オーストラリア・クイーンズランド州最北端、ケープ岬のつけ根に位置するケープトリビュレーション。キャプテン・クックから「苦難の岬」と名づけられたこの場所は、日本でも人気の観光地ケアンズから北へ130kmほどのところにある熱帯雨林地区です。一帯は、世界遺産にも登録された“世界最古の森”。
広大なデインツリー国立公園の一部に含まれ、東西に流れるデインツリー川の北側に位置します。最も古いエリアは、1億2千?3千5百万年前頃に形成されたということがわかっています。ちなみに、世界最大の熱帯雨林、南米のアマゾンは6千5百?7千万年前にできたそうなので、その古さは圧倒的!
熱帯雨林の森が海のすぐそばまで迫るケープトリビュレーション、沖合にはグレートバリアリーフが広がっています。2つの異なる世界遺産に囲まれた、世界にも類を見ない貴重な自然が残る場所なのです。
デインツリー川の北と南では、住環境がまったく異なります。
川には人間をも襲う凶暴なワニが生息し、川に架かる橋はひとつもありません。車や人は南北をワイヤーで繋いだバージと呼ばれる艀(はしけ)を使って行き来しています。
東側は海、西側は手付かずの深い森に囲まれ、北への道は過酷なオフロードのみ。川の北側地区にある小さな村々は、ほぼ陸の孤島状態。人間が社会生活をするのに必要な生活インフラはほとんど整備されていません。
1988年に世界遺産に登録されると、観光客が増えはじめ、ここ20年ほどで小規模の宿泊施設やレストランなども次々とできました。それでも、上下水道や電気といった最低限の生活インフラは20年前と何も変わっていません。いまや必要不可欠となった携帯電話の電波すら、高い木々に阻まれて届きにくい状態です。
宿泊施設やレストラン、住民は、生活インフラを自分たちで確保する必要があります。
電気は、宿泊施設なども含めた各自がそれぞれ発電機を所有し、自家発電しています。大きな出力が得られるモーター式が主流ですが、できる限り環境に負担をかけないため、太陽光発電を併用しているところも多くあります。
上水道は豊富な雨水と地下水を利用。雨水タンク【1】が全戸に備わっており、雨水や地下水を濾過して飲料水としても使用しています。下水道については、日本の『簡易水洗』【2】に近いものになっています。日本の独立・汲み取り方式と異なり、各トイレは完全な水洗式で、数軒ごとに大きな共有タンクを設置し、そこにいったん溜められた汚水・汚物は、タンクごと川の南側の処理場へ運ぶ仕組みになっています。
これらのコストは想像以上に高くつきますが、安易に電気を使わず、排出物を川や海へ捨てない・流さないことが、住民たちの暗黙の取り決めになっているのです。
観光客が増えたことで住民も増え、地域の様相はずいぶん変わりました。以前は4駆車オンリーの未舗装路だったのが、きれいな舗装路に生まれ変わり、いくつもの観光スポットができました。
こうした状況、日本なら地域住民たちが「生活に必要不可欠な電気や上下水道などを整備してほしい」と陳情書を提出して、地元の自治体がすぐさま快適な住環境を整備して、ますます観光化が進んでいくというパターンが思い浮かびます。
けれども、ケープトリビュレーションの住民たちには、利便性よりも世界最古の森を守ることの方が大事でした。生活インフラの整備を要求するよりも、自分たちの努力で森を守ることを誇りにしているのです。
ケープトリビュレーションの住民たちのように、自ら不便を買って出ることで自然を守る姿勢は、これから世界中の人々が見習っていかなくてはならないことのひとつではないでしょうか。
※次回は2つの異なる気候地区のユニークな住まいについて取り上げ、オーストラリアの極端な気候の中で培われてきた、暑さ寒さを防ぐ昔ながらの住居スタイルを紹介します。
私は以前NSW州の州有林に行った事があるのですが、
周辺公園のトイレなどの施設には雨水タンクが設置してあり、
自然との共存が出来ている国なんだと感じました。
日本人も本来は自然とうまく共存する知恵を持っている民族だと
思っているのですが、なぜ日本の公園や施設にはその様な
「自然と共存」する雰囲気ではなく、
「箱物」と言った人工的な雰囲気と感じてしまうのは
私の感覚がおかしいのでしょうか?
そうでなかったら何に問題があるのでしょうか?
未だ答えが見つかりません・・・。
(2011.06.21)
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