紫外線が気になる季節になってきました。
オゾン層の破壊によって増加する紫外線は、中波長のUV-B(280?320nm)で、エネルギー量は少ないものの、白内障や皮膚ガンの増加、皮膚免疫機能の低下や、植物に対する成長阻害、葉の色素の形成阻害など、人や生物の健康に多大な悪影響を及ぼすことが指摘されています。
そんな有害紫外線から身を守るためのスローガンが、“スリップ、スラップ、スロップ&ラップ”です。
スリップ(Slip)とは長袖を着ること、スラップ(Slap)は日焼け止めローションを塗ること、スロップ(Slop)は帽子をかぶることで、ラップ(Wrap)はサングラスをかけること、という意味です。似たような言葉には、“ノーハットノープレイ”もあります。「よく晴れた日には、帽子をかぶらずに遊んではいけません」という意味で、同じく紫外線から身を守るためのスローガンとして使われています。
オゾン層とは、地上から10?50km上空の成層圏と呼ばれる領域にある、オゾン(O3)が豊富な層のこと。オゾンは酸素原子3個からなる化学作用の強い気体で、このオゾン層には大気中のオゾンの約90%が集中していて、生物にとって有害な太陽からの紫外線の多くを吸収してくれます。
太陽からの照射光は、波長の長さで赤外線、可視光、紫外線(UV)に分類され、紫外線はさらにUV-A、UV-B、UV-Cに区分されます。オゾン層は、UV-Cのほとんどと、UV-Bの多くを吸収し、地上の生態系を保護する役割を担っています。またこうして吸収したエネルギーによって成層圏の大気が暖まるため、地球の気候の形成に大きく関わっています。
ところが近年、フロンに代表されるオゾン層破壊物質によって、極地上空の成層圏オゾン濃度が薄くなる現象である「オゾンホールの発生」が観測されています。これに伴い、地表への紫外線照射量が増えつつあり、皮膚がんの増加や生態系への悪影響が懸念されるわけです。地球温暖化や酸性雨などと並ぶ代表的な地球環境問題のひとつとして、オゾン層保護が取り組まれてきました。
オゾンホールとは、成層圏オゾンの破壊が進み、毎年春先に南極上空で濃度が急速に減り、周辺に比べて穴があいたように低濃度部位が観測されることから名づけられた現象ことです。
原因物質となるフロン類は、洗浄や冷却など産業活動によって地上から排出されるきわめて安定な物質です。安定な物質ゆえに、分解されないまま成層圏に達して、拡散し、高度20km辺りに至って、強い太陽の光によって分解されます。このとき放出される塩素分子が、オゾン層を破壊するのです。
毎年、南半球の冬季から春季に当たる8?9月頃になると成層圏に強い西風が取り巻き、そのため極域成層圏雲と呼ばれるエアロゾル(空気中のホコリ)の雲ができ、これにより塩素が放出されます。冬の間にこうして解放された塩素は、春になると太陽が当たり始め、紫外線を受けて一気にオゾンの破壊をはじめます。これが、南極特有のオゾンホールの原因と考えられています。
2016年のオゾンホールは8月上旬に観測され、8月中旬に急速に拡大して、9月28日にこの年最大となる2,270万km2(南極大陸の約1.6倍)を観測したと報告されています。最大面積は、最近10年間の平均値と同程度の大きさでした。その後は、面積の大きい状態は長続きせず、10月中旬から急速に縮小して、11月下旬に消滅しました。
なお、北極では地形の関係から極夜渦ができにくく、南極とは条件が異なるため、オゾンホールは形成しにくいといわれています。
オゾンホールができるとなぜ紫外線が増えるのでしょうか。
太陽光のうち、可視域より短波長域で、X線より長波長域(100?400nm)の光線が、紫外線です。殺菌灯としても利用されているように、生物の生存を制限する大きな環境因子になります。
短波長の光線ほど生体への悪影響は強くなりますが、一方で短波長の光ほど成層圏オゾンや大気圏で吸収されて、地表に届く確率は小さくなります。もっとも波長が短くて危険なUV-C(100?280nm)は、オゾン層や大気中の酸素などによって完全にさえぎられて地表には届きません。中波長域のUV-B(280?315nm)の多くは成層圏オゾンにより吸収されて地表に届く量は減りますが、完全には遮られません。特にオゾンホールができて照射量が増える波長帯であることから、オゾン層破壊等による紫外線照射に関する指標としても用いられているのです。なお、長波長域のUV-A(315?400nm)はUV-BやUV-Cに比べると影響は小さいものの、その多くが地表に届くため、長い時間あたると肌などに影響があることが懸念されています。
UV-Bは、肌表面に強く作用して赤く炎症を起こすほか、皮膚癌や白内障などの疾患を引き起こす原因にもなります。成層圏オゾン層の1%の減少によって、地上に到達する紫外線量は2%増加し、その結果として皮膚がん発生率が3%増加するという「1・2・3ルール」が提唱されています。直接的な影響のほか、人類の生存の基盤である植物や動物への影響も懸念されます。
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