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「ようこそ、外来種問題の世界へ」バックナンバー

0062015.11.02UP防除における計画の重要性

 読者の皆さんの中には、外来種対策に携わっている方もいると思います。侵略的な外来種は、爆発的に増殖する生物も多いため、予算や人的資源、実施可能な手法などを勘案して、計画的な防除が必要になります。
 もっとも重要なことは、被害が生じる前の未然防止です。外来種被害防止三原則をすべての人が守っていくことはもちろんですが、外来種が侵入したときに、早期の発見と、早期の防除ができる体制を整えていくことも重要です。
 今回は、早期発見・早期防除や計画的な防除の必要性とその考え方について紹介します。

「未然防止(火の用心)」が外来種対策でも重要

火事に例えた外来種の対策
火事に例えた外来種の対策

早期対応の必要性と防除コスト
早期対応の必要性と防除コスト

 外来種は、定着が進むにつれてその数がどんどん増え、対策に係る費用や労力等のコストは大きくなり、時間もかかってしまいます。外来種の蔓延と被害の拡大の様子は、燃え広がる火事に喩えられます。最初は小さな炎であっても、放置するとやがて延焼して消火できなくなり、被害も甚大になります。火事と同じように、未然防止(火の用心)と初期の対応(初期消火)がきわめて重要です。
 そのため、未定着の段階で、新たに侵入した外来種を早期に発見するための情報収集体制の整備やモニタリングを実施していくことが重要です。

 そして、侵略的外来種の侵入・定着が確認された場合には、早期の根絶をめざして迅速に対応することが重要です。被害が顕在化する前に対応する方が、被害が顕在化してから対応するのに比べ、はるかに効果的でコスト削減や時間短縮にもつながります。個体数が少ないうちに対応することで、奪う外来種の命をできる限り少なくすることもできるのです。


早期発見・防除体制の構築には、リストと行動計画が必要

早期発見・防除に関する失敗パターン
早期発見・防除に関する失敗パターン

 しかし、実際には侵入した外来種の個体数が少ない時点で発見するのはとても難しいことです。そこで、どのような外来種に着目していく必要があるかを事前に決めておくことが重要になります。
 国レベルで着目すべき外来種が、生態系被害防止外来種リストの「定着予防外来種」になります。定着予防外来種は、国内にまだ侵入または定着していない外来種です。このような外来種が国内で確認された場合は、特に早急な対策が必要です。
 国レベルでは定着している種でも、それぞれの地域にはまだ侵入していない外来種がいます。これらの外来種の侵入・定着を防ぐためには、地域版の外来種のリストを作ることも必要なことです。
 外来種被害防止行動計画にある「早期発見・早期防除」に対する認識が不足していたり、定着予防外来種を含めた外来種のリストを作っていなかったりすると、発見が遅れたり、発見した場合の対応が遅れたりします。特に、行政の場合は、被害が顕在化するまで対応や予算の確保ができないことがあります。対応が後手に回ってしまうことで、事業の開始時には既に外来種が爆発的に増えてしまっているケースもあります。

リスト・行動計画に基づく早期発見・防除の成功パターン
リスト・行動計画に基づく早期発見・防除の成功パターン

 そのようなことにならないよう、地域版の外来種リストを作って監視体制を構築し、被害が生じる前から外来種対策を進めていくことが重要です。また、監視のための多くの目があれば、それだけ未然防止を効果的に実施することができます。より多くの人に外来種の早期発見・早期防除の重要性を認識してもらい、外来種のリストの存在とその内容について周知を図っていくことが重要です。

防除における計画の重要性

 外来種が既に定着して被害が生じてしまっている場合、放置しても状況は改善しませんので、防除を開始することになります。
 防除を進める際には、その外来種の性質、生息・生育状況、被害状況を把握した上で、実施のための計画を立てて、それに沿って進めることが重要です。計画立案において最も重要なことは目標の設定です。目標は、地域の自然環境、外来種の再侵入のリスクや蔓延状況、実施可能な手法などに応じて、例えば次のようなものが想定されます。

[1] 外来種を対象地域内で根絶する。
[2] 外来種による生態系や農林水産業に対する被害を問題とならない程度に軽減する。
[3] 外来種が他の地域に拡散しないよう、特定の場所に封じ込める。
[4] 外来種の問題を多くの人に知ってもらうために普及啓発し、これ以上拡大しないよう、その取り扱いに留意してもらう。

 目標には短期的なもの(数ヶ月から1年間)から長期的なもの(数年間かそれ以上)があります。先に挙げたような防除の目標を、どの程度の期間で達成するかという時間スケールの設定も重要となります。
 もし外来種を根絶できれば被害は消失し、他地域への拡散もなくなり、それ以上の防除は不要になります。ただし、ひとつの個体群を完全に取り除くためには、多くの場合大きな時間と労力が必要となります。そのため、対象エリア中、生物多様性保全上重要な地域などを中心に局所的に根絶させていくなど、優先順位を付けた対策など、考え方の整理が必要です。目標を設定する際に、対象とする外来種の個体数や分布域の広さに対して、投入する人員数、トラップ数、防除に費やす時間等が十分であるかをよく検討する必要があります。外来種の移動分散力、繁殖力等の大きさも踏まえる必要があります。
 防除を進める上で、モニタリングデータに基づいて定期的に防除の効果(外来種の個体数の減少、被害の軽減等)を把握し、その結果を次期の防除計画に反映させる順応的管理が必要となります。もしも目標が達成できないことが判明した場合には、防除作業の経緯を分析し、現実的な方向に軌道修正しなくてはなりません。達成可能な目標に切り替えること、防除体制を強化すること、期間を延長することなども検討すべきです。

最後の一踏ん張りが大事

定着した侵略的外来種を根絶させるまでの防除段階ごとの防除の留意点
定着した侵略的外来種を根絶させるまでの防除段階ごとの防除の留意点

 外来種がたくさん生息しているときには、捕獲などの防除も比較的順調に進みます。しかし、生息数が少なくなってくると、捕獲は困難になり、一匹あたりの捕獲にかかる費用も高くなってきます。なかなか進展がなく、諦めてしまいたくなることもあります。しかし、侵略的な外来種の中には、非常に少ない数からも個体数を増やしていくものが少なくありません。防除の成功には、最後のひと踏ん張りが極めて重要なのです。
 根絶を達成した場合には、再侵入を防止するための対策が必要です。遺棄などをしないように普及啓発することや、早期発見・防除体制を整えることも忘れてはなりません。

※本稿は、「外来種被害防止行動計画」p.93をもとに改変しました。


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