漁師になって27年…いや、小学生の頃から親父について沖に出ていたのでもっと長く、漁業に携わってきました。
生き物の進化の過程で数十年というのは、まばたきよりも短い時間のはずです。しかし、この期間で海の中の生態系は大きく変わっています。「魚種の変化」「珊瑚の北上」「エチゼンクラゲの大量発生」「藻場の消失」など、具体的な例はまだまだたくさんあります。これらは、海水温上昇、海洋汚染などによる影響だと言われています。
漁業の発展も生態系変化の要因のひとつです。漁具漁法の発達により乱獲され、資源が枯渇している魚種もあります。
漁師を取り巻く変化は陸の上でも進行しています。マグロやカニなど一部の魚種ばかりもてはやされ高価になったり、逆に、ブリやイカなど大手量販店による価格競争で低価格になった魚種があったり。安価な輸入魚の出現なども私たちを悩ませています。
以前は、漁をがんばればがんばるほど収入が増えるという当たり前の図式がありましたが、最近では漁獲量も減り、たまにたくさん獲れるとすぐ市場の競り値に反映されて安くなり、収入が増えることはありません。
燃油高騰の折、テレビで「漁船の燃料が高くなったのでイカの値段が上がりますよ!」と経済評論家が言ってました。いくら漁の経費がかかっても魚の値段はすべて市場の競りで決まるので、自分で獲ったにもかかわらず漁師は魚の値段を決められません。経済評論家でさえそんな認識しかないのです。
かつて、行政は私たち漁師に「新漁法」「漁具の開発」などを指導してきました。それがいつの頃からか「流通販売」や「ツーリズム事業」など、主に6次産業を指導支援するように変わってきました。このことを通じ、後継者不足で減少している漁師人口に歯止めを、さらに、ただでさえ低い食料自給率の低下を抑えようとしています。
高齢化の一途をたどる漁師たちは「漁業」で生活するために、ふだんの漁、漁具の整備などに加え、加工や販売、接客までせざるを得なくなりました。長年漁師一筋の古老はたいへんです。
引退をしていく漁師はよく、私に「これから先は漁師も少なくなってお前たちが獲り放題になるよ」といいます。この考えは間違いで、地域漁協の組合員が少なくなると漁協の力も弱くなり、漁業権や許可の取得などに影響します(釣り以外のすべての漁法は許可が必要です)。
かつて、野母崎では「漁師になれないヤツは公務員にでもなってろ!」と言われるほど魅力ある職業でしたが、このままでは私たち漁師は減る一方…。
なんだかんだありますが、漁師になった以上は泣き言ばかり言っていられません。郷土の産業、文化を後世に伝えていくという軽い使命感もあるし、それにこのご時勢、好きな職業に就けるありがたさを思わなければいけません。
最近では、田舎暮らしが見直され、Iターンで漁師になる若者も増えています。私たちの技術と彼らの感性で漁業を盛り返せる気がします。
漁師の使命は「国民のタンパク源の供給」なんだそうです。しかし、ツーリズム事業などを通じ、もうひとつの漁師の役割=「子どもたちに命の大切さを伝える」ことに気付きました。「生きた魚を〆て捌(さば)いて食べる」体験は、暴れる魚に手鍵【1】を打って殺して、血抜きをするところから始めます。子どもたちには残酷に見えますが、ふだん食卓に並んでいる料理が「食べ物」になる前は「生きもの」で、人間はその命を食べて生きているんだという事が伝わりやすいのではと考えます。
いろんな活動を通じ、次の世代を担う子どもたちに魚をおいしく食べてもらい、さらに「命をいただく」ことの意味を伝えていければと思います。
国民のタンパク源を担うなんて大それたことは思いませんが、地産地消、安心安全のニーズに応えるため、そしてなによりおいしい魚を食べてもらうために、漁師を続けたいと思います。
レッドデータブックに「漁師」が載らないように…。
うちの田舎でも漁師募集はめったにありません。
なかには三セクのダイビング事業や湾内クルーズ事業に転換された方もおられます。
(2011.06.07)
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