オーストラリア中央部は乾燥した砂漠気候です。南オーストラリア州の州都アデレードから北へ400kmほど走ると、ほどなくして荒涼とした砂漠地帯が広がります。そこからさらに450kmほど北にある小さな町クーバー・ペディは、世界有数のオパール埋蔵地帯。人口3,500人ほどの町で暮らす人のほとんどが、オパール採掘に携わっています。
クーバー・ペディは、普通の町とはちょっと違っています。町に続く道路は地表よりも下に作られていて、下っていくとそこに商店や民家が並んでいます。さらに変わっているのは、町のあちらこちらにある岩山の山肌に窓やドアのようなものが付けられていること。実は、岩山が住まいになっているのです。
住居だけでなく、教会や郵便局、ホテル、パブなど、町を形成するひと通りの施設が地下に作られた『地底都市』になっています。
オパールの採掘は、地下数十メートルの鉱脈を手掘りで探し当てていきます。見つかったオパールを堀り尽くしたら、また別の地面を掘る。こうした作業が繰り返された結果、洞穴とそれらをつなぐ坑道が残り、地底に無数の穴が開いたアリの巣のような状態になっていました。
これを利用して作られたのが『ダグアウト・ハウス』です。
家の中に一歩足を踏み入れると、鍾乳洞のようなひんやりとした空気が漂っています。夏場は外気温が50℃を越える日もあるという砂漠気候ですが、このダグアウト・ハウスの中は冷房を入れずとも快適! 洞穴独特の冷涼な空気が満ちています。
日中とは打って変わり夜間になるとグッと冷え込みますが、岩が外気を遮断しているため、それほど激しく室温が下がったりしないのだそうです。
外部に面しているのはドアや窓のある一壁面のみという洞穴の中なので、昼でも薄暗く、窓から離れた奥の部屋は昼間でも電気をつけなければ真っ暗。なんと、深いところでは地下30メートル近くになる部屋もあるそうです。窓のない地底の部屋には、地上へと続く煙突のような通風坑が作られています。
地底住居には、電気や水道などは通常の家と同じように引かれているので、それほど不便はありません。ただ、夜になると窓からの月明かりさえ射し込まないため、手元に懐中電灯が欠かせません。灯りがないと電気のスイッチすら見つけることができないほど真っ暗なのです。
オーストラリア大陸東側のクイーンズランド州沿岸部は、亜熱帯から熱帯にかかる気候エリアにあたります。冬は温暖で暖かく過ごしやすい反面、夏は日本のように蒸し暑い日もあります。
そんな暑さをしのぐため、このエリアならではの「クイーンズランダー」と呼ばれる住居があります。柱で床面を高く上げ、床下に空間がある、いわば高床式住居です。
地面から離れた床と高い天井、玄関先には広めのベランダ。高い天井にはたいてい天井扇(シーリング・ファン)が取り付けられています。すべて木造りの家屋は風通しがよく、シロアリなどの害虫対策にも優れています。また、昔は頻繁に川が氾濫したそうで、洪水が発生した場合も難を逃れたのが、このクイーンズランダー・タイプの家だったとか。
床下の空間は車庫や物置として利用され、夏でも日陰で涼しい風が吹き抜けていきます。かつては床下にハンモックや寝椅子などを置き、日中はそこで過ごして暑さを凌いだそうです。今でもエアコンや扇風機に頼らず、暑い日には家の下でやり過ごすのが真のクイーンズランド人だと豪語する人もいるほどです。
広大な大陸にまったく異なる気候が混在するオーストラリアには、今回ご紹介したような、その土地ならではの住まいが受け継がれています。共通しているのは、土地の気候や自然をうまく取り入れて生かしていること。快適で暮らしやすい家のヒントは、身近な自然を見つめることにあるのかもしれません。
※次回は太古から受け継いだ知恵と工夫が息づく、先住民族アボリジニの暮らしと考え方をご紹介します。
ダグアウト・ハウスって、なんて洒落で居心地がよさそうだなぁ思ってしまいます。海外で暮らす日本人としての美紀さんのアイデンティティとは何か知りたくなります。
住居や自然に関心を持ってお仕事をされているということで、時々覗かせていただきます。’(yuzu)
(2011.08.31)
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