日本では、物流網が発達して、遠く離れた地域からのお取り寄せが簡単にできるなど、大変便利な世の中になりました。その一方で、地産地消という言葉も定着しています。この2つの流通のあり方は、対極に位置するものです。
食品を購入する時に、これはどこからどうやって運ばれてきたのだろう?と、流通経路やコストついて考えてみると、食品の見方・選び方がぐっと変わってきます。先日訪れた西オーストラリア州で、それを痛感することになりました。
私が住んでいるシドニーは、オーストラリア大陸の東沿岸部にあり、西オーストラリア州の州都パースへ行くためには、大陸を横断し、飛行機で約5時間かかります。陸路だと約4,000km。時速100キロで車を走らせても40時間はかかり、高速鉄道のないオーストラリアでは、列車は数日間かけて走るほどの距離があります。
久しぶりに訪れたパースで、スーパーマーケットに入ったところ、シドニーでは見たことのない食品が多く並んでいるのに気づきました。よく見ると、生鮮食品や乳製品には、「WA Grown」や「Proudly Western Australia」、「Buy West Eat Best」【1】のステッカーや文字が貼り付けられています。
これらは、WA=西オーストラリアで育ったものや西オーストラリア州産であることの証となるもので、日本にもある地産地消推進ステッカーのようなものです。
オーストラリアは、人口が集中する主要都市のほとんどが大陸の東側にあるため、農産物の生産地や食品工場も、そのほとんどは東側に偏っています。
日本の国土の約20倍もあるオーストラリア大陸では、東側で生産した食料を西側へ運ぶのは大変ですから、西オーストラリア州内でまかなおうという意思表示が、上記のステッカーに現れています。
西オーストラリア州の地産地消は、日本のように、地域の特色を出したり地域おこしの一環にしたりという側面はありません。あまりに距離が離れているため、物流コストがかさむのはもちろん、到着までに日数もかかるため日持ちのしない生鮮食品はだめになってしまうという物理的な問題があるからです。また、同じ大陸とはいえ、東側と西側では気候もずいぶん違うため生態系も異なります。西オーストラリアにしか生息していない生き物や植物も多く、物品の移動と共に思わぬものが運ばれてしまったら生態系を壊す危険性もありますから、防除対策も必要となります。
フードマイレージという考え方があります。食品=Food(フード)にかかる輸送距離=Mileage(マイレージ)を考慮することで、輸送に伴って排出される二酸化炭素排出量を把握し、地球環境への負荷を減らそうという概念です。
地産地消は、その土地で作られた食品をそこで消費するため、輸送距離は短く、低コストで済むばかりか、輸送にかかるエネルギーが小さく済み、フードマイレージも小さくなります。その一方で、遠くから運んでくる食品は、当然フードマイレージが大きくなります。
フードマイレージを考慮することで、二酸化炭素排出量を抑え、地球環境への負荷を減らすというのも、もちろんサスティナブル(持続可能)な生活のために大切なことですが、長距離移動を実現するために、食品がどのような状態で運ばれてくるのか?を考えてみると、興味深いものがあります。
例えば、果物なら熟してから収穫してしまうとすぐに腐ってしまうため、青いうちに収穫してしまう、食品の日持ちをよくするために保存料を添加するなど、様々な方法で遠くまで運ぶための工夫がされてきました。これでは、本来の味が損なわれてしまうかもしれません。また、遠くから輸送費をかけて運ばれてくるのにも関わらず、異様に安い値段だったりする場合、不当な搾取がされている可能性もあります。
地産地消は、単にその土地ならではの旬のものをおいしくいただくだけでなく、フードマイレージが少なくて済むというメリットと共に、地元の生産者を支援することに繋がります。そして、添加物が少ない安心な食品を口にできるというメリットもありそうです。もちろん、その土地では作れないものもありますから、完全な地産地消は難しいですが、その際も、流通について一考してから購入することは、サスティナブルな生活をする上で大切なことではないでしょうか。
そんなことを、「Buy West Eat Best(西のものを買おう!それが食べるのに最良!)」と高らかに掲げる西オーストラリア州で強く感じたのでした。
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