鳥取環境大学では、1,2年生を対象にして「プロジェクト研究」という授業を行なっている。教員が、それぞれテーマをかかげ、学生が、その中からやりたいテーマを選び、教員のサポートを受けながら、自発的に追求していく、という内容である。
あるプロジェクト研究で私は、「関係機関と交渉して鳥取環境大学の前の道路に『タヌキ注意!』の標識を立てよう!」というテーマを挙げ、集まった学生達(5人いた)をサポートした。
そのテーマを挙げた私の思いは次のようなものであった。
鳥取環境大学は、「環境問題の改善のために必要な知識と実践力を育む」ことを目標としてつくられた大学である。だからこそ、知識だけの学習や、言葉での提案づくりだけに終わるのではなく、学生達に、自分の手で、地域の環境問題の改善に向けた行動を実践する体験をしてほしい。「自分も意志をもって行動すれば変化を起こすことができる」ことを実感してほしい。
私は、大学に勤務しはじめてから、大学の道路でときどきタヌキが車にはねらることがとても気になっていた。車にはねられ、怪我をしたタヌキを2匹保護したことがある。1匹は重傷で、病院で手術をしてやっと助かった。1匹は比較的軽症で、一週間ほど世話をしただけで野に戻してやることができた。ちなみに、そのタヌキには、発信機を取り付けさせてもらい、人工衛星で信号を受信して移動ルートを調べる調査も行なった。タヌキが大学の前の道路を横切るまでのルートを知りたいと思ったからである。
そんな基礎データを学生達に提供し、さて、どうしたら『タヌキ注意!』の標識を立てることができるかを考えてもらった。
学生達は手探りで、インターネットなども利用しながら目標に近づいていき、国土交通省の鳥取河川国道事務所を訪ねることが決まった。“当局”に道路標識の設置の必要性を納得させるためにはどんな資料が必要かも話し合った。そして、学生は、私と一緒に事務所に行き、職員の人達を前に(緊張しながら)説明したのである。
幸い、事務所の人達は学生達の説明を熱心に聞いて下さり、標識設置について前向きに検討すると約束して下さった。学生達は喜んだ。
それからしばらくして事務所から標識設置がほぼ決まった、との連絡があった。そして、設置の場所や方法について、一緒に考えてほしいとの要請があり、数日後、学生達は、大学に来られた事務所の人達と合流して道路に向かった。
国交省鳥取事務所の方々から、「標識の高さの制限」や「警察関連の標識との関係」などについて教えてもらい、学生達はひとつの標識にもそんな配慮があったのかと感心しながら(私もそうだったが)聞いていた。
そして、その1週間後、いよいよ看板が設置されることになった。最初、学生達でつくりたいとの希望を事務所側に出したが、あまりにも値段が高くつくので、「事務所のほうで用意しましょうか」とのご好意にホイホイ乗ることにした。結局標識は3つ立てられ、鳥取県の新聞も大きく記事にしてくれた。
その看板が実際どの程度効果を持つのかについては少し長い期間のモニタリングが必要である。しかし、私は次のように学生達に話したのである。
「とても小さなことだけど、君たちは確かに、野生動物を守ることにつながる変化を生み出したのだ。あの看板があることで、少なくとも地域の人は、道路は人間だけのものではなく、そこや野生動物達の暮らしの場であることに思いを馳せてくれるに違いない」
我ながら素晴らしいまとめだったなー。
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