最近の「塩麹」ブームで、麹が見直されています。
そもそもこの麹、日本の食文化を支えてきた醤油、味噌、酢、味醂、日本酒などの発酵食には欠かせないもので、麹をつくり出す麹菌(ニホンコウジカビ)は、国菌にもなっているのです。
間違えやすいのですが、麹菌と麹は違うものです。「麹菌」を蒸したお米につけ(種付け【1】)、約48時間かけて米の一粒一粒にコウジカビを繁殖させたものを「麹」と呼びます。
僕のつくる味噌の原料は、大豆、米、塩ですが、ただ、これらの原料に麹菌を混ぜて仕込んだとしても味噌にはなりません。必ず米を麹につくりかえる必要があるのです。なぜかというと、味噌の発酵にかかせない様々な「酵素」は、コウジカビが繁殖していく(麹ができあがっていく)過程でつくり出されるからです。
いい麹をつくることが、結果としてバランスのとれた酵素をたっぷりと含み、味噌の発酵を促すことになります。味噌造りは昔から「一こうじ、二炊き、三仕込み」といわれ、麹づくりが一番の要とされてきました。そのため、味噌職人はひたすら麹づくりに腕を磨いてきたのです。
僕の味噌の“売り”は? と聞かれたら、迷わず「手造り・天然醸造」と答えます。
「天然醸造【2】」については以前ふれた通り、人工的な温度管理ではなく自然に委ねた熟成方法のことを言います。では、「手造り」とはどういうことを言うのでしょう。
「手造り味噌」と聞くと、心がこもっているとか、温かみがあるとか、不思議とおいしそうなイメージを持ちますよね。それゆえこの言葉、平成17年に全国味噌工業協同組合連合会で規約が定められるまで、実に都合よく使われていました。
この規約では、手造りとは「天然醸造の基準を満たすもので、かつ、製造に当たり、全量が伝統的な手作業による
麹づくりとは、すなわち空気と米の養分と水の三要素を操作して麹菌を育てることです。それを理想の過程に導くのが、職人である僕の仕事です。
種付けされた蒸米は、麹菌の繁殖に最適な高温多湿に保たれた専用の部屋(
職人は自らの五感をフルに使い麹菌のわずかな変化を感じ取りながら、理想の麹に仕上げていきます。こうして出来上がった麹は、噛むとほのかに甘く独特の白さと栗香がするのです。特に味噌は、発酵食の中でも麹をつかう割合が高いため、麹をたくさんつくる必要があります。
もっとも手間のかかる麹づくりを省力化するため技術革新が進み、いつの頃からか職人の五感はコンピュータにとって代わられました。今や伝統的な手法で麹をつくっている味噌蔵はほんの一握りです。
随分前になりますが、ある御仁が「今時ふんどし一丁で汗だくになってやるこんな仕事、
今でこそ僕たちは理屈を知った上で麹づくりをしていますが、まだ分析機器もなかった頃、目に見えぬ酵素の力を引き出す技を確立した先人たちの探究心や感性は本当にすごいと、麹のことを知れば知るほど感じます。
そして、僕は思うのです。
「自分の手で麹をつくらないで、どうして僕の味噌だと言えるのだろう。何より職人にとって一番の腕のみせどころを機械なんかに取られてたまるか」と…。
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