今年11月、愛知県名古屋市で持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議が予定されています。「国連持続可能な開発のための教育の10年(DESD)」の最終年を迎える節目の年に開催する、国内外の閣僚級を含む1,000人規模の会議で、ここ10年間の活動をふりかえり、2014年以降の方策についての議論を予定しています。
今回は、このDESD及びそのもとになっているESDの概念、国内外での発展の歴史などについて、ご紹介します。
持続可能な開発のための教育(ESD)とは、国際的な政治経済の会議での議論を通じて形成されてきた概念です。1972年の国連人間環境会議(ストックホルム会議)以降に一般化した「環境教育」が、ブルントラント委員会報告『Our Common Future』(1984)に盛り込まれて注目を浴び、さまざまな場面で議論されてきた「持続可能な開発」という概念と並行して、持続可能性の概念を追及するための教育として発展してきました。1997年12月にギリシャのテサロニキで開催された環境と社会に関する国際会議(テサロニキ会議)において採択された「テサロニキ宣言」で、内容に関する一定の到達点をみることができます。
統一的な見解が得られているわけではありませんが、環境教育の進化した段階と見なす傾向が強く、「個人の態度の変化」から「社会的、経済的、政治的構造及びライフスタイルの転換」へ、あるいは、「気づき、知識、理解、技術の習得」から「公正、正義、民主主義、尊敬、行動する力」など、前者を内包しつつ射程を広げているといえます。
「持続可能な開発」に向けて、教育の担う役割の重要性は、1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された「環境と開発のための国連会議(地球サミット)」において確認されており、その後の国連持続可能な開発委員会(UNCSD)においてユネスコが中心となって教育のあり方についての検討が続けられてきました。しかし、実際の具体的取り組みは十分とは言えず、その現状と課題について、前出のテサロニキ宣言において確認されました。
このような背景の下、日本政府は、2002年8月?9月開催のヨハネスブルグ・サミットの実施計画交渉で、日本国内のNGO(ヨハネスブルグ・サミット提言フォーラム、2003年3月解散)の提言を受け、今後の実施計画文書に「2005年から始まる『持続可能な開発のための教育の10年』の採択の検討を国連総会に勧告する」旨の記述を盛り込むことを提案しています。この提案は、各国政府や国際機関の賛同を得て、その後の12月に開催された第57回国連総会で、「持続可能な開発のための教育の10年」に関する決議案として日本より提出、先進国と途上国の双方を含む46ヶ国が共同提案国となり、満場一致で採択されたのです。
これにより、今後の環境教育は、この大きな枠組みにおいての連携的実践が期待されることになりました。
日本政府では、2005年12月に内閣に関係省庁連絡会議が設置され、翌年3月末に開催された同連絡会議において実施計画が決定し、2010年6月に前半5年間の取り組みを点検するとともに2014年の最終年の先を見据えたESDのさらなる促進を盛り込んで改訂しています。
「環境教育」という用語は、1948年の国際自然保護連合(IUCN)の設立総会で最初に用いられたと言われていますが、日本で本格的に使われるようになったのは、1960年代からの深刻な公害問題や自然破壊に対する解決的手段として、その必要性が広く認められるようになってからといわれます。その教育の潮流としては、公害教育や自然保護教育等の枠組みを継承して、現在に至るもの。近年では、単なる自然保護の文脈としてではなく、国際的に議論の中心テーマとなった「持続可能性」を背景とした広い文脈での「環境教育」が求められています。
また、地域レベルでも、地球レベルでも、環境ケアに向けての行動は、上から押し付けられるものではなく、学習者自らのアクション・リサーチにより達成される、との考え方から、「環境教育」ではなく「環境学習」という用語も多用される傾向にあります。
1994年に閣議決定された環境基本計画では「環境教育・環境学習」と並立的に表記し、その意味・理念について、持続可能な生活様式や経済社会システムを実現するために、各主体が環境に関心を持ち、環境に対する人間の責任と役割を理解し、環境保全活動に参加する態度及び環境問題解決に資する能力を育成することが重要で、幼児から高齢者までのそれぞれの年齢層に対して推進しつつ、学校・地域・家庭・職場・野外活動の場等多様な場において互いに連携を図りながら、総合的に推進するものと整理しています。
併せて、推進に際して重視・留意すべき点として、
(1)自然の仕組み、人間の活動が環境に及ぼす影響、人間と環境の関わり方、その歴史・文化等について幅広い理解が深められるようにすること、
(2)知識の伝達だけではなく、自然とのふれあい体験等を通じて自然に対する感性や環境を大切に思う心を育てること、
(3)特に、子どもに対しては、人間と環境の関わりについての関心と理解を深めるための自然体験や生活体験の積み重ねが重要である
と指摘しています。
1999年12月の中央環境審議会環境教育答申、2002年12月の中央環境審議会環境保全活動の活性化方策(中間答申)等を経て、2003年7月に「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」が議員立法により制定され、2011年には「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」として改正・改称されました。
※タイトルの「今日よりいいアースへの学び」は、文部科学省及び環境省が平成26年3月4日(火)?4月25日(金)の期間で実施した「みんなでつくる みんなにわかる『持続可能な開発のための教育(ESD)』愛称公募」で、大賞として決定したもの。4,000件を上回る応募の中から選定されたもので、11月のESDに関するユネスコ世界会議の成功及びそれ以降のESDの推進に向け、国内におけるESDの理解の促進をめざすとしています。
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