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「僕の味噌づくり365日」バックナンバー

0062012.09.25UP味噌を造る、味噌を売る

塩麹はつくらない

 皆さん、おみそ汁飲んでますか?
 「おふくろの味=みそ汁」と言われていたのも今や昔。一世帯当たりの年間味噌購入量は30年前の半分にまで落ち込み、25年前僕がこの世界に入った頃には全国に2,000社あった味噌メーカーも今や1,000社と半減しました。10年後には更に3割の味噌蔵が消えるのでは…とさえ言われています。小さな味噌蔵はもとより、生産体制を拡大してきた大手のメーカーも今では生き残りに必死です。

ごはんには、おみそ汁。やっぱりホッとします。
ごはんには、おみそ汁。やっぱりホッとします。

 次から次へと新商品を開発しては市場に投入してくる大手メーカー。最近ブームを巻き起こした塩麹に至っては、大小拘わらずほとんどの味噌メーカーが参入しています。
 この塩麹、一頃は作っても作っても間に合わないほどの注文が来ていたようで、「井上さんは作らないの? 商売っ気がないね。」などと言われたこともあります。
 でも、塩麹がどんなに売れても、うちでは作りません。そもそも味噌を造るために麹をつくっているのですから、それを塩麹に回したら肝心の味噌が造れなくなってしまいます。それに作る人手もありません。人員も麹も、うちではすべてが味噌造りのためにあるのです。

 僕で四代目となる井上醸造は、創業以来、手造り天然醸造【1】で味噌を造り続けています。昔は当たり前だったこの製法も、日本が豊かになって行くいわゆる高度成長期、割に合わないと切り捨てられて来ました。ちょうど親父の時代です。日本中が速く大量にモノをつくって、会社や工場を大きくしようとしていた時、親父は「造れる分だけ売ればいいんだ」と、味噌だけを造ってきました。残念ながら、その頑固さと不器用さは僕にも引き継がれています。井上醸造には塩麹も味噌スイーツもありません。本当に味噌しかない味噌屋なんです。

丁寧に造って、丁寧に売る

 少し前、うちの味噌を売らせてほしいという話がありました。よくよく聞いてみると、どうやら、その会社のPB(プライベートブランド)として売りたいとのこと。ということは、うちの味噌に他の会社のラベルを貼って売るということで、つまりは井上醸造の名前は一切でないということです。自分たちが心血を注いで造った自慢の味噌を他人の名前で売るなんて、うちではあり得ません。最後まで自信と責任を持って、お客様にお味噌を届けたいのです。

お店では量り売りが基本。ご常連さんには容器を持参する方も。
お店では量り売りが基本。ご常連さんには容器を持参する方も。

お店にお味噌は置いてありません。ご注文をいただいてから味噌蔵まで行き、大桶からお味噌を掘り出します。昔からこのやり方は変わりません。
お店にお味噌は置いてありません。ご注文をいただいてから味噌蔵まで行き、大桶からお味噌を掘り出します。昔からこのやり方は変わりません。

 今でこそ「もっと知ってもらいたい」と、うち以外の限られたお店にお味噌を置かせていただくようになりましたが、ほんの10年ほど前までは他には一切出さず直接お客様に売るというスタイルでやってきました。現在でも九割方は直接ご注文をいただくお客様です。
 この売り方にこだわるのは、少量生産ということもありますが、一番は直接お客様の声が聞けるからです。
 「井上さんのお味噌を使えば、他のは使えません」「いただいて美味しかったので、注文できますか?」等々…。
 その言葉を聞きたくて頑張るんです。造り手にとって、「おいしい」という言葉は、何よりのご褒美なんです。

マルシェは生産者と消費者を結ぶ貴重な場。
マルシェは生産者と消費者を結ぶ貴重な場。

 商売っ気ですか? それなら人一倍ありますよ。
 だからこそ、本業の味噌にこだわるのです。お客様に味が落ちたと言われないように、浮気をされないように、全力で味噌を造っているのです。
 このやり方が正しいのかどうか。その答えは、10年後、20年後に出るのかもしれません。

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バックナンバー

  1. 001「すべては味噌づくりにつながる」
  2. 002「自然の力を借りて」
  3. 003「とことん使う」
  4. 004「産地にこだわる」
  5. 005「味噌づくりとは麹(こうじ)づくりだ」
  6. 006「味噌を造る、味噌を売る」

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