桜の開花前線の予想が発表され、各地でつぼみがほころびかける季節になってきました。昔話『花咲かじいさん』で、正直じいさんが灰を撒いてサクラの花を満開にしたのは有名な話ですが、ヨーロッパでは湖の蘇生や森林の再生を目的に石灰の散布が行われました。これ、実話。
都市や工場から排出された酸性物質が地上に沈着し、湖の水質や森林土壌が著しく酸性化したために、水生生物の死滅や木々の枯死など深刻な影響を引き起こしました。いわゆる酸性雨問題です。対策として、アルカリ性の石灰を大規模に散布・投入して、中和することになったのです。
酸性雨は、狭義には「pH5.6以下の酸性の雨」と定義されますが、酸性霧や酸性雪も含めた湿性沈着全体をいう場合もあります。さらに広義には、乾性沈着を含めた酸性降下物全体を指すこともあります。
pHは、中性のときに7.0ですが、大気中の二酸化炭素が炭酸イオンとして雨水に飽和状態になった時に、5.6となります。このため、「pH5.6以下」を酸性雨とするのです。ただし、海洋地域など自然起源の酸性物質によってpHのバックグラウンド値が5.6以下になるところもあります。
人為的な酸性雨の原因は硫酸や硝酸であり、自動車、工場、発電所、ビルのボイラーなどで石油や石炭を燃やすときなどに、二酸化硫黄、窒素酸化物などの汚染ガスが大気に放出され、これらが大気中で硫酸や硝酸に変わり、雨水に取り込まれ酸性雨として降り注ぎます。
酸性雨は、樹木などに直接的な影響を与えるだけでなく、地下に浸透して土壌を酸性化したり、河川や湖沼に流入して水系を酸性化したりと、生態系に及ぼすさまざまな影響が指摘されています。
土壌や水系は、水酸化物や炭酸塩などのアルカリ成分を含むため酸性化に対する緩衝能をある程度は示します、緩衝能を越える大量の酸性物質が沈着すると、土壌や水系が酸性化して、中性の環境下では不溶性の重金属化合物などが溶出し、生物体内に蓄積したりします。
さて、原因となる酸性物質は、数百、数千キロの遠く離れた発生源から気流に乗って運ばれてくることも珍しくありません。国境を越え、海を越えて被害が拡散していくのです。ヨーロッパでは、中欧の工業地帯からの汚染物質が風下国である北欧へ被害を与え、また北米では米国北東部から五大湖を越えてカナダに及んだ大気汚染被害が外交問題に発展した歴史もあります。日本では、偏西風に乗った中国大陸や朝鮮半島からの越境大気汚染について盛んに研究されています。近年は、さらに大陸を越えた長距離輸送や、極地や山岳地等の人間活動の少ない場所での人工物質等の痕跡なども報告されています。
花咲かじいさんの灰撒き、もといヨーロッパの石灰散布は、いわば緊急的な対処療法に過ぎません。根本的な解決のためには、原因物質である大気汚染物質の排出抑制など、大気環境そのものの改善が必要です。殊に、酸性雨のように国境を越えて影響を及ぼす問題の解決には、国際的な取り組みも必要となります。
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