メインコンテンツ ここから

「カナダ・イヌイットの暮らし」バックナンバー

0092011.05.10UP環境文化へのまなざし

短い春の訪れ

 4月になると、暗い闇に閉ざされていた厳冬期から一転、イヌイットの村は春めいた様相を呈してきます。春といっても、桜を愛でるわけではなく、気温は氷点下。ですが、12?2月までほとんどの地域は闇夜なわけですから、おのずと気分は高揚します。スノーモービルのレース大会があったり、少し遠出をしてキャンプをしたり……。
 5、6月になると、氷が融けはじめ、海原が胎動します。じつはイヌイットたちに一番好きな季節を聞くと、5、6月と答える人が多いのです。融け流れる川で釣りをし、湖に行きキャンプをしながら、紅茶を楽しむ。渡り鳥の飛来を見て、ハンティング。世界で最も臭い食べもののひとつとして知られているキビヤック(アザラシの腹のなかに、ウミツバメの一種であるアパリアスを詰めこみ、土のなかで発酵させた食べもの)も、この時期の代名詞かもしれません。彼らの多くが「5、6月」を「spring」と表現します。日本では初夏のこの時期が、彼らにとっては短い春を実感させる季節なのでしょう。
 筆者は残念ながら、「彼らがもっともエキサイティングし、大好きな季節」に極北地方を訪れたことがありません。Facebook上で、みんなのキャンプの写真などを見て、コメントを交換し楽しんでいます。
 余談ですが、近年、イヌイットのなかでFacebookの利用者が若者を中心にものすごい勢いで伸びています。以前のレポートで、インターネットが日常であたりまえのように使われていることを書きましたが、ソーシャルメディアも日常になりつつあります。筆者はひそかに「ソーシャルメディアなイヌイット」と呼んでいるのですが、極北のような閉ざされた場所こそ、世界各地のさまざまな地域の人と交流できるソーシャルメディアは役に立っているのかもしれません。

Facebookを使っている、と思いきや…ゲームに興じる時間も多い

Facebookを使っている、と思いきや…ゲームに興じる時間も多い

Facebookを使っている、と思いきや…ゲームに興じる時間も多い

キャンプは環境講座

 春から夏にかけて、人びとは村を離れてキャンプに出かけます。だいたいは家族・親族で行くのですが、村・学校の行事などで、古老が小学生たちを泊まりがけで連れて行くこともあります。昔は自然と対話するなかで、“自然に”身についたイヌイット流の生活術ですが、村のなかで生活し、育っている現代の子どもたちには、わざわざ教えなければ伝わりません。
 狩猟の仕方、水場の確保、寒さのしのぎ方、地形の説明……厳しい自然のなかで生きる術を教えていきます。村の役場で聞いたのですが、近年では地球温暖化や汚染の問題など、ちょっとしたエコ講座もするようです。

環境へのまなざし=文化へのまなざし

私たちの未来には何が待っているのだろうか

私たちの未来には何が待っているのだろうか

私たちの未来には何が待っているのだろうか

私たちの未来には何が待っているのだろうか

 昔からあたりまえのようにあった身近な自然。それは、ときに厳しく、寛大でもありました。凍てついた厳冬期があれば、花芽吹く夏がある。夏に飛来する渡り鳥、周遊するベルーガ、冬に氷の上でたたずむホッキョクグマ、雪氷から顔を出すアザラシ、すべての動植物と自然環境は先生であり、学舎(まなびや)でした。
 イヌイットにとって、厳しい自然環境は彼らの文化そのものといっても過言ではありません。イヌイットに限らず、多くの人類は自然とともに過ごし、その恵みを受けて生活をしています。日本も四方は海にかこまれ、国土の7割は里山ですから、例外ではありません。都会生活をしていると、このことをうっかり忘れがちです。
 ときに悲痛なる自然の警笛、叫びは人類の文明文化に対する何らかのメッセージかもしれません。厳しい自然環境と隣り合わせで生きる極北地帯の民とわずかながらも経験をともにし、言葉を交わすと、「自然環境によって文化は生かされている」ということを実感します。連載第1回目にも書いたイヌイットの言葉は、いつも私にそのことを思い出させてくれます。
 「きれいな水に命は宿る。私たちはそのことに感謝しなければならない」

 自然環境との調和を大事にすることで、人類はここまで豊かな文化をつくりあげてきたのではないでしょうか。環境へのまなざしは、文化へのまなざし。少しずつ、少しずつ蝕まれていく地球を、イヌイットたちは文化の変容と感じているかもしれません。

空、大地、海。ときに厳しく、寛大な自然。悠久であることを願いつつ…


空、大地、海。ときに厳しく、寛大な自然。悠久であることを願いつつ…

このレポートは役に立ちましたか?→

役に立った

役に立った:8

このレポートへの感想

ものすごく感動しました!! v(≧∇≦)v
とてもイヌイットたちの私生活が身近に思えるように感じます。
ゲームもできるなんて・・・想像とは裏腹なのが分かりました!!(≧∇≦)/
いろいろと学ばせていただいてありがとうございました!!(●´ω`●)ゞてへぺろ
(2013.10.15)

おはようございます。
近代社会に置かれている人間は自分が死ぬような思いをしなければ何が本当に大事かが分からない。
経済・開発政策と自然環境保護政策はイタチゴッコであると思えてくる今日この頃です。
(2011.05.13)

感想コメントはこちらから

前のページへ戻る