洗濯や食器洗いなど、現代の生活では欠かすことのできないものとなった洗剤。洗剤というのものが製品化される以前、日本では、米のとぎ汁や植物の葉や実などを使っていたそうです。こうした自然由来のものを使っている時代はまだしも、合成洗剤が普及し始めた1960年代頃から、洗剤の環境への影響が指摘され始めました。
日本では、新成分配合で洗浄力を強化した洗剤が次々と登場しています。テレビのコマーシャルや広告などの影響もあって、なんとなく、「よく落ちそう」といった印象だけで、内容をよく確かめずに手にしている傾向が強いようにも感じます。私も日本にいた頃は、それほど気にせずに使っていました。
1992年にロンドンで生活することになり、スーパーマーケットにいって、洗剤を買おうとしたところ、知らない商品ばかりがたくさんある中で、どれを選んでいいか迷ってしまいました。そして、商品をひとつひとつ手に取り、裏返して商品説明や成分内容を読んでみました。書かれているのは英語ですから、日本語のようにパっと目に飛び込んできませんし、すらすらとは読めません。洗剤ひとつ買うのに、何十分もかかってしまったのをよく覚えています。
日本では、どこかで目にした商品をさっと選ぶだけで、成分内容などよく読まずに買っていたのですが、知らない商品ばかりの海外で生活することになり、商品説明や内容を読むクセがつき、洗剤の成分について知ることになったわけです。
洗剤に、環境への影響が懸念される成分が多く使われていることがわかっても、下水処理が発達した都会での暮らしでは、環境への影響がどれくらいあるのかが目に見えてわからず、なかなか実感として湧いてきませんでした。
そんな状態が何年か続き、はっきりと洗剤を選ぶことの大切さを実感し、転換となったのが、ペルーのエコ・ロッジに滞在した時です。
行ってみたい世界遺産のひとつとして、日本では絶大な人気を誇る「マチュ・ピチュ」。その麓の谷間に、ウルバンバという小さな村があります。「インカの聖なる谷」とも呼ばれるこの谷間には、ウルバンバをはじめとするいくつかの村が点在し、遺跡や市場などの見どころもあるため、観光地となっています。ですが、この谷間の村に滞在するのは、長期旅行の欧米人がほとんどで、短期間で多くの名所を巡る日本のパッケージ・ツアーではさっと観光して、通り過ぎてしまうことが多いようです。
ウルバンバという名称は、谷間を流れる川の名前です。谷間の小さな村々にとって、アンデス山脈が源流のウルバンバ川は、命の水。ですが、この地域は、上下水道設備がそれほど発達していないため、生活用水が流れ出てしまう場所にもなってしまっているのだそうです。「インカの聖なる谷」をじっくり観光するために、ウルバンバの村にあるエコ・ロッジに宿泊した際、この事実を知ることになりました。
そのロッジでは、洗濯するのも、食器を洗うのも、すべて、昔ながらの白い固形せっけんを使っていました。食器を洗うのに固形せっけん?と、初めは驚きましたが、意外や使い心地は満点。油汚れも、こげつきもよく落ちるのです。オーナーに話を聞くと、お風呂で使うのも、すべて同じ固形せっけんだそうで、シャンプーやボディソープなどは一切使っていないとのこと。このロッジで使っていた固形せっけんは、自然由来の成分だけで作られているシンプルなものです。
スペインから移住してきたオーナー曰く、「ウルバンバ川に生活用水が流れでていることを知って、ショックだった。この水は、私たちが毎日飲んでいるものだ。水が汚れないようにと、自分たちができることを考えた時、できるかぎり下水も汚さないことだと思った。だから、自然に環境へと還元できるものをだけを使うことに決めたんだ」と話してくれました。
自然由来の成分だけ作られたものなら、環境へ流れ出ても、また自然に還ります。この話を聞いた時、今まで漠然としていた『環境への影響』がはっきりと見えてきました。つまり、環境へ流れ出たりした際に、自然に還らずに残ってしまうものは、本来、自然は存在しないものであり、あってはならないものです。そうした成分が含まれている洗剤を使うことで、知らず知らずのうちに、自然に還らない不自然なものを環境中に残してしまっているということになります。
このオーナーの話を聞いてから、私はできる限り、「Biodegradable(生物分解可能)」と表示のある洗剤を探して、買い求めるようになりました。生物分解可能とは、環境中に流れ出ても、もともとそこに存在する細菌や微生物などによって分解され、環境還元できる、というものです。
清潔志向も伴い、洗浄力の強い洗剤(シャンプーを含む)が次々と登場し、その販売量および使用量は、年々増えているそうです。合成洗剤に含まれる界面活性剤の働きを強化するために添加されるリン酸塩などが栄養分となり、プランクトンが増えすぎてしまうことで赤潮が発生する原因になると問題になったこともありました。各家庭での洗剤の使用量をできるだけ控え、可能な限り環境還元できる製品を選んで使うことで、環境への負荷が減り、私たちの身の回りの自然も健康な状態を保てるのではないでしょうか?
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