海は、漁師の私にとって職場です。
「いいな?、嫌な上司から叱られることも、わずらわしい人間関係も無くて」と思っている会社勤めの人、少なくないはずです。いえいえ、そんなことはありません。厳しい先輩漁師もいるし、多少の人間関係もあります。
しかし、何より怖い大先輩(?)は海そのものです。いつもは私たち漁師に“幸”を与えてくれますが、なめてかかると牙をむいて襲いかかってきて、時には命を落とす場合もあります。
車だと路上で故障しても路肩に寄せてJ○Fに電話一本で解決!後は、電車かバスで家に帰るだけです。しかし、海上ではそうはいきません。多少、整備に心得のある人でも船のでっかいエンジンがストップするとどうしようもありません。無線や携帯電話で助けを呼んでも、もし、その時海が時化ていたら…(時化ている時にかぎって故障しやすいんです)。
漁船の性能が向上し、気象情報の収集が容易になった最近でも、海難死亡事故はよく起こります。魚価低迷、燃油費高騰のいま、漁師が唯一儲かる(かもしれない)時、それは悪天候で市場の入荷が少なく高値が予想できる時です。だから時化のとき無理して漁に出て事故に遭う。
この悪循環が今の漁業です。大量に魚が獲れ、無理して積んで沈没した話も聞きます。
私自身も何度か危ない目に遭ってきました。
パソコンの前に座ると世界中の情報が得られるこの時代に「命懸け」の職業。生活のためです。ぜんぜんカッコよくありません!
水は高いところ(山側)から低いところ(海側)に流れます。当たり前のことですがゴミも一緒に、一番低い海に流れてきます。大雨で土砂災害があると、その被害がテレビなどで盛んに報道されます。濁流に流されている木々や家屋の残骸などはすべて海へ流され、船舶や漁業へ被害をもたらしてるって知ってます? でも、いくら大きくても大木や柱などは時が経てば分解され自然に帰ります。
一方、プラスチックなどは永久にその形で海へ留まります。漂っているうちにフジツボが付き重たくなって、海の底深くに沈んで溜まっていきます。永久に、です。最近では、有機農家が使う「堆肥」の袋、ペットボトル、レジ袋や、いろんな国の文字が印刷されたゴミが漂い、流行や世界情勢が漂流物からわかるくらいです。もちろん、「漁師は、海を一切汚さない!」なんて言う気はありません。油の流出事故があったり、漁具魚網などが捨てられていると心が痛みます。
皆さん、流れる水の行き着く先のことを少しでも思っていてください。大先輩を怒らせないように!
しかし、ゴミを流しても、汚しても、水平線に沈む夕日に向かって「バカヤロー!」って叫んでもまだ、海は私たちを受け入れてくれます。海水浴、魚釣り、マリンスポーツ、漁師以外の人にとっても海との関わりは重要ではないでしょうか。生命の源である海は健在です。もっともっと海へ行きましょう!漁はやらなくても、海で遊んでいるうちに何をすべきかわかってきます。
海では、ルールさえ守れば安全で楽しく遊べるはずです。
しかも、このご時勢、タダです…
最近、問題になっている漂流ゴミの話が、漁師さんの目線で分かりやすく書かれていました。ペットボトルやビニールゴミのポイ捨てが一日も早く無くなりますように。
(2010.05.10)
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