生動物の中ではシカの増加が著しく、場所によってはその糞を踏まずには歩けないような山もあります。私の猟の師匠によると、かつて京都の山にはイノシシの方が多く、シカは珍しかったそうです。それが様々な要因【4】で現在は逆転してしまっています。
増えすぎたシカは、各地で野草を食べ尽くし、木の芽や皮なども食べて、森林に被害を及ぼすまでになっています。トリカブトなどの毒草だけが残った山の中では、野草に集まる昆虫たちも減少し、生物の多様性が失われ始めていると言います。
ここ数年、ニホンミツバチを飼うようになって、私の山を見る目も変化してきました。これまでは食べることのできる野草や実のなる木、獲物であるイノシシが食べるドングリの木にどうしても関心が偏っていました。ところが、ニホンミツバチが蜜や花粉を集めるために訪れる樹木に注目するようになって、様々な種類の樹木が育つ雑木林が多くの生物にとってホントに貴重な場所なんだということを実感するようになりました。雑木林の木々は、微妙に時期をずらしながら開花し、ニホンミツバチや多くの昆虫の重要な食料となっているのです。
京都の山が今後どうなっていってしまうのか、正直なところ私もまったく想像がつきません。ただ、今後も山に関わる人間として、またそこで育まれる自然の一部として、責任ある営みを続けていくしかないのだろうと思っています。
まず、ハンターとしてご活動されること、非常に敬意を覚えます。
生態系を調整する機能を担う重要な役割と思います。
シカの増加、ですが、
そのことばの独り歩きが気になります。
シカの個体数は非常に算出するのが難しく、
通常はフンの数やシカを見かけた数から「相対的な密度」を出します。
とてもバイアスが高い方法で、1期間に繰り返し行って個体数を出すべき値なのですが、ほとんどの自治体では前日が台風だろうが、行楽シーズン中だろうが一回しか行わないため、とうぜん個体数密度は毎年大きく上下しています。
また、シカが増える前から個体数を測定していた自治体は非常に少ないはずです。
ですから、私はシカの「増加」という言葉が広まっていることに危機感を覚えます。
拡大造林時の植林地の林冠が閉鎖したのでそもそもの植物現存量が減ったのか、シカの密度が高くなったせいなのか、
結論の出なかった地域の報告もあります。
私としては、できれば
シカが増加したかどうかはわからないけれど、
採食圧によって植物が減ったようだ、
程度で認識していただければ・・・と思っております。
長文失礼いたしました。
(2010.10.13)
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.