6万台。
宮城県石巻市で人々が東日本大震災によって失った車のおおよその台数です。石巻も他の東北エリアと同様、車は生活必需品。生きるための営みを再開させるために、皆さん、なんとか車を優先的に買い戻していきました。しかし、震災前には3?4台の車を仕事や家族で使い分けている世帯も多く、全ての車を買い戻すのはやはり厳しいのです。
そこで、そんな境遇の方々同士で一緒に車を共同で使う『カーシェアリング』というスタイルを私たちは提案していきました。2011年4月、車集めから活動を始め、全国から善意で寄せられた中古車をカーシェアリングが必要な方々に届けていきました。
私たちは現在、約65台の車を運用して、被災者の方々、支援者の方々、仮設自治会等で活用しています。私たちのカーシェアリングは都市部でレンタカー事業者の行っているカーシェアリングとは少し違います。まずは、車を一緒に使いたい人同士でグループを作ってもらい、責任者を決めてもらいます。そのグループに協会名義の車を貸し出します。私たちは使用料を頂きませんが、車に係る経費実費(燃料代・メンテナンス代・保険料・車検・自動車税等)をそのグループに支払っていただきます。予約の仕方、経費の捻出方法、鍵の管理について等はその代表の方中心にグループ毎に話し合って決めてもらいます。
例えば、予約の仕方だけでも専用のノートを集会所のドアに設置してそれで予約を管理する所もあれば、曜日毎に利用を決めている所もあれば、電話で連絡し合って使っている所もあります。要はオリジナルなスタイルのカーシェアリングがそれぞれ行われているのです。
その自由度の中で、利用者の方々と接しながら、グループに応じた私たちなりの提案を行い、住民同士の送迎活動、定期的な掃除等の他の地域活動、更に利用者たちが中心となって自治会を結成していくようなコミュニティ活動が育まれるようなサポートを行ってきました。
今年の夏から三菱自動車工業様から電気自動車(i-MiEV)6台(後に2台追加)をお借りして、EV(電気自動車)カーシェアリングを3箇所の仮設住宅自治会で始めました。この瞬間から様々な社会貢献の可能性が私たちの活動の延長線上に生まれました。
例えば『防災』。EVを使い始めたある仮設自治会が10月にEVから電気を取り出すデモンストレーションを防災訓練の際に行いました。石巻をはじめとする被災地では、電気のない生活の辛さを身に染みて体験しています。その経験を踏まえ、こういった訓練が他のいくつかの自治会でも行われるようになれば、行政によるEVを活用した給電体制の整備に向けた素地が生まれてきます。
他にも『エネルギー』、『インフラ整備』、『技術・教育』といった分野でも貢献できる可能性があると私たちは考えています。現在は、その具体的な準備を進めている段階です。
この取り組みを通じた私たちの目的は明快です。『石巻に市民型カーシェアリングの雛形を作る』ことです。その取り組みの中で最初から照準に置いているのは、『災害公営住宅でどのようなカーシェアリングを実践するか』です。
大きいことを掲げていますが、なにを隠そう、私たちは、『ど』素人集団なのです。その筆頭が私で、震災時はペーパードライバー。車に関して全く縁のない、ましてや『カーシェアリング』という言葉なんて一切聞いたことのない人間でした。私以外のスタッフは全員地元の方々ですが、カーシェアリング利用者のおじさんやおばさん、地元の新卒の若者といった感じです。気持ちと地元パワーとたくさんの応援のおかげで何とかここまで辿りつきました。
これまで私たちが辿ってきた珍道中と描いている夢を全6回の道中記の中で紹介していきたいと思います。そして、現在進行形の私たちの旅路にぜひアドバイスや具体的な参画をいただけると嬉しいです。
連載は2ヵ月に1回ですので、私が最終の原稿を書くのは、約1年後になります。変化し続ける私たちにとって1年という時間は、非常に長い期間となります。さぁ、最終回の原稿を書くときに私たちがどのような風景を見て、どのような文章を綴ることになっているのか、私自身、今から楽しみです。
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