2012年10月、私たちがカーシェアリング事業を実施していた仮設万石浦団地で利用者間交流の催しとして電気自動車(EV)の試乗会を行いました。市内のディーラーさんに協力してもらって実現した企画です。当時私たちが使っていたのはガソリン車ばかりでしたから、物珍しさもあったのか、思った以上の盛り上がりとなりました。
この時、「復興住宅に移ってからも、電気自動車でカーシェアリングできたらいいなぁ」と、参加者の一人が夢を語るようにおっしゃいました。
EVメーカーである三菱自動車工業(株)にその声を伝えて協力の相談をしたところ、2013年8月から電気自動車i-MiEV6台を無償で貸与していただけることになりました。カーシェアリング・コミュニティサポートセンターの予算で充電施設を設置して、念願だったEVカーシェアリングがいよいよ動きはじめた瞬間でした。
お預かりしたEVを仮設に住む皆さんに目いっぱい活用していただいたその顛末は、本連載の第3回記事で紹介しています(003「カーシェアリング的コミュニティ論」)。
全国のEV保有台数(約5万6千台)は、四輪車の登録総数7700万台に対してごく小さな比率でしかありませんから、ユーザーの意見も生まれにくい状況にあります。第3回記事に書いたように、EVでの温泉旅行などを仮設自治会主催で行っていますが、こうした機会に少しでも社会に還元できればと、出かけた先では役所に立ち寄って、その地域の充電環境などについて率直な感想を伝えるように意識してきました。
また、電気自動車は移動手段としてだけでなく、オプションの給電装置を接続することで、電気を取り出すことができます。i-MiEVも、「MiEV power BOX」という給電装置を使うことで、フル充電時に約1日分の家庭電力を取り出すことが可能になります。
そこで、私たちのEVカーシェアリングでも、「MiEV power BOX」を購入しようと、運営する5つの仮設自治会が協力して、インターネットを活用したチャリティによって資金を集めました。多くの方々の協力を得て、2台分の購入資金を集めることができました。
こうした活動を評価していただき、2014年5月、お借りしていた6台のi-MiEVに加えて「MiEV power BOX」4台を付けていただいて、正式に寄贈してもらえることになりました。
チャリティの詳細については、こちらの記事をご参照ください。
被災地でEVを活用する意味は、何と言ってもEVが非常用の電源になるということです。電気のない辛い生活を数か月間も経験された石巻の方々にとって、そんな車が身近にあるだけで安心感が生まれるのです。
石巻市では、市全体で取り組む総合防災訓練を年に一度実施しています。これに合わせて各地の自治会等がそれぞれの方法で防災訓練を行っています。2013年10月に行われた仮設大橋団地の防災訓練で、給電のデモンストレーションが実施されました。i-MiEVから電気を取り出し、照明を灯すというものです。その1年後の2014年には、給電デモンストレーションを実施する防災訓練は、5箇所の仮設住宅に広がりました。しかもその内容は、EVから取り出した電気でポットのお湯を沸かしてコーヒーを淹れて参加者にふるまったり、非常用のアルファ米でごはんをつくったり、沸かしたお湯でそうめんを茹でたりと、各地で工夫を凝らしたデモンストレーションを実施しています。詳しくはブログのこちらの記事をご参照ください。
EVから電気を取り出す訓練を住民主体で行う事例は、全国的に珍しいように思います。しかも、5箇所も実施する地域は更に希ではないでしょうか。仮設住宅でEVカーシェアの取り組みを始めてから1年、EVは日常の足になるだけでなく、非常時の給電設備としても活用できるということが、少しずつ石巻の仮設住宅の中で浸透してきたように思います。
2014年5月に行われたEVの寄贈式の時、石巻市の亀山市長にも出席していただきました。
式の前に市長と少し立ち話する時間があり、「復興公営住宅で自然エネルギーを活用したEVカーシェアリングを実現したいので協力してほしい」と市長に申し出ると、「もちろん!」と快諾してくださいました。
このときの立ち話を公式なものにするため、2014年9月、市長宛に協力の要望書を提出、11月には協力を約束する正式な回答をいただきました。それを受けて、11月24日に市役所の5つの課の課長、地元の大学(石巻専修大、東北大)の先生方、メーカー、技術コンサルタントを中心とした検討委員会を設立し、まず1箇所の復興公営住宅で社会実験として行うことになりました。
社会実験では、EVの充電に太陽光エネルギーを活用しています。普段は住民の足として使い、災害などによる停電時には独立した発電装置として電気を供給します。しかも給電設備を搭載したEVは復興公営住宅内で使うだけにとどまらず、必要なところがあればEVを走らせて電気を運搬することもできます。太陽光パネルとEVを中心としたエコ防災システムを実現し、そこから生まれる社会的効果を検証します。
財源確保に苦労しましたが、約半年間の協議の末、三菱商事復興支援財団から助成いただけることが決定しました。2015年春のシステム稼働に向けて、現在準備を進めています。
今まで、現場に合わせて私達なりに取り組みを進めてきましたが、今回の社会実験では、専門家や様々な立場の方々と共に本格的なモデル化を行っていきます。そうしてできたモデルを雛形にし、2015年度に3箇所、最終的には10箇所くらいまで増やしていって、徐々に石巻市全体にこのエコ防災システムを拡げていき、一つの地域モデルとして構築することを目指します。
このエコ防災システムは、自然エネルギーで充電するEVを地域住民が管理運営するだけです。石巻だけでなく、他の地域でも簡単に転用できると思います。
2014年12月15日、地元の工藤電機(株)主催のEVコンバージョンセミナーが石巻専修大学で行われました。私たちも、整備工場の方々と共に参加しました。
EVコンバージョンとは、ガソリン車を電気自動車に改造することです。私たちが全国から寄付していただいた車は、古い車もあり、故障したり、燃費が悪い場合もあります。それらの車のエンジンをモーターに取り換えてEVコンバージョンすることで、高燃費の車に生まれ変わり、再び活用できるようになります。寄付していただいた車をいつまでも大切に使い続けていたい、そう願ったときの一つの選択肢がこのEVコンバージョンです。夢が一歩実現に向けて進んだ瞬間だったと思います。
2015年からは、市内・県内からの車の寄付募集を活発にしていこうと計画しています(今後市報に案内を掲載していただく予定です)。これまでは、全国から寄付された車を活用した取り組みを行ってきましたが、地元で車を集めて、そこに暮らす人々のために活用しつつ、それが少しずつEVにコンバージョンされていくことで、より環境負荷の少ない社会を作っていく、そんな好循環を生み出していければと願っています。
夢はいくらでも広がっていきます。私たちは思い描いた夢に正面から向かい合ってきましたし、これからも向き合っていきたいと思います。さまざまな壁が立ちはだかり、苦労することも少なくないでしょうが、夢を描いて、できることから行動し続ければ、きっと実現すると思っています。そして、そこで得た経験を今まで支援いただいた皆様の住む地域に還元することこそ、恩返しであり、あるべき復興の形ではないかと私たちは考えます。
約1年間に渡る連載は、今回をもって終了いたします。思った通り、連載を始めた当初とは違った風景が、今、目の前には広がっています。さらに1年後の今頃、また違った風景を見ることができるように頑張っていきたいと思います。
コラムを読み続けていただいた皆様、ありがとうございました。
コンバージョンセミナーでの試乗の様子
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