天然住宅の標語は「森を守って健康、長持ち」です。そもそも森を守れるしくみが作りたいのです。ここ数十年、木材は輸入品が大半を占めています。しかもそのなかには不法伐採の木材だったり、そうでなくても相手国の森を壊してしまったりしているものも含まれます。
輸入をしている日本は世界でも有数の森の国。なのに、使われないために手入れができず、森を荒らしてしまっています。日本の地方の最大資源は森なのですから、それを利用して人々が生きられるしくみが作れるはずです。
同じ木材でも価格は大きく違います。家具材や建材は高いですが、ベニヤ板になると安くなり、チップでは著しく安くなってしまいます。森を活かした産業をつくるには、消費量が多くて価格の高い住宅用の建材に使うしくみが必要でした。しかし、建てて30?40年で寿命がきてしまう現在の使い捨てタイプの住宅は、木材の生長にすら追いつきません。
また、いくら良い品を作っても売れなければ絵に描いた餅です。住宅を購入する側にとっても有益な商品であることが必要です。
その点、天然住宅は長持ちする住宅ですし、健康に問題あるものは一切使いませんから安心です。住宅を建てる人にとっても、森を育てる人にとっても、どちらにもメリットのあるしくみが作れました。
購入者の視点やニーズを重視した商品企画開発を「マーケットイン」と言います。天然住宅ではそれをさらに一歩進めて、「自分が手入れした森から、自分が選んで伐採を手伝った木材の家に住む」とか、「地方の森林や木材会社を支援しながら、同レベルのものより価格が安い家に住む」というフェアトレードのような満足感のある住宅づくりを進めてきました。
それでも私たちのめざすしくみは、まだまだ未完成です。2011年3月には、東日本大震災に伴って原発事故が起こり、関東・東北圏に広く放射能が降り注ぎました。それは木材に入り込んで、木材自体の汚染を引き起こしています。
私たちの組んでいる「くりこま木材」はたまたま汚染を免れましたが、だからといって他地域もほっておけません。そのため木材から放射能を抜く技術を開発しようとしています。
この原発事故の現実は、大規模集中型のエネルギー利用の不安定さと危険性を示しました。地域でエネルギー自給できるしくみ、さらに家は省エネで、電気やエネルギーを家で自給できるしくみも必要です。
また今後、高齢化が進みますからバリアフリーが重要になります。一方、森で使われなかった木材は太く育っています。それならば大口径の木材を使って、柱の少ない広々とした間取りの住宅を開発する。今、バリアフリーで消費エネルギーがゼロになる住宅を実現しようと努力しています。
幸い公的機関から助成を受け、早稲田や埼玉、名古屋などの各大学の研究者と組みながらこうした研究を進めています。そこでの率直な話し合いは、たくさんの新たなアイデアを生みだし、実際のデータで裏付けできるようになってきました。「この住宅に住めば、少なくとも『衣食住の住』の費用は心配いらない」といえる住宅を実現したいのです。
天然住宅の設計士・相根(さがね)さんは、長年健康な住宅の設計に携わってきました。私は市民が作るNPOバンクを長年続けてきた環境活動家です。その二人が出会って【1】始めたのが天然住宅のプロジェクトです。非営利で進めることで、多くの人たちに可能性があることに気づいてほしい。各地で森を復活するしくみを進めてほしいのです。可能性のあることに気づくと、どんな大変な努力も楽しいものになります。前向きに走るとき、併走する関係者は仲間になっていきます。たくさんの人がこの仲間に参加してくれたら、私たちは新しい社会を実現できるのではないかと思うのです。
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