去る6月12日、土用の鰻でなじみ深い「ニホンウナギ」が国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト改訂版に掲載され、「すわ!ウナギが食べられなくなる!?」と大きな話題になりました。
カテゴリーは、絶滅危惧IB類(EN)。“近い将来における野生での絶滅の危険性が高い”と評価されたわけです。生息地の損失や海洋汚染などに加え、過剰捕獲も原因の一つにあげられています。ただちに食べたり販売したりすることが禁止されるわけではありませんが、今後、国際取引が制限される可能性も出てきました。
今回ニュースになったウナギをはじめ、地球上には多様な野生生物が生息・生育しており、少なくない種が絶滅の危機に瀕しています。そんな絶滅危惧生物の種名リスト(レッドリスト)の国際版を作成しているのがIUCN。もっとも、熱帯雨林などではその存在が知られないまま、かつてない速さで種の絶滅が進んでいるので、実際にはこのリストの数を上回る規模で種の減少が進行していると考えられています。
人類の活動は、自然界の種の生命を左右しうる存在となっています。いったん絶滅した種を、再び蘇らせることができない以上、野生生物の種の減少を防止することは、将来の地球、人類自身のためにも極めて重要です。
レッドリストを公表しているIUCNとは、自然環境の保全や自然資源の持続的な利用の実現のため、政策提言・啓蒙活動・自然保護団体への支援を行うことを目的に1948年に設立された国際的な自然保護の連合団体。本部はスイスのグランにあります。国家、政府機関・非政府機関(NGO)などを会員とし、その内訳は、国家会員85、政府機関122、国際NGO 108、国内NGO 878、投票権を持たない団体が47を数えます(2014年6月現在)。日本政府は1995年に国家会員として加入しています。
生物の絶滅は、進化の過程の自然のプロセスの一つといえますが、今日の絶滅は自然のプロセスとはまったく異なり、さまざまな人間活動の影響のもと、かつてない速さと規模で進んでいることが問題視されるゆえんです。このため、絶滅の防止が地球環境保全上の重要な課題となっています。
そうした絶滅のおそれのある野生生物の情報をとりまとめた本のことを、「レッドデータブック」と呼んでいます。IUCNが、1966年に初めて発行したもので、初期のものはルーズリーフ形式になっていて、もっとも危機的なランク(Endangered)に選ばれた生物の解説が赤い用紙に印刷されていたことから呼ばれるようになったという由来があるそうです。
レッドデータブックへの掲載に際しては、分類群ごとにまず絶滅のおそれのある種のリストを作成し、次に、このリストに基づいてレッドデータブックを編集するという2段階の作業が実施されます。リストは専門家による検討を踏まえ、絶滅の危険性を評価し作成されます。選定された絶滅のおそれのある種のリストを「レッドリスト」と呼ばれます。そして、危険性のランク付けの基準が、「レッドデータブックカテゴリー」と呼ばれるのです。
そのカテゴリー分類に定量的評価を行うための数値基準が初めて導入されたのは1994年にIUCNが公表した「IUCN Red List Categories」でした。環境省のカテゴリーもこれを踏まえて、数値基準による客観的評価のための定量的要件を掲げています。ただ、数値データが得られない種も多いことから従来の定性的要件も併用した分類が採用されています。各カテゴリーの名称は、以下の通りです。
・絶滅(Extinct; EX)
・野生絶滅(Extinct in the Wild; EW)
・絶滅危惧I類(CR+EN)
?絶滅危惧IA類(Critically Endangered; CR)
?絶滅危惧IB類(Endangered; EN)
・絶滅危惧II類(Vulnerable; VU)
・準絶滅危惧(Near Threatened; NT)
・情報不足(Data Deficient; DD)
・附属資料:絶滅のおそれのある地域個体群(Local Population; LP)
絶滅危惧I類のうち、数値基準によりさらに評価が可能な種については絶滅危惧IA類(CR)及びIB類(EN)に区分することとしています。
これらのうち、CR・EN・VUが、“絶滅のおそれのある種”とされるのです。
こうした科学的情報なども参考に、特に経済活動としての国際取引が原因で存続が脅かされている動植物種の国際取引を規制している国際条約が、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。1973年に米国ワシントンで行われた会議で採択され、1975年に発効しました。会議開催地にちなみワシントン条約、または英語正式名称の頭文字をとってCITESと略称されます。
絶滅のおそれの程度により、野生生物種を附属書I(商業目的の国際取引が原則禁止)、附属書II(商取引に輸出国の許可が必要)、附属書III(IIとほぼ同じ扱い、原産国が独自に決められる)に掲載し、国際取引が規制されます。2?3年ごとに締約国会議が開かれ、附属書の改訂や条約運用の細則などが話し合われます。2014年5月現在の締約国数は180カ国・地域で、日本は1980年に加盟しています。ただし、締約国は附属書に掲載された特定の種について、留保を付すことにより、条約による規制を受けないでいることもできます。
かつては珍しい野生生物の生体取引や、象牙・べっ甲・毛皮などの装飾品や医薬品原料の取引などが主に報じられてきましたが、近年は身近な食生活への影響なども社会的な関心を呼んでいます。今回話題になったウナギの稚魚(シラスウナギ)やマグロ類なども附属書への掲載が議論されているほか、キャビアが取れるチョウザメ類は個体数の減少が深刻なため附属書に掲載されている種もあります。
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