これまでスマート・ハウス進展の流れを情報通信技術(IT)と融合したエネルギーマネジメントの仕組み(HEMS)、エネルギーの自給自足、既存技術や伝統技術との融合、デジタル家電とのライフスタイルの進化についてと、どちらかといえば個人の生活基盤の変革を中心に紹介してきました。今回はまとめとして、このようなスマート・ハウスの進展が社会的にどんな展開になっていくのか、その可能性について触れてみたいと思います。
「結論」というよりも現状の流れから推測すると、スマート・ハウスを要素とする「スマート・コミュニティ」から「スマート・シティ」へと進展し、最終的には持続可能な社会モデルとして期待される、社会全体がスマート化された「スマート・ソサイエティ」へと変革していくことに大きく期待できます。そして、既にそういった方向への具体的な動きが確実に出てきています。独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)の下で官民一体となって「スマート・コミュニティ」を推進する「日本スマートコミュニティ・アライアンス(JSCA)」が設立(2010年)され、400を超える企業、大学・公的研究組織、地方自治体などが参加しています(2012年12月現在)。
JSCAは、一定規模の地域におけるエネルギーの自給率や利用効率の向上を視野に入れて再生可能エネルギーの大量導入をしたりスマートグリッドに代表される地域分散型需要制御を実現するための課題解決に対して協働したり、さらに国際的な展開について検討したりすることを目的にしています。
コミュニティを拡張した「スマート・タウン/シティ」というコンセプトについても、昨年、横浜でスマート・シティに関する国際会議「Smart City Week 2012」(2012年10月29日?11月2日、パシフィコ横浜)が開催されるまでになりました。国際会議では、スマートグリッドというエネルギー技術だけでなく、運輸や通信、廃棄物処理などの社会インフラ、さらに人の意識や行動、法規制の変革までを含めた全体最適を目指すことの必要性が強調されています。当然、そこにはスマート・ハウスでも必須だったセンサーネットワークとICT(情報通信技術)が重要な役割を担い、分野横断で膨大な情報を集め、新たな都市サービスを開発することが、スマート・シティの実現の鍵になるとの見解が示されています。
すでに横浜市、豊田市、けいはんな学園都市、北九州市の4地域でスマート・シティの実証実験が開始されており、産官学の協働の下で具体的な技術開発や課題解決の検討が進められています。
このような動きに対応して、個別企業の動きも活発になっています(図表1)。各社の検討は、エネルギー・食料・水の自給率向上、食料や水の安全安心度の向上(トレーサビリティの確保)、医療の充実、交通の利便性向上、セキュリティの確保、世代間交流の活性化など、幅広い応用の可能性を示唆し、それらを実現するための情報通信技術を含めた技術開発が積極的に進められています。そして、こうした動きの中で、すでに新たな住宅開発地域として販売されている事例も出てきています(図表2)。
高齢になってからの生活をいかに充実させるか、そんな問題意識に対してもスマート・コミュニティには大きな可能性があります。エネルギーや食料の自給率を高めた安全・安心な生活空間で、同世代の高齢者がそれまでのビジネス関係とは異なった新たな関係作りをすることによって、過去の経験を活かした文化的・知的な活動を自ら創り出し、充実した第二の人生をおくる可能性が高まります。あるいは自分たちで生活用品を創ったり食材の一部を自給するために家庭菜園で農作業をすることによって、健康的で充実した生活基盤を得ることもできます。
また、近隣に幼稚園・保育園、学童保育園などを設置することによって子どもたちと高齢者との交流が活性化すれば、高齢者が人生経験で蓄積してきた知恵や技術を活かした次世代への教育効果も期待できると共に、文化や伝統を伝えていくことにもなります。
このように、スマート・ハウスという「家」単体の“賢さ”の追求は、その先にある地域や街などのコミュニティへ、さらには社会全体、国の持続可能性にまでつながる大きなまた長期の変革の始まりです。
2011年3月11日の東日本大震災からの復興では、スマート化構想の導入を検討する絶好の機会になり得ます。過去と同レベルに戻す「復旧」ではなく、持続可能な社会の先進モデルとなるスマート・ソサイエティへの「復興」への強い願いを込めて、この連載を結びたいと思います。
一年間、お付き合いいただき、ありがとうございました。
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.