1986年の初夏、1児の母でオペラ歌手のエリザベート・ウミエルスキーさんは、西ベルリン(当時)で反原発・環境市民団体「核の脅威に対抗するママ・パパ協会(Mütter und Väter gegen atomare Bedrohung e.V.)」の集まりで、物理学者ヨアヒム・ヴェルニッケ博士が、母親たちと協力して、食品測定を始めようとしている場に出くわしました。ヴェルニッケ博士は行政の食品測定の現状に満足できず、民間の自然科学の研究所の測定器を営業時間外(夜間)に借りて、独自に測定していましたが、食品ごとに1キロの検体を集めるのに苦心しており、母親たちへの協力を呼びかけていたのです。
エリザベートさんは、母親のニーズと科学者の専門知識が結びついた独立の市民放射線測定所の構想に感銘を受け、代表として積極的に参加することになります。
ヴェルニッケ博士は、市民測定所としての開所前に1ヶ月間、パイロット・プロジェクトを行っています。公的機関から紹介された自然科学の研究所で、2人の研究者とともに、事務所近くのスーパーで食材を購入し、研究所にあるガンマスペクトロメータを夜間に借りてで測定していきました。この機械はベルリンの公的測定所で使用されている測定器と同じもので、1ヶ月間で124の市内流通食品を測定し、9月末にその結果を冊子で発表しています。
これによると、約半数の65検体は、1kgあたりのセシウム137含有量が10ベクレル以下でしたが、これに対して高い汚染値を示したのは、以下のようなものでした(単位はすべてベクレル/kg)。
ヘーゼルナッツの実 | 78 |
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りんご(バイエルン産) | 90 |
サワーキルシュのジャム | 111 |
サクランボ(バイエルン産) | 135 |
クリタケ(ベルリン産) | 780 |
最後のクリタケ以外は、セシウム137のEC基準値である600ベクレル/kgを下回っているので、市内に普通に流通しています。しかしヴェルニッケ博士は、ガンマスペクトロメータによって検出可能なセシウム137の値だけで判断するのではなく、アルファ線やベータ線を持つほかの核種の存在可能性も考慮して、子どもにはセシウム137で10ベクレル/kg以下の食品が望ましく、それ以上の値を検出する食品には注意を呼びかけました。
ヴェルニッケ博士は、当時こう述べています。
「事故以前、ドイツの食品に含まれる放射能は最高でも1ベクレル/kg程度でしたが、今ではその10?100倍、ものによっては千倍もの食品が普通に流通しています。政府の設ける基準はずっと緩いので、この心配を過剰な反応と見る人々がいることも知っています。しかし科学者の立場から言えば、低線量の放射能による健康被害の実態ははっきりと実証されていません。胎児と小さい子どもは最も放射能の危険にさらされやすいこともわかっています。毎日の食卓に上る放射線値を把握し、汚染されやすい特定の食品や地域をしっかりと管理することで、リスクを軽減することができるのです」
パイロット・プロジェクトで使用した測定器では、食品はそのままの形態で測定することができたので、低ベクレルのものはそのまま依頼者に返却されました。測定値を計算で補正し、実際の汚染濃度の90%を示すようにしました。測定器の検出限界は5ベクレル/kgでした。
検体を確保する母親たちとの協力体制の構築と、パイロット・プロジェクトを経て、活動のめどが立ったことから、10月17日の結果公開から本格活動をスタートしています。
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